笑顔の破壊力 lv.114
「そういえば、ルルが、聖剣は戦いが終わると消えて元の場所に戻るって言ってたんだけど、アークが持ってるのは消えてないね」
私は、気になっていた事を二人に言ってみた。
私が聖剣に挑もうとしていた時にルルが、
『大きな戦いが起こる時代、その時の勇者によって引き抜かれ、戦いを終わらせると消失し、またこの場所に突き刺さっているという不思議な剣です』
と聖剣について私に説明してくれた。
だが、ゴウカの戦いが終わっても、まだアークは聖剣を持っている。
「まだ戦いが終わっていない……という事ですか?」
オルレアは顔を強張らせた。
「それはないと思う。元凶も捕えたんだし、これ以上何も起こり得ないよ」
私は自分に言い聞かせた。
ゴウカでの戦いは終わったはずなのに、聖剣が消えない……これから違う脅威がオルカラ王国を襲うのか、という不安が頭を過ぎる。
「俺もそう思う。聖剣が消えない原因があるとしたら『神力』だろ」
アークは当たり前かのように言った。
神力はアークにしか見えない。聖剣は魔力では無く、神力を纏っている。
今存在している聖剣は、アーク以外には扱えない。
「そう言われるとそうだね。聖剣が纏う神力が無くなるまでは、消えないのかも」
私が言うと、
「そういう事でしたか……また何か起こるのかと、ドキドキしてしまいました」
オルレアはホッとしたように、胸に手を当てる。
「もう戦いは起こらないだろうが、ゴウカの戦いでも神力を吸収したから、聖剣はしばらく消えないだろうな」
そう言って、アークはカップを持ち上げ、お茶を飲んだ。
そこから、私達はたわいもない話をしながら食事をし、気が付けばお皿が空になっていた。
「もう食べ終わったよね? そろそろ帰ろうか」
と私が言うと、オルレアとアークは頷き、立ち上がる。
会計をしようとカウンターの方まで行くと、
「ここは俺が連れて来たから、俺が払うよ」
と言って会計をもってくれた。
……スマートだ。
店を出ると、まだ外は明るい。
「そろそろ王宮に戻ろうか。時計……気になるよね?」
私は、自分が今ニヤけているのがわかる。
「先ほどから時計が気になって仕方ありませんでした。早く戻って眺めたいです」
オルレアが興奮気味に言うと、
「俺も早く見たい!」
アークもソワソワしている。
だが、問題がある。
「『黒の輪』を使うのは良いんだけど、着く場所が王宮の門の前なんだよね。門番さん達にバレると報告されるかもしれない」
私が言うと、
「それは大丈夫じゃないか? ジェイナが黒の輪を提案したって事は何か策があるんだろ」
アークはサラッと言うが、大丈夫なのだろうか。
「確かにそうですね。それに、今頃は皆さん裁判に出席されているんじゃないですか? ここはジェイナを信じて戻ってみましょう」
裁判は判決を言い渡すだけだ。すぐに終わるだろう。
それでも、オルレアは恐らくなんの根拠もなく、自信ありげだ。
だが、ジェイナが私達にリスクを負わせるはずがない。
「そうだね。ジェイナを信じよう」
私は、黒の輪をバッグから取り出し、ボタンを押した。
少しの浮遊感の後、いつものように王宮の門の前に着地する。
『おかえりなさい』
二人の門番が笑顔で門を開けてくれた。
すると、私達の前にジェイナが現れた。
どうやったのかはわからないが、私達が帰って来た事がわかり、ワープして来たようだ。
「皆様、おかえりなさいませ。早速ですが、アーク様もご一緒に、お二人のお部屋へワープしていただきます」
と言って、手をパンッと叩くと、黒の輪と似た浮遊感があり、私達は部屋にワープした。
部屋に着くと、私達はジェイナにお礼を言い、ソファに座って早速時計を取り出した。
この世界では、商品を箱や袋に入れる文化が無いため、基本的に買うとすぐにマジックバッグに入れる。
箱を開けるワクワクが無いのは残念だ。
すると、
「あのさレイル、さっきのセンリへのサインだが、書いてくれるか?」
申し訳なさそうに色紙を取り出し、アークがこちらを見ている。
私はニコッと笑い、
「当たり前に書くよ。あれだけ人から好かれる事もそうそう無いし、嬉しかったから」
私はバッグから、『スライドペン』を取り出した。
