笑顔の破壊力 lv.107
次の日の朝、コンコンッというノックの音で目が覚めた。
私はハッとして起き上がり、返事をする。
部屋に入ったジェイナは、
「おはようございます。レイル様、オルレア様。朝食の準備が出来ましたのでお持ち致しました。本日はお部屋の方で朝食を摂っていただき、その後すぐに準備をお手伝いさせていただきますので、宜しくお願い致します」
そう早口で言うと、てきぱきとテーブルに食事を並べた。
私とオルレアは朝食を食べた後、キュインをし終わると、メイド達に連れられ、二人別々の部屋に案内された。
すぐに椅子に座らされ、髪や顔をいじられ、着替えさせられる。
流石に眼鏡は外せないので、目の周りは教えてもらいながら、自分で粉をはたいた。
着替えさせられたのは、優しいピンク色で、落ち着いた柄のロングドレスだ。
派手なドレスで無かった事に安心した。
靴は、ヒールがあまり高くない同系色のパンプスが用意されている。
私が着替え終わると、ジェイナは白いベルを取り出し、カランカランと鳴らした。
すると、オルレアがいるらしい部屋からも同様の音が聞こえる。
その瞬間、部屋の内装が変わった。
隣を見ると、オルレアがいた。私と同じく、周りを見て戸惑っているようだ。
「ここは、謁見の間ですよね?」
青いドレスに身を包んだオルレアは、首を傾げている。
私も周りを見回した。赤と白がバランス良く使われた広間に、奥には床より少し高い位置に、玉座が置かれており、そこに王様が座っている。
その後ろには、ヨウリとユウニが立っていた。
ヨウリに至っては、こちらに手を振っている。
「謁見の間……だね。こんなにいきなり来る事になるなんて思わなかったよ」
私はヨウリへ何も返さず、小さな声で、オルレアへ答える。
よく見ると、王室騎士団が通路の両端で、向かい合わせに整列していた。
その先頭には、ケイはいるが、ダンはいない。
黒いローブを纏った魔法使いが、数名隅に立っている。
国の主要人物と思しき人達も、十数人座っていた。
その中にはクロエもいる。
前回置いてあった、テーブルや椅子は今日は置かれていない。
「よく来てくれたな。英雄レイル、聖女オルレア」
王様が私達に声をかける。
私とオルレアは、その場で腰を落として両手でドレスの裾を少し広げた。
すると、バンッと私達の後ろにある扉が開いた。
驚いて振り返ると、ゼン、ダン、アークが正装をして入って来た。
「君達をここに送ったのは良いけど、ぼくらの準備がまだ終わってなくてさ、遅くなってごめんね」
ゼンが申し訳なさそうに言った。
「レイルがドレスを……」
アークが小さな声で呟く。
「レイル様、オルレア様、心細い思いをさせてしまい申し訳ございませんでした」
ダンが言った。
どうやら、私達二人だけが呼ばれた訳では無かったらしい。
「なんで私達は、こんな格好をして来たんですか?」
私が聞くと、
「最近、ダンが準備していた事だよ」
ゼンはこちらにウインクをした。
ダンが何を準備していたのか、私は知らない。
すると、王様が立ち上がった。
それを見て、今到着した三人も私達の隣に並び、床に片膝をつき、下を向いた。
私も慌てて下を向く。
「皆、顔を上げよ。此度の魔物、魔人討伐ご苦労だった。オルカラ王国の未来は其方らが守ったのだ。深く感謝する」
王様はこちらに向かって頭を下げる。
後ろのヨウリとユウニも同様に頭を下げた。
その瞬間謁見の間がざわついた。
「ここにいる者は皆、時星による精神操作が解けており、全てを理解している。今回のサモラ王国のやり口は卑劣で陰湿。其方らがいなければ永遠に気付かず、いずれ国を落とされていただろう」
そこまで言うと、王様は大きく息を吸い、
「よって、其方ら全員に勲章と褒美を与える!」
と宣言した。
突然の展開に、私はゼンの方を見る。
私の視線に気付いたゼンと目が合った。
ゼンはニコッと笑い、サ・プ・ラ・イ・ズと声を出さず、口の動きだけで私に伝える。
……驚いた。全然嬉しくない。
サプライズのタイミングがおかしい。
普通、受章するとなれば、考える事も用意する物も多い。それを受章する本人達に言わず、水面下で計画を進めていた。
ゼンの目は輝いている。お礼がほしいのだろう。
