第2話:天使のご挨拶
話は少し戻り、天使が現れた日の翌朝、天地は寝不足の目を擦りながら、アパートの共有スペースへと向かった。
昨夜からの出来事がまるで夢のように非現実的で、彼の心臓はまだ落ち着かない。
「や、やっぱり夢じゃないのか……」
そう呟きながら、天地は空き部屋の扉が開きっぱなしになっているのを確認する。そこからは微かに、天使たちの気配が感じられた。彼らの存在が、すべてが現実であることを突きつけてくる。
共有スペースには、すでに10人の天使たちが集まっていた。昨夜のパニック状態ではまともに顔を見る余裕もなかったが、改めて目の当たりにすると、その存在感に圧倒される。
彼女たちは、天地が普段使っている殺風景な共有スペースを、たった一晩で華やかに変えていた。壁には見慣れない美しい布が飾られ、テーブルには天使の羽を模したような花瓶に、
の花が生けられている。
「あ、天地様、おはようございます!」
一番に天地に気づいたのは、やはりあの金色の髪の天使だった。彼女はまるでひまわりのように明るい笑顔を天地に向けた。
「あの、今朝はきちんとご挨拶を、と思いまして。皆、集まっております!」
促されるまま、天地は天使たちの前に立った。10人の美少女に一斉に見つめられ、天地の心臓は再びバクバクと音を立てる。
「じゃあ、私が代表してご紹介させていただきますね!」
金色の髪の天使が、嬉しそうに手を叩いた。
「まず、私から!神崎ルナと申します!姉妹の一番上で、天界では見習い天使たちの班長を務めていました!天地様を幸せにするという大役、このルナにお任せください!得意なことは、みんなをまとめることです!」
彼女は朗らかに笑った。歳は天地と同じくらいか、少し上に見える。光を宿したような金色の髪は、肩甲骨あたりまで伸び、深く澄んだ青い瞳は知性と優しさを感じさせた。全身から、人を惹きつけるようなカリスマ性が漂っている。
「次に、次女の神崎アカリです!」
ルナに促され、ルナの隣に立っていた少女が一歩前に出た。彼女は少しはにかんだように微笑む。
「神崎アカリと申します……得意なことは、えっと、お料理とか……お掃除とか……みんなのお世話をすることです。よろしくお願いします……」
アカリは、ルナとは対照的に、柔らかな茶色の髪をミディアムに揃え、優しい雰囲気の薄い茶色の瞳をしていた。歳はルナより少し下、天地より少し上くらいだろうか。全体的に控えめな印象で、お淑やかなお嬢様といった雰囲気だ。
「そして、三女の神崎コハル!」
今度は、一際小柄な少女が飛び出すように前に出た。彼女は天使の輪を少し傾げながら、元気いっぱいに自己紹介する。
「神崎コハルだよー!あたしは一番元気!得意なことは、みんなを笑顔にすることと、いたずら!」
コハルは、くるくるとした明るい茶色の髪をツインテールにしていて、キラキラと輝く大きな瞳は好奇心に満ちている。見た目は小学生高学年くらいで、あどけない笑顔が印象的だ。彼女の周りだけ、なぜか常に光の粒子が舞っているように見えた。
「四女の神崎シオン」
次に前に出たのは、一見するとクールそうな雰囲気の少女だった。しかし、その瞳の奥には、どこか熱いものが宿っているように見える。
「神崎シオンと申します。得意なことは、戦うこと……というのは冗談だ。情報収集と分析だ。あ、ちなみに、私たち天使の輪とか羽は、普段はこうして見えないようにできるんだ。まあ、うっかり出ちゃうこともあるんだけど」
シオンは、そう言いながら背中を少しだけ動かすような仕草をした。天地には何も見えなかったが、そういうものかと納得する。シオンは、夜空のような漆黒の髪をポニーテールにまとめ、切れ長の瞳は鋭い光を放っている。歳は天地と同じくらいだろうか。身長も高く、モデルのようなスタイルをしている。
「そして、私たちの自慢の双子!五女の神崎ユノと、六女の神崎リノよ!」
ルナがそう紹介すると、そっくりな二人の少女が手を繋いで前に出てきた。
「神崎ユノだよ!」
「神崎リノです!」
二人は声を合わせて自己紹介した。容姿は瓜二つで、淡いピンク色の髪をそれぞれショートボブとロングにしていて、かろうじて見分けがつく。瞳も同じ淡いピンク色で、少し眠たげに見える。歳は高校生くらいだろうか。
「私はおっとりしてるってよく言われるけど、実は芯は強いんだよ。得意なことは、みんなを癒すこと!」
「私はお姉ちゃんのユノとは正反対で、しっかり者って言われます。得意なことは、計画を立てることと、お姉ちゃんのお世話です」
ユノはふんわりとした笑顔を浮かべ、リノは真面目な表情で天地を見つめている。確かに、見た目はそっくりだが、雰囲気は全く異なる。
「七女の神崎ハルカ」
次に前に出たのは、どこか影のある雰囲気の少女だった。彼女は天地から少し目を逸らしながら、小さな声で自己紹介した。
「神崎ハルカと申します。得意なこと、は……まだ、見つかっていません……」
ハルカは、艶やかな黒髪を長く伸ばし、伏し目がちな瞳はどこか寂しげに見える。歳は中学生くらいだろうか。華奢な体つきで、守ってあげたくなるような雰囲気をまとっている。
「八女の神崎ナナミ!」
続いて前に出たのは、やたらと元気の良い少女だった。彼女はまるで跳ねるように天地に近づいてきた。
「神崎ナナミだよ!元気いっぱいのナナミ!得意なことは、みんなを盛り上げることと、歌を歌うこと!天地様も一緒に歌おうよ!」
ナナミは、明るいオレンジ色の髪を高い位置でポニーテールにしており、キラキラとした大きな瞳は好奇心と活気に満ち溢れている。歳はコハルと同じくらいか、少し上くらいだろうか。彼女がいるだけで、場の雰囲気がパッと明るくなるような存在だ。
「九女の神崎マヒル」
次に前に出たのは、天地をじっと見つめる少女だった。彼女の視線には、何かを探るような強い意志が感じられる。
「神崎マヒルと申します。得意なことは、天地様の……いや、人間の心を観察すること。興味深い」
マヒルは、深い紫色の髪をショートカットにしていて、切れ長の瞳はどこかミステリアスな光を宿している。歳はユノやリノと同じくらいか、少し下に見える。どこか掴みどころのない、独特な雰囲気を持っている。
「そして、末っ子の神崎イオリです!」
最後にルナが紹介したのは、末っ子らしからぬ落ち着きを見せる少女だった。彼女は天地の服の裾をぎゅっと掴み、不安そうに見上げてくる。
「神崎イオリと申します……こ、こんにちは……天地様……」
イオリは、ふわふわとした銀色の髪を肩までのばし、大きな瞳は少し潤んで見える。見た目は中学生くらいで、幼さが残りつつも、どこか大人びた雰囲気を漂わせている。
「というわけで、私たち神崎姉妹、十人全員で天地様を幸せにしますので、どうぞよろしくお願いいたします!」
ルナがにっこり笑ってそう締めくくった。天地は呆然としながら、目の前の10人の天使を見つめた。
(10人……しかも全員美少女……ますます現実味がなくなるな……)
天地は、これから始まるであろう騒がしい日々を想像し、深い深いため息をついた。彼の静かな日常は、完全に過去のものとなっていた。
この後どうっすかなぁ・・・