笑顔の破壊力 lv.115
「わかった、夕飯の前にお風呂に入って寝る準備終わらせとこうか」
その後、私達はお風呂に入り、ジェイナが部屋まで持って来てくれた夕飯を食べ、キュインをして眠った。
朝起きて、枕元に置いた時計を見ると、七時二十五分だった。
隣のベッドを見ると、オルレアは起きているようで既にいない。
私がクロエに売ったのは目覚まし時計だったが、販売してある物は目覚まし機能の無い時計だ。
この後、目覚まし機能のある時計が売られると、私も間違いなく欲しくなるだろう。
部屋にある鏡を見ると、髪も目も元の色に戻っている。
部屋を見回すが、オルレアの姿がない。どこかに行っているようだ。
私が着替えて顔を洗っていると、部屋の入り口からガチャッという音が聞こえ、見ると、オルレアが部屋に帰ってきた所だった。
昨日買った眼鏡はかけなかったようだ。
「あ、レイちゃんおはようございます。六時に起きてしまったので、少し庭園をお散歩しに行っていました」
オルレアは植物で癒されたのか、雰囲気がほんわかしている。
私は眼鏡をかけ、オルレアに向き直る。
「楽しかったみたいだね。オルレアも髪と目の色が戻ったみたいでよかったよ」
「はい! 植物達と沢山お話をして癒されました。髪と目に関しましては、色が戻らなければどうしようと考えてしまっていたので、本当に安心しました」
オルレアは嬉しそうに答える。
「色も戻ったし、今日は食堂で食べようか」
と私が言うと、オルレアは笑顔で、
「はい! では行きましょう」
と言い、いつものように私の手を取り歩き出した。
部屋を出るとジェイナがいた。
「レイル様、おはようございます。食堂へご案内いたします」
オルレアとは既に挨拶を済ませているようだ。
私達はジェイナの後ろを歩く。
すぐに食堂に着き、ジェイナが扉を開けてくれた。
私達が食堂に入ると、アーク、ゼン、ダンと魔人三人が席についていた。
「おはようレイルちゃん、オルレア。今日は食堂なんだね! 食事が終わったら、『九時』に迎えにいくから、ちゃんと支度しててよ」
ゼンは『九時』を強調した。
覚えたての時間を言いたかったらしい。
私は微笑ましくなり、
「わかりました。ちゃんと出かける準備は終わらせておきます」
と笑顔で答えた。
その瞬間ゼンは驚いたような表情をしたが、すぐにこちらに笑い返した。
「レイルちゃん、時計は本当に素晴らしいよ。この世界に持って来てくれてありがとう」
ゼンの目は澄みきっており、心の底から感謝されているのがわかる。
「たまたまあった物を持って、クロエの所に行っただけなので、お礼ならクロエにお願いします」
私は、皆に挨拶をしてから、オルレアと席についた。
すると、すぐに料理が前菜から運ばれてくる。
ヨウリに、一品ずつにしてほしいとお願いした日から、食堂で食べる日は、一品ずつ出されるようになった。
「あの時計は、レイルさんがこちらの世界に持って来た物だったんですね。ボクらは所有してた魔力石を国へ売ったら、沢山ラルをもらったんで、昨日、三人で時計を買いに行きました」
イシスが無表情で、嬉しそうな声で私に話しかける。
真剣な話でもなく、長文なのに、言葉を間違えていないのは初めてかもしれない。
ゴウカでの戦いの時、イシスだけが魔力石を持っていた。回復に数個使っていたが、まだまだ残っていたようだ。
貰ったラルは三人で分けたらしい。
だが、ゴウカで落ちた魔力石は数千個にも及ぶ。
その全てにそんな価値がついたら、市場が混乱するのではないだろうか。
時計に魔力石を使っているクロエは、ラルをどれだけ出したのか……。
「そうなんだ。ゴウカの魔力石は値段がつかないみたいな事を聞いたけど、ちゃんとラルを貰えたなら良かったよ」
私が言うと、
「それについてはわたくしがお答え致します。ゴウカの魔力石に関しましては、全て国の所有となり、ラルは国から出せる限界を魔人達に支払いました。大変貴重ですので、この先ゴウカの魔力石が個人に渡る事は無いでしょう」
ダンが、ゴウカの魔力石について答えてくれた。
