笑顔の破壊力 lv.111
「今の間に植物達の所に行こう。皆、水を欲しがってるかもしれない」
私は少し焦りながら行った。
今日は、朝から植物達の世話をしに行けていない。
すると、オルレアが固まった。
始まった……思話だ……。
意外にも、二十秒程でオルレアは表情を戻した。
「お父様が、植物達のお世話をしてくださるそうですので、こちらにいる間はお休みしましょう」
私が焦るのを見て、ヴェルデに相談してくれたようだ。
「ありがとう。じゃあお言葉に甘えようかな……」
私が言うとオルレアは笑顔で頷いた。
コンコンッと扉がノックされ、返事をすると、
「昼食をお持ちいたしましたが、こちらは少し待つ事で、美味しく食べられるものになっております。待っている間に、お召し替えを致しましょうか」
昼食を持って来てくれたジェイナが、全てのお皿をテーブルに並べ終えると、他のメイド達が数名やってきて、また別室で着替えさせられた。
普段着ている服が、どれだけ楽なのか再確認する事ができた。やはり、ドレスはあまり着たくない。
元の部屋に戻ると、オルレアが既にソファに座っていた。私も向かいに座る。
私が座ったのを見て、ジェイナが口を開いた。
「先程少しお話が聞こえてしまいました。私は確かに時星を探しましたが、ただ習慣化していただけですので、特に思い入れがある訳ではありません」
ジェイナは真剣な表情で私を見る。
「今は、これから沢山城に置かれるであろう、時計への憧れで頭が一杯で、時星の事など考えてもおりません。空を見ずとも、今が本日のどの辺りなのか知れるだなんて、革命ですからね。なので、レイル様にはご自身がなさった事を誇っていただきたいと思っております」
そう言うとジェイナは優しい笑みを見せ、食事に被せられていた蓋を取った。
「そろそろ良い頃ですので、ごゆっくりお食事をお楽しみくださいませ」
ジェイナは、頭を下げて部屋を出て行った。
「レイちゃん、皆さん同じ気持ちですよ。明日から時計を買いに行かれる方々は、王国のこれからに希望を抱いています。それはレイちゃんのお陰なんですから、胸を張って下さい」
オルレアはそう言うと、食事を口に運んだ。
「ゼン様も、オルカラ王国の新しい歴史が生まれる、記念すべき日って言ってたね。今、歴史が動いてるんだ……」
私はなんだか緊張した。
自分がした事で、世界の歴史が塗り替えられ、自分の行動で、世界の未来が変わる。
「歴史は今日動いたんですよ。ふふふっ、レイちゃんが嬉しそうで、私も嬉しいです」
私は無意識に笑っていたらしい。
「今まで、戦わないと……この世界に馴染まないと……力を制御しないと……って色々考えてしんどいなと思う日があったんだけど、今は気持ちが晴れてるよ。もう、英雄としての仕事は全部終わったんだよね」
後は、ルルを呼び戻すだけだ。それが一番大変な事だったとしても、私はルルを諦めない。
「英雄という肩書きからは、ずっと逃げられませんが、レイちゃんが何かをやらされる事はもう無いでしょう」
オルレアは、イタズラっぽく笑う。
この後、私達は時計について語り合った。
専門書とまではいかないが、時計について書かれた本を読んだ事があり、それをオルレアに読んで聞かせた。
日時計や水時計、砂時計などの話をすると、オルレアは良いリアクションをしてくれた。
オルレアも、この世界の事について教えてくれた。
この世界では、時星が現れる前は太陽の位置や、外の明るさで大体の時を把握していた。
四季の無いこの世界では、夏は日が長く、冬は短いというような事がない為、日の位置で大まかな時がわかっていたようだ。
ただ、時星が万能すぎた。色を見るだけで大体の時間がわかり、位置を見るとさらに詳しくわかった。
その生活に慣れると、太陽の位置など見ないだろう。
「そう考えると、時計って凄いね。明日は、人が殺到するだろうし、クロエが忙しそうならお店を手伝おうか」
