表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

3. ラーメン職人、異世界で家系ラーメンを作る

それから寒空の元、巨大なモンスターを解体してスープを取って、麵を打って、大忙しだった。


一番大変だったのは、お湯を沸かすことだった。アイアがあんなに自信満々だったのに。というのもアイアの魔法の威力はあまりにも力が強すぎて、鍋のお湯だけを沸かすことはできないのだった。


試しにやってみたが、水に魔法をかければ、一瞬で水蒸気爆発するし、薪に火をつければこれもすぐ燃え尽きてしまう。巨大な鍋が爆発で宙を舞うのも一度や二度ではなかった。まるでショベルカーで生け花をするようなものだ。お湯も沸かせないのでは、弱火でスープを炊くなんてさらに難しい。


結局、町はずれの大きな岩を丸ごと温めてもらって、そこに鍋を置いた。つけ麺のスープを温める石の巨大バージョンだ。その熱量は膨大で、一晩くらいなら全然問題ない。


材料はあり合わせ。異世界だから仕方がない。それでも下ごしらえをし、アクを取り、それなりのスープをとることができた。さすがに醤油はないが、塩だれでなんとかなるだろう。何よりもこの寒さが一番の調味料になるはずだ。苦労の連続だが、俺は久しぶりにラーメンを作れる喜びでいっぱいだった。


「なぁケイ!どれだけ待てばいいんだよ!腹減った!」

調理開始から3時間、アイアの辛抱もそろそろ限界だ。夜もだいぶ更けてきた。


「あと少しだ!俺のスキル【平ザル湯切り】はこの時の麺上げのためにある!見ててくれ!」

「やっとか!」


熱された巨大な石のおかげでグラグラと沸き立つたっぷりのお湯、そこに太いストレート麺を泳がせる。麺は対流でお湯の中を優雅に踊る。麺は茹で加減がムラになることもなく、小麦の旨味を最大限に生かすべく、素早く熱が通される。


絶好のタイミングを見計らって、平ザルで麺をすくう。重心を僅かにザルの先に集中。手首で微修正、手に頼らず、膝を使って麺をあげる。麺は平ザルの上を2度、3度と跳ね、余分なゆで汁を切る。何百回、何千回と繰り返した技。


「すごい……」

アイアも、衛兵たちも、村人たちも皆、俺の技に見惚れている。

俺には何もない。この異世界で生きていくこともできないかもしれない。でも、この技だけは俺の誇りだ。


「家系ラーメン一丁!お待ち!」


厚手の不格好なスープ皿を満たす、白濁した熱いスープ。塩水で味をつけたゆで卵。ネギ代わりの謎の香味野菜。そして何よりも見事に茹で上がった麺。半年ぶりの、俺の家系ラーメンに街は沸いた。


「ケイ!これめちゃくちゃ旨いな!イエケイラーメン!最高だ!」

赤い魔導師アイアは満面の笑みで麺を頬張る。


「私もこんなにおいしいものを食べたのは初めてです…」

ご相伴にあずかった衛兵たちも口々に喜びの声を挙げる。


もうずいぶん夜も更けてずいぶん冷え込んでいるというのに、街は祭りのように活気があふれている。

その活気を打ち破るように、伝令の声が鳴り響く。


「伝令!伝令!」

兵士は衛兵長に駆け寄る。


「勇者シュピナート一行、魔王城城門にて敗退とのこと!」

「シュピ達が!?」

最後に会った時のシュピナートのすまなそうな顔が目に浮かぶ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