ダンを見てみると、嬉しそうに笑っている。
この兄弟は、サプライズが成功したと勘違いしている。
「それは……」
オルレアが何か言おうとしたのを私は遮り、
「ありがとうございます」
と小さな声で二人に言った。
こんな日くらい、多めにみても良いだろう。
私がオルレアに笑いかけると、オルレアは困ったように笑い、頷いた。
「では、勲章授与を始めるが、その前に、国民達に君達の素晴らしさを知らせる為、ここ謁見の間で起こっていることを、今から、オルカラ王国中で見られるようにする。いつでも国民へ言葉を送ってくれ」
王様は私達に向かって言うと、上を見た。
私もつられて上を見ると、拳大の水晶のような物が二つ浮いている。あれで撮り、どこかに映しているらしい。
「大神官ゼン」
王様が呼ぶと、
「はい」
とゼンは、珍しく真面目な顔をして立ち上がり、指をパチンと鳴らすと、王様の前までワープした。
「ゼン! 驚くだろう、普通に来てくれ」
王様は笑いながらゼンに言うと、裏から出て来た、オレンジ色の髪に、オレンジ色の瞳をした女性が、ゼンに勲章を手渡した。
少し距離はあるが、勲章は、リボンが付いたメダルのように見える。
ゼンは頭を下げ、歩いて元いた場所に戻ると、アーク、オルレア、ダンの順に呼ばれ、ゼンと同じ手順で勲章を受け取った。
アークとオルレアは緊張でガチガチのようだったが、ダンは流石に落ち着き、張り付いたような笑顔を絶やさず、浮いている水晶に手を振ってみせた。
王室騎士団長ともなると、何事もそつなくこなす。
「最後に、英雄レイル!」
王様が私を呼んだ。
皆の視線が私に集まる。
「はい」
声が小さかったかもしれない。
王様に向かって歩く。段を上り、王様の前で止まる。
勲章を受け取る際に、
「レイル、この国を救ってくれてありがとう。あなたがいなければ今日は無かったかもしれない。感謝してもしきれないわ」
オレンジの髪の女性が私に言った。
恐らくこの人は王妃だ。
「いえ、皆がいたからです……皆と乗り越えたんです」
私は小さな声で答え、頭を下げ、元いた場所に戻った。
「こういう時は、一人一人に声を掛けるべきなのだが、この感謝を伝えられる言葉を余は知らないのだ。それぞれ、余が叶えられる願いがあれば一つだけ聞こう」
王様が言うと、皆考える素振りはするが、浮かばないようだ。
私は、すぐに願いが浮かんだ。
「では、私の願いを聞いていただけますか?」
私は王様の目を真っ直ぐに見て言った。
王様は頷き、
「良いだろう、言ってみなさい」
と優しい声で答える。
「私には大切な人がいます。陛下も以前お会いした、神の子である、ルルという者です。その子が戦いの最中、私の為に消えました。呼び戻したいんです、力を貸してください!」
私は深く頭を下げた。
断られるのはわかっていた。これは神の領域なのだから。
「おい、ゼン。余はそれぞれ一つ願いを叶えると言ったが、ゴウカの戦いに参加したメンバーはこれで全員か?」
王様は何を考えているのか、いきなりゼンに話を振る。
「いえいえ陛下。もう一人いた事をお忘れですか? 少しお年を召されたようですね」
ゼンがニヤッと笑って答えると、
「ああ、そういえばそうだった。確か、その者の名は……ルル。神の子であらせられる、ルル様だ。今日は来られないようだが、願いを聞かないといけない。どうしたら良いだろうか?」
王様は、困っているかのような表情をしているが、この二人は何がしたいのだろう。
「ルル様は英雄であるレイル様を大変慕っておりました。今この場にいないルル様の代わりに、レイル様の願いを二つ聞く、という事でどうでしょうか」
ゼンが私の名前に様を付けるだなんて、凄い違和感だ。
「それは良い案だ。幸い、今オルカラ王国には、最強の魔法使いと、歴代最高の聖女がいる。神と話す事も出来るだろう」
そう言って王様は、意味深にゼンと目を合わせ頷き、こちらを見て笑った。
こうして、ルルを呼び戻す手伝いをしてもらえる事になった。
神託は一方的なものだったはずだが、ゼンとオルレアがいれば、神と話せるらしい。
簡単なことでは無いだろう。
それでも……。
「本当にありがとうございます……」
私は、泣きそうになるのを堪えながら口を開いたが、胸がつまり、声が出なかった。




