笑顔の破壊力 lv.10
私は、クロエに目覚まし時計についての細かい説明を紙に書いて渡した。
動力源の電池は外して家に置いてあるが、持っていないと言うとクロエは納得してくれた。
電池に変わる何かを見つけるつもりのようだ。この世界でなら、電気の魔法で簡単に対処できそうな気もする。
クロエから、契約書の控えを渡され、今月の分だと、財布のような物を貰い、挨拶をして店を出た。
「さすがご主人様です! ルルはあの店が、隠れた名店と言われているのを聞いて、ご主人様をお連れしたのですが、大正解でした!」
ルルは興奮ぎみに話している。
「絶対私じゃなくて、時計のおかげだけどね。それがきっかけだとしても、クロエとの縁が出来たのはありがたいよ」
これに関しては本当に幸運だった。
私は立ち止まり、空を見上げた。
空は綺麗に晴れ渡り、ぽつり、ぽつりと雲が浮かんでいる。
時星は……あれか、と思った瞬間、ドンッと誰かが私にぶつかった。
「ご主人様!」
とルルが叫ぶのが聞こえる。
このままじゃ倒れる……と思いぎゅっと目を瞑った。
すると、体をグッと引っ張られる感覚があり、止まった。どうやら私は倒れないで済んだらしい。
「大丈夫か? ごめんな。俺、急いでて、怪我してないか? どこか痛いところがあったら教えてくれ」
恐らく同年代の男の子だった。濃いグレーの髪に、金色の瞳。これ程の美形がいるのかという程に整った顔をしている。
そして、私はその美男子に抱き抱えられている。
「漫画みたい……」
思わず声が出た。
言った後に我に返り、男の子から離れた。
「私が急に立ち止まったのが悪いんだよ。どこも痛くないから大丈夫。あなたも怪我はない?」
と聞くと、
満面の笑みで、
「俺は大丈夫。完全に俺の前方不注意だ。申し訳ない。今日は急いでいるからもう行くが、もし痛みが出たり、俺を許せなくて殴りたくなった時は大声で俺を呼んでくれ! すぐに駆け付けるから!」
と言って立ち去ろうとした男の子に、
「あなたの名前知らないんだけど!」
と言うと、
「俺の名前はアーク。君の名前も聞いて良いか?」
爽やかな笑顔で聞き返してきた。
「私はレイル」
「レイルか、かっこいい名前だな! 俺の事は呼び捨てにしてくれ! 俺もレイルって呼ぶから!」
とすごい速さで距離を詰めてくる。
今まで同年代の人と話す事がなかったから、こういうやり取りは新鮮だ。この先友達になれたりするのだろうか。
私は嬉しくなり、笑顔で
「うん、よろしくねアーク」
と言うと、アークの背後で爆発音がした。
あれ……? まさか……!
「ご主人様! 眼鏡が地面に落ちています!」
ルルが焦った様子で眼鏡を拾い上げた。
アークは呆然と立ち尽くしたあと、
「レイル、君はもしかして……」
と何かを言いかけていたが、私はここから離れないと大変な事になると思い、ルルから渡された眼鏡をかけ、ルルの手を引き、全力で走った。
どうしようどうしようどうしようどうしよう。
時星も見ず、買い物もせず、家に帰り、すぐにベッドに飛び込んだ。
凄い威力だった。目の前にあった建物は絶対に壊れている。誰かに当たっていたらどうしよう。
私は布団にくるまりながら震えていた。
この力が怖い。
この世界にきてから威力の上がり方がおかしい。魔物の前に国民に危害を加えてしまうかもしれない。
私を心配しているのか、ルルが部屋に来た。
「ご主人様。大丈夫ですか? 一応お伝えしておきますが、被害は無いですよ。ルルは周りの建物、生物の位置を正確に把握できるので間違いありません! ちなみに、ほとんどの店は、結界が張られているので、どこも壊れていません! 安心してください! 」
ルルの明るい声が布団の外から聞こえた。
結界……良かった……。
私は、誰も傷つけなかったんだ。
「ありがとうルル。安心したよ。もうこの街にいられないんじゃないかと思った。でも、結界があったとしても、驚かせてしまったお店の人には謝りに行かないとね」
と私が言うと、
「それはやめた方が良いと思います! 今頃少し騒ぎになっている筈です! 今、ご主人様が、あの爆発を起こしたと言うとややこしいことになるのは確実です! ここは素知らぬフリをして過ごしましょう! 大丈夫です! こういう何の被害も出ていない場合は、事故で片付けられますから!」
ルルは悪い顔をした。
そんなに適当で良いのだろうか。
それにしても……アークは位置的に、直撃するはずだった。
何も無いところがいきなり爆発したように見えたはずだ。
アークがたまたま絶妙なタイミングで動いた途端に発動したのだろう。
これは強運という他ない。
もう二度と家以外で眼鏡は外さない。眼鏡が外れた事に気付かなかっただなんて、何かが起こってしまったら、ただの言い訳にしかならない。
まずは、この力をコントロールできるようにならないといけない。
明日は朝から家の中で、威力と飛距離の調節ができるよう練習をしよう。
「証拠が残っていないのは良かったけど、黙っているのは心苦しいな。もし現場を見ていたとしても、まさか、笑った事により爆発が起こったなんて誰も思わないよね。今更だけど、変な能力」
私は落ち込みながら言った。
「そもそも『神力』を持って生まれる人なんていないのです! 史上初なのですよ! なぜ、ご主人様が笑った時にだけ力が発動するのかは、誰にもわからないです! わからないのですが、本当に凄いことです! ルルはご主人様が『神力』を持って生まれたことを誇っていただきたいです!」
興奮気味のルルは、自身を落ち着けるためか、深呼吸をした。
私以外に使えるのは神様だけだとルルが言っていたから、神力がすごい力なのはわかる。
私の笑顔は『兵器』だ。
「ルルはすごく褒めてくれるね。私ね、異世界に来たら、この大嫌いだった力を好きになれるんじゃないかと思ってた。でも、威力はすごいし、眼鏡はずっとかけていないといけない」
私は泣きそうになるのを必死に堪えた。
「今日だって、アークが偶然動いて照準が外れなければ、アークはいなくなってた……」
そう言いながら、私は涙目になっていた。
「避けてましたよ?」
ルルは不思議そうに言った。
「何の話?」
「あのアークという少年、ご主人様の神力を見て、避けてましたよ?」
ルルはまたも不思議そうに言った。
あれを……避けた?
私の力は目に見えるものでは無い。私にすら見えないのだ。たまたま出会っただけの少年が避けられるような代物ではない。
アークは、偶然何かに気を取られて違う方に動き、たまたま、神力を避けられただけにすぎない。
だが、ルルが言っている。
私はすでにルルを結構信頼している。
私は、また聞き返す。
「普通の人間が神力を察知して避けたって事? そもそも神力って見えるの? もし、避けられる人間が存在したとして、反応できるものなの?」
疑問しか湧かない。
「ルルも驚きました! ご主人様もお察しの通り、普通の人間には無理です! そして、ルルが見た限り、あのアークという少年はただの人間でした! 今日の報告は荒れそうです」
ルルはニヤッと笑った。
そういえば、アークは私に何か言おうとしていた。
私は怖くなって全力で逃げてしまったけれど……あの時何を言おうとしていたのだろう。