私が言うと、オルレアは笑顔で了承してくれた。
夜になり、ジェイナが夕食を部屋に運んでくれた。
夕飯を食べ終わると、キュインをして、お風呂に入り、ベッドに入り、明日の事について少し話し、眠った。
朝はスッキリと起きられた。
思ったよりも長く眠ったようだ。
オルレアを見ると、丁度起き上がり、目を擦っているところだった。
「オルレアおはよう」
「レイちゃん……おはよう……ございます」
オルレアは、まだボーっとしている。
私は顔を洗い、ジェイナを待った。
すると、扉の外から数人の女性の声が聞こえる。
コンコンッとノックされ、返事をすると、ジェイナを含むメイドが六人、部屋に入って来た。
「朝食の前に、まず、お召し替えです。こちらへどうぞ」
そう言うと、メイド達は私達をそれぞれ昨日の部屋に連れて行き、着替えさせた。
絶妙に、町娘感を演出するワンピースだ。
服を着替えると、元の部屋に戻った。どうやら他の変装は食後に行うらしい。
オルレアも部屋に帰ってきた。私と同じく町娘風の装いをしているが、見た目が可愛すぎて、オーラが隠しきれていない。
オルレアは、着替えさせられている間に、すっかり目が覚めたようで、恥ずかしそうに笑っている。
「なんだか楽しいね。お祭りがあるみたいな空気」
私が言うと、
「はい、普段こんなに可愛らしいものを着る機会がないのでドキドキします」
確かに、町娘風の服は派手ではないが、元の世界でも通用するような配色とレトロなデザインで、ワンピース一枚だけでもオシャレに見える。
食事が終わり、キュインをすると、また違う部屋に案内され、髪や顔をいじられた。
今回も、目だけは自分で粉をはたき、指示された目薬をさした。
「終わりましたよ」
そうジェイナが言うと、鏡を私の前に持って来てくれた。
鏡に映る私は、ルルのような茶色の髪に軽くウェーブが当てられており、目の色も茶色になっていた。
完全に別人だ。
自分でも自分だとわからない。
「凄い……この目の色はさっきの目薬で変えたんだよね? 色が変わるだけでこんなに違うんだ……」
私が言うと、
「効果は一日なので、明日には元に戻っていますよ」
ジェイナは嬉しそうに言った。
私は、髪と目の色がルルと同じ色だというだけで嬉しくなった。
準備を終えて部屋に戻ると、
「レイちゃん……ですよね?」
丁度オルレアも戻って来た所らしい。
「オルレアも戻ったん……だ……」
そこには、ストレートの黒い髪に青い瞳の美女がいた。
「オルレア?」
オルレアなのはわかっていたが一応尋ねる。
「そうです、オルレアです。変……ですか?」
上目遣いでこちらを見る。
どんな髪色でも、どんな目の色でも、髪型を変えてもオルレアは可愛くなってしまうのだろう。
いつものフワッとした雰囲気とは打って変わって、クールさを醸し出している。
「オルレアは何でも似合うんだね……可愛い」
私が笑顔で言うと、オルレアはパッと表情を明るくし、私に抱きついてきた。
「レイちゃんも可愛らしいですよ。髪には少しウェーブがかかっているんですね。普段の私とお揃いです」
オルレアはニコッと笑った。
すると、
「アーク様がいらっしゃいました。お通ししても宜しいですか?」
ジェイナが私達に聞いてきた。
「通して」
私が言うと、ジェイナは丁寧に頭を下げて、扉を開いた。
そこには、赤い髪に黒い目のアークがいた。
髪には少し、パーマが当たっている。
イケメンは何をしてもイケメンだった。
「……この配色、ジェットを思い出すんだよな……」
そう言われると、ジェットは黒髪に赤い目だ。
「ははははっ! 確かに、ジェットと同じだね。でも、全然違うよ。すごく似合ってるし、アークはアークだよ」
私が言うと、アークは顔が赤くなった。
「……ありがとう」
と呟き、私に背中を向けた。
「じゃあ、時計を買いに行くぞ!」
と元気に言うと、部屋を出て歩き出した。
私達もアークに続いて部屋を出た。




