笑顔の破壊力 lv.112
部屋を出た所で、アークが立ち止まっている。
「どうしたの?」
私が聞くと、
「ここからニライの中心街は、少し距離があるだろ? オルレアが歩くにはキツいと思って、どうするか考えてたんだ」
確かに、私とアークならば問題ない距離だが、オルレアは辛いかもしれない。
「歩けます! しっかり着いていきます!」
オルレアは、足手纏いになるまいと必死だ。
「そもそも、王宮内をこの格好で歩いているのを誰かに見られたら、怒られそうだよね……」
私達は街に出てはいけないと言われている。
「レイルの『白の輪』で家まで行って、そこから歩くのはどうだ? ここよりは近いだろ」
これは良い提案だ。実際にオルレアと歩いた事がある。話しながら歩いているとあっという間だった。
「お父様に見つかってしまいます……こんな私の姿を見ると、誰かに共有しようとされるでしょう……」
オルレアは、ヴェルデが親バカを発揮して、黒髪の娘の可愛さをゼン達に言うかもしれない、と言いたいらしい。
それはありそうだ。
前に、ローズの事を自慢しだした事があった。あの調子なら、オルレアの事も同様にペラペラと話すだろう。
私とアークが、憐れみの目でオルレアを見ていると、
「皆様、私がワープで、ニライの中心街までお連れいたしましょうか? お帰りは、『黒の輪』をお使いいただけたらと思います。ただ、『白の輪』のワープ場所が変わってしまうので、それでよろしければ、ですが」
ジェイナが私達に提案する。
「別に問題ないよ。お願いして良い?」
「かしこまりました、準備は良いですね。では、行ってらっしゃいませ」
そう言うと、ジェイナは手をパンッと叩いた。
少しの浮遊感があり、地面に足がつく。
どうやら、ニライの中心街に来たようだ。見た所、何処かの店の裏側にいるらしい。
「あまり目立たない所に送って下さったのですね。ありがたいです」
オルレアが言った。
「ここは、お母様の雑貨屋の裏だな」
アークは建物を見て、すぐにわかったらしい。
店の表側に回ると、長蛇の列が出来ているかと思ったが、まだ朝早いため、中心街自体にあまり人がいない。
クロエの店の前に、看板が立てられているのを見つけた。
『時計は魔道具屋にて販売させて頂きますので、お求めの方は魔道具屋までお越しください』
時計の販売場所が変更されているようだ。クロエの店はあまり広くなく、大人数に押しかけられると対応出来なくなる事を考慮したのだろう。
私達が魔道具屋に行くと、既に十名が並んでいた。
その内の七名が眼鏡をかけている。本当に流行っているらしい。
「眼鏡の人……いたね」
私が小声で言うと、
「皆がかけてたら目立たなくて良いな」
アークも小さな声で返す。
「眼鏡も売っているのでしょうか。楽しみですね」
オルレアは嬉しそうに言った。
魔道具屋が開店するのを待っていると、店主が店から出て、開店を告げた。
前の人達が店に入り、私達も続く。
店内に入ると、魔道具よりも時計の方が多く置かれているように見えた。
模様こそないが、色とりどりの時計が沢山並んでいる。
何故か、ピンクの割合が異常に多い。
眼鏡は、まだ私がかけているシンプルな物しか無いようだが、時計の隣に並べられている。
前に並んでいた人達が、次々と時計を買っていく。
「いらっしゃいませ、レイル様」
横から、クロエの声がした。
驚いて振り返ると、クロエが笑顔で立っている。
「私、変装してるんですけど、なんで分かったんですか?」
私は小声で問いかける。
「ふふふ。私が『鑑定士』である事をお忘れですか? 魔力の気配で人物を特定するのは得意なのですよ」
クロエはにこやかに答えた。
私は、クロエを見て、時計と眼鏡の事を思い出した。
「あの、意図した訳じゃないのはわかってるんですけど、眼鏡と時計をクロエが販売してくれたお陰で、スムーズに事を進められてるので……ありがとうございます」
私が言うと、クロエは驚いたような表情をしてから、私に笑いかけた。
「お母様か……やっぱバレるよな……」
アークはがっかりしたように言った。
