笑顔の破壊力 lv.108
「頑張りましょうね」
オルレアが私に小さな声で言った。
ルルを呼び戻すために、何をするのだろう。実際に動くのはオルレアとゼンだ。
「うん、よろしくね」
私も小声でオルレアに返すと、オルレアは満面の笑みで頷いた。
「他に願いがある者はいるか?…………では、いつでも良い、願いが出来たら教えてくれ」
王様はニコニコとして言った。
「陛下、オルカラ王国の皆様にお伝えしたい事がございます」
ダンが王様に言うと、王様はニヤリと笑って、
「映像具を騎士団長に向けろ」
と映像具を操っているらしい、魔法使いに向かって言った。
「王室騎士団長、ダンと申します。最近オルカラ王国の長い戦いが終わりました。その戦いの経緯は……」
ダンは謁見の間の中央に立ち、これまでの経緯を語った。
殆どは、ゴウカとサモラ王国、黒の精霊王ネロと時星による精神操作の話だった。
「わたくしが何を言っているのかわからない方もいらっしゃるでしょう。ですが、事実は変わりません。もうすぐ、英雄レイル様が時星を破壊し、皆様の精神操作を解きますが、焦らなくても大丈夫です」
とダンが言うと、ゼンがダンの隣に立ち、
「今日は、オルカラ王国の新しい歴史が生まれる記念すべき日だ! 五十年前の事を思い出して、落ち込んでしまう事もあるだろう。辛い時は近くの神殿に来てよ、神官が君達の気持ちを癒してくれる」
ゼンは大袈裟な身振りと、大きな声で言った。
「では、レイル。時星を壊してくれるか?」
王様がこちらを見た。
これは、無茶振りだ。
絶対に、事前の打ち合わせがいるやつだろう。
なぜ、この人達は涼しい顔をしていられるのか。
「壊すって……どこからでしょう……?」
私は恐る恐る聞いた。
王様は笑顔で天井を指さす。それと同時に、ゼンが指をパチンと鳴らした。
すると、天井が消え、空が現れた。
謁見の間から空が見える。不思議な感覚だ。
とりあえずクルッと一周まわり、見える範囲を確認すると、時星が視界に入った。
二人の精霊王が色をつけていたはずだが、いつの間にか魔法が解かれたようで、今はただの黒い球体だ。
「レイルちゃん、ここから当てられるよね?」
ゼンは、目をキラキラさせて私に近付き、詰め寄る。
そこにアークが割って入り、
「大神官様、国民の前ですよ。控えてください」
と不満そうに小さな声で言った。
「相手が動かないので、当てられます」
私が言うと、ゼンは満足気に頷いた。
「レイルの好きなタイミングで良い。時星に埋められている『核』を壊してくれ」
王様の目も輝いているように見える。
私は眼鏡を外した。
『核』のみを狙わなくとも、時星ごと『核』を吹き飛ばしてしまえばいい。
「的が大きいと助かる」
シューティングゲームをした事は無いけれど、これは恐らく、チュートリアルにも出てこないほどのイージーモード。
少し遠いが、太陽より断然近い。
右腕を空に向け、時星を指さし照準を合わせ、左目を瞑る。
そして笑った。
……ドッカーーーン!!
