閑話:魔王、リターンズ
ひょんなことから異世界に転生し、元の世界に戻ってくることができた絶賛ニート中のこの男、鬼島 千歳。千歳は元通りの生活に戻り、いつものように自宅警備員を満喫していた。
「あぁ~、ほんとにあの世界はトゥジュール・オンラインの世界だったのか・・・?気になって夜しか眠れねぇ~!!」
そんな時だった、聞き覚えのある声が突然脳内に響き渡ったのだ。
『君は本当にゲームの世界が好きだねぇ。そんなに好きなら好きなタイミングで飛べるようにしてあげようか??』
「この声は・・・。あの時の・・・!確か・・・テレーゼ!!」
『大正解!!それでどうするの?』
「じゃあ・・・頼む・・・。」
千歳は軽い気持ちでOKを出してしまった。これがとんでもないことを招くとも知らずに・・・・・
『それじゃあ行くよぉぉ!!それぇぇぇ!!!』
「ぐ・・・ぐおぉぉぉぉぉ!!?!?」
テレーゼがそう言った瞬間、千歳の脳内に様々な記憶や思念のようなものが流れ込んでくる。それはとてつもない苦痛だろう。そして千歳は意識を失ってしまう・・・・・
そして目が覚めるとそこは・・・・・『混沌の魔城』だった。
「おいおい、また来ちゃったよ。混沌の魔城・・・!」
千歳がやや興奮気味にそう言うと脳内にテレーゼの声が響く。
『君が指を弾くと世界が入れ替わるよ!それじゃあ楽しんでね!!』
「指を弾くと・・・?」
千歳は疑問に思い、試しに指を弾いてみる。
パチンッ!!
その瞬間、千歳の脳内に先ほどと同じように何かの思念や記憶が流れ込んでくる。しばらくその苦痛に耐え抜くと、そこは自宅のベットの上であった。
「本当に世界を移動できる能力手に入れちゃったよ・・・。」
千歳は再び指を弾く。
パチンッ!!
酷い苦痛の先に見えた景色は、『混沌の魔城』だ。本当に世界を移動する能力を手に入れたのである。それに驚きと感動の入り混じった少し不思議な感情を抱く千歳はかつて魔王の手下としていたエミルの姿がないことに気づく。
「エミルはどこだ・・・?確か最後に会ったのはこの魔城だったよな・・・。」
そして千歳がリビングのような部屋に行くと、そこには置手紙が置いてあった。その手紙の内容は・・・
『目が覚めた魔王様へ。食材が足りなくなったので市街地へ行ってきます。もしこの手紙を読んでいたら市街地まで来てください。エミル』
このように記されていた。それを呼んだ千歳は中距離転移魔法を起動しつつ、エミルの魔力を探す。
「エミルは・・・・ここだ!!」
無事エミルの魔力を見つけることができ、その場所へ転移するとそこが市街地ではないことに一瞬で気づく。そこは・・・魔族村であることは明確だ。
「ようやく現れたか。魔王。待ちくたびれたぞ。」
「貴様は何者だ。エミルはどこへやった。」
「エミル・・・?あぁあの魔王を崇拝していた少年か。あいつなら・・・既に死んでいる・・・と言ったらどうする?」
「・・・!?ふん、死にたいようだな。貴様。まず名前を言え。殺す前に覚えておいてやろう。」
「我が名はグリムゾン。かの魔王よ。なぜ我ら魔族が長にして我が父グリム様を殺した?答えよ。」
「それは貴様らが我に歯向かうからであろう?我も無駄な殺生は避けたいのだ。貴様ら魔族が我に従っていればそれで済んでいた話だ。」
「なんだと・・・?誇り高き我ら魔族を愚弄するとは愚の骨頂。貴様もあの少年と同じように八つ裂きにしてくれるわ!」
「ふん、やれるものならやってみるがいい!貴様が返り討ちに遭うだけだ。」
その場に冷たい殺意が満ちる。殺意が頂点に達した瞬間、二人が一斉に動く。ちなみに千歳の装備はいつもの装備に神殺刀を加えた装備、あの時と同じ装備だ。それに対してグリムゾンの装備はナイフ一本と脆弱だ。千歳の神殺刀とグリムゾンのナイフがぶつかった瞬間、凄まじい衝撃波が走る。その威力は誰も予想できないほどで、周囲にある花瓶やら窓ガラスが全て砕け散ったのだ。
「ほう?なかなかやるではないか、グリムゾン。父親譲りの腕力か。それとも相当な鍛錬を積んだか・・・。」(油断してると押し切られそうだな・・・。まずい・・・。)
「貴様如きが父を語るな!はぁぁぁ!!」
「むぅ・・・!?」(この腕力・・・異常だ・・・!まずい・・・!!)