「こんにちは、ローレン夫人。今日は時計を買いに参りました」
オルレアがクロエに挨拶をする。
「こんにちは、オルレア様。ゆっくりご覧になってください」
そう言うとクロエは、こちらに向かって頭を下げ、戻って行った。
「魔道具屋の皆さんが居てくださるなら、お手伝いは不要がしれませんね」
オルレアが言った。
「混みだす前に、早く選んで買おう」
私は二人に言って、三人で時計売り場の前に来た。
「なんか、ピンク多くねえか? もっとバランス良く置いたほうが良いだろ」
アークも、時計の色が気になるようだ。
「そうですね……異様にピンクが多いですね……」
オルレアも時計を眺めながら言うと、私達の後からきたお客さんが、ピンクの時計を二つ持ってカウンターに向かった。
その後も、私達が色で迷っている間に次々とピンクの時計が売れていく。
時計を手に取った人は皆、その近くに置いてある紙も一緒に取っていた。どうやら、時計の説明書のようだ。束になって置いてある。
時計の前には、それぞれの色の名前が書かれていた。
ピンクの時計は……『英雄カラー』と書いてある。
「わあ! レイちゃんのイメージカラーだからこんなに人気だったのですね!」
オルレアは大興奮だ。
「俺は赤にするよ」
アークは赤い時計を手に取った。
赤い時計の前には、『勇者カラー』と書かれている。
戦闘服に合わせたアークの腰袋の色だ。
「では、私は緑ですね」
オルレアは嬉しそうに、緑の時計を手に取る。
『聖女カラー』だ。
「私はやっぱりピンクにしようかな。そういえば、前に来た時に、ピンクのキュインが無かったんだよね。次行った時にあったら買っておきたいと思ってたんだ」
私はキュインの売り場を見たが、ピンクのキュインはまだ売り切れだった。
「その時も、レイルの影響で無くなってたんじゃないか?」
アークが、小さな声で言ってきた。
そう言われるとそうかもしれないが、自分でそうだとは言えなかった。
オルレアの方を見ると、既に会計を済ませている。
「レイちゃん! これでお揃いですね」
こちらを振り返ったオルレアは、眼鏡をかけていた。
あまりにも似合いすぎている……。
「本当に何でも似合うんだね。可愛い」
私が言うと、
「レイちゃんに褒めていただけると嬉しいです」
とオルレアは嬉しそうに答えた。
この間にアークも時計を買ったようで、ニコニコとしている。
私はピンクの時計を手に取り、裏を見ると、赤いキラキラしたものがはめ込まれていた。
「これは魔力石?……すごい」
私は、クロエが何を電池代わりにするのか気になっていたが、【ゴウカの魔物】の魔力石を大量に仕入れたようだ。
魔力石は魔道具に使えると聞いたが、ここでゴウカでの戦いが生きてくるとは思わなかった。
時計に使われているのは、実際の魔力石を砕いた小さな一欠片程の大きさだ。
時計が動かなくなったら、この魔力石の欠片だけを購入する事ができるらしい。
「本当に商売上手ですね。商才でローレン夫人の右に出る者はいなさそうです」
オルレアは目をキラキラとさせ、感心している。
ふと、時計売り場を見ると、オレンジ色の時計も売っていた。それには『神の子カラー』と書いてある。私はそれをルル用に買う事にした。
男性は、青色の『大神官カラー』を買っている人が多いようだ。
私も会計を済ませると、店を出た。
店の外には、時計を求めて、沢山の人が並んでいる。
「早めに来て良かったな……」
アークが呟いた。
「レイちゃんのお家に寄るわけにいきませんし、今からどうしますか?」
オルレアが聞いてきた。
帰るには少し早い。
「どこかでお茶してから、お昼食べて帰らない?」
私が言うと、
「じゃあカフェでも行くか。カフェだが、飲み物だけじゃなくて、料理も美味しい所を知ってるんだ」
アークが自信ありげにアピールする。
「中心街だけでも何軒かカフェがあるから、色んな所に行きたいと思ってたんだ。オルレアもアークのオススメのお店で良い?」
私はオルレアの方を向いた。
「はい、行きましょう」
オルレアは笑顔で答えた。