「『センリへ』で、私の名前書くだけで良いかな?」
色紙に、『センリへ、レイルより』と書いた。
手紙なのかサインなのか自分でもわからない。
それをアークに渡すと、アークは文字を見て笑い、色紙をしまった。
私達は、念願の時計と説明書を、テーブルに広げ話し合う。
二人は感動した様子で、説明書を読み込み、時折、外を見て時星の話をしている。
外を眺め、太陽の位置と時計の時間が合っていそうだとわかると大興奮していた。
それにしても、この世界で時間をきっちり調整したクロエには脱帽だ。
気候等を考えても、前の世界よりはわかりやすいだろうが、簡単にできる事ではない。
プラスチックに変わる素材は、金属に感触は似ているが、冷たくなく軽い、時計にうってつけのものだ。
秒針の、カチッカチッという音が、耳に心地よく、懐かしい。
まさか、たまたま売った時計が役に立つ日がくるとは……。
こういう時は、運命を信じてしまいそうになる。
淡いピンクの時計を見つめていると、私が持つには可愛すぎるのでは、と少し恥ずかしくなった。
「今は、四時三十分ですね。あれ? 一周回ると数字が連続するんでしたっけ? では、十六時三十分ですね」
オルレアは時計の針を読めるようになり、ご機嫌だ。
アークは説明書をまじまじと眺めている。
「楽しすぎるだろこれ。なんだよ時計って! 凄すぎるだろ!」
今まで見てきた中で、アークが一番子どものように見える反応だ。
キラキラ目を輝かせ、ガチャガチャと時計をいじくり倒し、説明書の隅々まで一文字も逃さぬようジッと眺めている姿は、オモチャを与えられた小学生のようだ。
なんて可愛らしいんだろうか……。
いや、男の子に対して可愛らしいは失礼だ。
「オルレアはもう覚えたみたいだね。凄いよ」
私が言うと、オルレアはニコニコと笑いながら、
「本当に素晴らしくて……私も、アークさんと同じように、楽しんでいる内にわかるようになっただけですよ」
と言ってアークを見た。
アークはまだ、時計の読み方がわからないようだ。
だが、凄く楽しんでいる。
「アーク、時計の読み方教えようか?」
私はアークに声をかけた。
「いや、説明書があ……ああ、教えてくれ! 説明書じゃ全然わからないんだ」
初めて見る物で、戸惑っているのだろう。私は立ち上がり、アークの隣に座った。
そして、細かく時計の説明をする。
「わかった? 覚えれば簡単でしょ?」
と私と逆の方を向いているアークに聞くと、
「わかった! よくわかった! もうレイルがそっちに戻っても大丈夫だ」
焦った様子で言うアークを不思議に思いながらも、私はオルレアの隣に戻った。
「もう裁判終わってるかな」
「早い『時間』に終わっているのではないでしょうか」
私の質問に、オルレアは覚えたばかりの『時間』という言葉を使って、得意気にこちらを見ている……可愛い。
「話聞きに行きたいけど、この見た目じゃ食堂には行けないね」
私は、少し残念に思いながら言うと、
「ルルの事もあるし、明日にでもまた呼び出されるだろ」
アークが、時計をいじりながら答えた。
私が王様に望んだ褒美は、ルルを呼び戻す為に、力を貸りる事だ。
さすがに、後回しにされる事は無いだろう。
「もしかしたら、明日……ルルと会えたりするのかな?」
私は目頭が熱くなったが、ぐっと堪えた。
「大神官様の計画を聞いてみないとハッキリとはわかりませんが、恐らく簡単に呼び戻せはしないと思います。」
オルレアは真剣な顔で言った。
それはそうだ。ルールを破って消えてしまった神の子と簡単に会えたら、ルールの意味が無くなってしまう。
恐らく、ルルを呼び戻す『対価』が必要になるだろう。
「もう『時間』も遅くなって来たし、俺は部屋に戻るよ」
アークは、時計を見ながら嬉しそうに言った。
私の話をあまり聞いていないように思えていたが、ちゃんと時計が読めるようになっていたらしい。
アークが部屋を出て行ってすぐ、
「レイル様、オルレア様、大神官様が明日の朝九時にお部屋までお迎えに来てくださるそうですので、それまでにご準備をお願い致します」
ジェイナが言った。
誰かと思話で話していたらしい。
時間が指定されていると、用意がしやすくて助かる。