「あんだけでかくラルが動くなら、流石に他に渡す訳にいかねえだろうな。サモラ王国はオルカラ王国を自分の手で裕福にしちまったんだぜ! 笑えるよな!」
ジェットがケラケラと笑っている。
「でも、その魔力石の源は、サモラ王国とオルカラ王国の人々の命なんだろ? それを考えると、グランは個人に魔力石が渡らなくて良かったと思うんだろ?」
グランの言う通りだ。
ゴウカに現れた魔物は、サモラ王国の人々を犠牲にして召喚され、オルカラ王国の人々を犠牲にして増殖した。
そんな曰く付きの魔力石を、個人が所持するなど許されないだろう。
「でも、時計の裏に魔力石が付いてたよな? 国の所有ならお母様の所に魔力石があるのはおかしくないか?」
アークが疑問を口にした。
「時計のことかい? クロエは一つだけゴウカの魔力石を買い取ったんだよ。その限界までラルを出してね。時計はこの世界に必要な物になるだろうから、恐らく、これからクロエにラルを返して、時計の為の魔力石は国から支給される事になると思うよ」
ゼンがニコッと笑って言った。
アークは安心したような表情で笑い、頷く。
まさか本当に買い取っていたとは……。
それだけ時計に可能性を感じていたのだろう。
「クロエ様であれば、そうなる事を予想していたのかもしれませんね」
ダンが笑顔で言った。
それから、皆で食事をしながら時計について話していると、この国に時間という概念が生まれたと、各街でお祭り騒ぎになっていることがわかった。
「細かい時間がわかるようになった事で、色んな分野で今まで困っていた事が解決しそうですね」
オルレアが言うと、
「実際に、店や学校からの注文が殺到しているみたいだよ。これから、魔力石を供給する代わりに、売り上げの何割かを国が貰う事になるだろうから、もう時計は国家事業ともいえるかもね」
ゼンは嬉しそうだ。
そして、満面の笑みを見せ、
「実際、魔力石は国じゃなくて、ここにいる皆のおかげで手に入った訳だから、本当はそれ相当の報酬があっても良いはずなんだけど、君たちはラル、いらないでしょ?」
と言った。
私は、クロエから十分なラルを貰っているから、更にラルが欲しいなどとは思わない。
皆の様子を見ると、ゼンの質問に頷いている。
なんて欲の無い人達なのだろう。
「あ、ゼン様、クロエに聞き忘れてしまったんですけど、戦闘服と腰袋はどうしたら良いですか?」
クロエに会ったのにすっかり忘れていた。
「それならあげるよ。クロエも元からそのつもりだろうから、次に会ってもあえて聞かなくても良いかな」
ゼンが答える。
戦闘服がすごい物だという事はわかるが、持っていても仕方がない。だが、記念にもらう事にした。
「腰袋は皆の物と繋がってるんだよな。あんまり使い道が無さそうだ」
アークが言うと、
「誰かに何かを渡したい時などに腰袋に入れ、魔道具や思話で連絡をすると、すぐに相手に渡す事ができますね」
ダンが使い道を提案した。
それを聞きアークの表情がパッと明るくなり、嬉しそうにダンにお礼を言った。
「大神官様、今日のお話は裁判とルルさんの事ですよね?」
オルレアがゼンへ真剣な目を向ける。
「そうだよ。だから、しっかり心の準備をしておいてよ」
オルレアとは裏腹に、ゼンは軽く返した。
「俺らは呼ばれてねえが、お前らの大事な人だったのは知ってんだ。とにかく上手くやれよ!」
ジェットが私達を応援してくれている。
「ボクらもゼンさんに行きたいってお願いしたんですけど、断られちゃったんですよね。本当に無残です」
イシスが言うと、
「無残ですじゃなくて、残念ですなんだろ? グランも手伝いたかったんだろ? 無事に呼び戻せる事を祈っているんだろ?」
この三人は本当に優しい。
「皆さんありがとうございます。絶対にルルさんを呼び戻します。私の魔力を全て使っても絶対にです!」
オルレアは決意を固めたようだ。
オルレアの魔力量は膨大だと聞いている。
全て使う事はそうそう無いだろうが、そこまでルルを想ってくれているのだと嬉しくなった。




