1. ラーメン職人パーティーを解雇される
「ケイ、たのむパーティーを外れてくれないか」
魔王城攻略の直前に、勇者パーティのリーダーである聖騎士シュピナートが、そう告げた。
俺は魔王を討伐するための勇者パーティで、この半年、「荷物持ち」と「雑用係」を務めてきた。
たしかに、俺は魔法も剣も使えない、俺にあるのは【平ザル湯切り】という固有スキルだけだ。
俺は飯江圭いわゆる転生者、転生前は家系のラーメン屋の店員で、早朝のスープの仕込みの最中にめまいがして倒れたらこの世界にいた。いわゆる剣と魔法と魔族の世界で、持っていたのは倒れるとき手に取った平ザルとスキルシートに記された【平ザル湯切り】だけ。
平ざる湯切りはラーメンの麺をたっぷりの湯で泳がせるように茹で、平ザルでお湯を切り、麺の食感や風味を最大限に活かす技。この異世界ではいかにも役に立たないスキルだが、王都でラーメンの真似事でアピールし、このパーティの関心を買って加入した。とは言え、敵と戦いつづける旅路で食事のたびにいちいちラーメンを作るわけにはいかない。だから、この一年は雑用係に甘んじてきた。ラーメン屋での修行の日々は伊達じゃない、雑用なら異世界のだろうがなんだろうが、そんじょそこらのやつに負けやしない自信がある。
「ケイ、お前は良いやつだ。俺達もお前が憎いわけじゃない。だが、ここは全てが凍りつくコーホク北壁。お前の固有スキルには向かない…お湯を沸かすどころか飲み水すら貴重だ」
「シュピ…」
それはそうだ。そもそも王都でですら多量のガラとお湯を使ってラーメンを作ったときには、皆に驚かれたものだ。あの時が俺のこの世界での活躍のピークだった。
「今まできつい雑用ばかり押し付けて悪かった。ここからは危険な戦いだ。お前はここで俺達の戦いの決着を見届けてくれ」
最後の短期決戦で自分が足手まといなのはわかる。実際やることもないだろう。だが、ここで外されれば勇者一行の一人とはみなされない。残りの人生をこの世界で過ごすとして、勇者一行の肩書は欲しいところだ。
「少ないがこれは餞別だ」
シュピは俺の逡巡を見て取ったか、一握りほどの金貨を差し出した。ずっしりくる重さ。この世界でもかなりの金額だ。もし元の世界に持ち帰ったら相当の金額になるだろう。いつか元の世界に戻るとき、持ち帰れないものか…ぼんやりそんなことを思っているとシュピと視線があう。本当にすまなそうな目をしている。本当に俺の身を案じてのことだろう。良いやつなんだよな。こいつを困らせたくはない。冷酷に追放された方がまだ気が楽だった。
「わかった。今までありがとう。シュピ。魔王討伐成し遂げてくれよ」
俺は腰を上げて話を切り上げた。
「ありがとうケイ。俺たちはこれからすぐに魔王城へ向かう。平和を取り戻したときに、また会おう」
「あぁ、またな」
シュピの気づかう声を背に、俺は宿から薄暗く吹雪く通りに出た。
「さて、どうしたものかな」
ため息とともに吐いた白い息のように自分の行き先はわからなかった。
初めてシリーズものを書いてみます。4話か5話くらいでサックリ終わる予定です。