という音が頭上に響き渡る。
時星に埋められていた『核』が『魔力石』に変わり、落ちていく。
それをゴウカの時同様、ワープで魔力石の所まで飛び、ゼンが集めた。
「おお……」
謁見の間に変な空気が流れた。
次の瞬間、
『おおおおおおおお!』
王室騎士団員達が盛り上がる。
「笑顔の破壊神様ー!」
「かっこいいです!」
「笑顔の破壊神様すげえ!」
皆、少年のように目を輝かせている。
ふと、玉座の方を見ると、王様、王妃、ヨウリ、ユウニ、王族が全員立ち上がり、私に向かい拍手を送ってくれた。
クロエがいる、国の主要人物達のいる一角も、皆立ち上がり拍手をしている。
ここには、私の力を怖がる者などいない。
私は涙が溢れそうになり、眼鏡をかけて上を向くと、先程まで当たり前の様に空に浮いていた時星は、跡形もなく消えていた。
「なんだか、頭の中にあったモヤが無くなった気がします」
オルレアは、精神操作が完全に無くなった事を喜んでいる。
「時星の無い空……すごく違和感があるな」
アークが生まれた時には既に時星があった。そう思うのも仕方ないだろう。
「それにしても、『笑顔の破壊神』か。また、凄い二つ名をもらったものだね」
そう言って、ゼンが指をパチンと鳴らすと、天井が元に戻る。
「これで、オルカラ王国にかけられていた精神操作は全て解かれた。ここにいる五人と、今ここにはいない、神の子ルル様のおかげだ」
王様は、私達の方を見て笑い、続けた。
「時星は、我々の暮らしに無くてはならない物になっていた。皆には今日から不便をかける事になるが、これが本来のオルカラ王国だ。嘆く必要は無い」
と言うと、カメラの役割をしている水晶に力強い視線を送った。
すると、クロエが立ち上がった。
「それにつきまして、お話しがございます。少しよろしいでしょうか?」
そう言うと、クロエは王様の返事を待つ。
王様は何も聞かされていなかったようで、驚いた様子でクロエを見て、
「あ……ああ、良いだろう。前に出てくれるか?」
と始めは言葉に詰まりながらも、最後は笑顔で言った。
クロエならば、何かをやらかしたりはしない、という安心感からの笑顔だろう。
クロエが、謁見の間の中央に立つ。
「ニライで雑貨屋を経営しております、クロエ・ローレンと申します。私は、英雄レイル様とご縁があり、ある物をお売りいただきました。それがこちらになります」
クロエは何処からか、私が売った時計を取り出した。
「これは『時計』、という物です。一から十二までの数字が丸く描かれ、その数字の上を動く二本の針で、今が何時なのか、教えてくれます。一番短い針が何時かを、長い針が何分かを、針を見るだけで簡単に知る事ができ、この細い針で何秒かまでわかるという素晴らしい道具です」
クロエは少し興奮気味に言い、
「時計、時間、何時、何分と言う言葉を聞くのは初めてかと思いますが、覚えれば時星よりも細かく正確に時を把握する事ができます。この時計を明日から私の雑貨屋にて販売致しますので、ご興味のある方はお立ち寄り下さい」
話を終えると、丁寧に頭を下げ、席に戻った。
どうやらクロエは、この世界の素材で時計を作る事に成功していたらしい。
この場にいる全員が驚いたような表情をし、ザワザワと時計について話している。
「時間……細かく時を把握出来るようになるのか。すごいな」
アークが呟いている。
クロエは家族にも、時計の存在を明かしていなかったようだ。
「そういう事だ。時計を欲する者は多いだろうが、パニックを起こさぬよう、皆落ち着いて対処してくれ」
王様は、時計への興味が隠しきれないといった様子で、クロエの方を見ながら言った。
「ぼくからも一つ良いかな?」
ゼンが、ニコニコしながら王様に確認すると、王様は頷いた。
「ゴウカでの功労者がもう一人いるんだ。精神操作が解けた今、その者の存在を思い出し、泣いている人もいるかもしれない」
ゼンは水晶に目を向ける。
「聖女オルレアの母、ローズ。五十年前のあの日、ローズはゴウカの人々を助ける為、力を尽くしたんだ。助けられた者も沢山いるよね。詳しくは言えないけど、そのローズは生きている。君達の恩人は生きている、安心してほしい」
ゴウカでローズに命を救われた者は多い。
その人達が恩人を見捨てて自分が生き残ってしまったと、罪悪感を抱かないようゼンはあえてローズの生存を明かしたのだ。
精神操作が解けた時、泣きながら従属をかけるローズの姿が浮かんだ者は辛かっただろう。
それも、今のゼンの言葉で救われたはずだ。
「今回の戦いは、ローズ無しでは勝てなかったと聞いている。ローズも立派な英雄になり得るだろう。後日褒美を与えよう」
王様は笑顔で言った。
王様が王妃に合図をすると、王妃が謁見の間の中央に行き、
「これで勲章授与式を閉会致します」
と言い、水晶に向かいニコッと笑った。