「さぁ、涅槃へ逝くといい!はぁぁぁぁ!!」
「ぐおぁぁぁぁぁぁ!!」(まずい・・・深手だ・・・。これは自己治癒能力上げてても治すのに時間かかるぞ・・・?どうする・・・。)
「そんなものか魔王!そろそろ本気を出したらどうだ?それとも、それが本気か?」
「ふふふ、ふはははははは!!面白いぞグリムゾン!貴様は我に本気を出させるほどの器のようだ。ならば望み通り、本気で相手をしてやろう。『極・抜刀』!!『ハイ・スピード』!!」
千歳がその二つの魔法を起動したと同時にあたり一帯にドス黒い暗雲が立ち込め、魔王本来の魔力が解き放たれた。
「ほ、ほう?これが貴様本来の魔力か・・・。」(これは・・・。まさしく魔王だな。我に勝ち目があるとは思えん・・・。だが・・・やれるだけやるのみ・・・!)
「ここまで発揮したのは久しぶりだ。貴様、もう生きては帰れんぞ。我に本気を出させたこと、後悔しながら死んでいくといい。」
「やれるものならやってみるといい・・・。」
その瞬間には既に千歳は動いていた。千歳は起動した『極・抜刀』の光の刃を一気に振り抜く。それはまさに閃光のような一文字切りだ。その一文字切りにグリムゾンは対応しきれず、胸を大きく切り裂かれる。
「ぐぉぉぉぉ!!ここまで・・・とはな・・・。驚いたぞ、魔王。」
「ふん、この程度、まだまだ序の口だ。ここからまだ速くなるぞ?」
「貴様の全てを受けきって見せようではないか・・・!」
「その前に貴様の命が尽きることになるだろうな。」(冷静になれ、俺。魔王に飲まれすぎるな。どうしてここまで命を懸ける必要がある・・・?考えろ…考えろ・・・・。)
千歳の意識はほぼすべてが暴走した魔王に飲まれていたが、かろうじて生き残った脳でひたすらに考えを巡らせる。その間にも魔王としての身体は動き続け、グリムゾンの身体を十、二十と斬り続ける。
「ぐがぁ・・・。まだ・・・だ・・・。生きて・・・いるぞ・・・!」
「これで終わりだな。さぁ、死ぬといい。エミルと同じ、八つ裂きだ・・・!」(止まれ止まれ止まれぇぇぇぇ!!!)
「ごふっ!!」(これで終わり・・・だな。魔王よ。お前に人の心があるのなら、世界を平和に・・・・・)
魔王が放った最期の刃がグリムゾンを切り裂いた・・・・・ように見えた。
なんと、刃がグリムゾンの寸前で停止していたのだ。
「はぁはぁ。と。止まった・・・。」
「なんだと・・・?なぜ殺さなかった・・・。」
「お前、元々死ぬ気で来ただろ。『ヒール』」
その瞬間、グリムゾンの傷が見る見るうちに回復していく。
「ふん、全てお見通しという訳か。聞こうか、貴様の見解を。」
「まず・・・エミルは生きてるな・・・?」
「あぁ、魔族城の地下に監禁されている。」
「それに、お前が死ぬ気で来たのはこれ以上の争いを止めるためだな?」
「それもお見通しか・・・貴様には何一つ敵わんな。降参だ。」
「やっと降参しやがったか。地下のカギを貸しな。争いを終わらせるのはそれからだ。」
「わかった。これを使うといい。」
そう言って一本のカギを差し出すグリムゾン。その鉤を無造作に受け取り魔族城の地下へ向かう。
「エミル!!大丈夫だったか!?遅くなってすまなかったな。」
「魔王様!!怖かったですぅ!!特に怪我はありません!元気いっぱいです!!」
こうして千歳とエミルは再開を果たしたのだった。
そして時は流れ一週間の月日が流れた。
「魔王よ。本当にこれでよかったのか?」
「あぁ、これしかなかろう?それともこれ以外で何かあるというのか?」
「いや、ないな。では執り行おう。」
その日、魔族村にて祭典が行われていた。何の祭典なのか、それは魔族と魔王の争いの終結を祝う祭典だ。
「ここに、魔王との因縁を晴らそうぞ!皆の衆、我、グリムゾンが新たな魔族の長となり、この深き因縁に一つ誓いを立てようではないか!魔王は争いを望まぬ平和な魔王なり。故にここに全ての争いを放棄する!」
「「「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」」」
魔族の民から歓声が上がる中、一人魔王に忠誠を誓う者がいた。エミルだ。エミルだけは魔王に向けて膝間突いていた。
「エミル。面を上げよ。我は再び長き眠りにつく。だが、貴様ら魔族が争いを望んだ時、再び目覚め、蹂躙するとここに誓おう。」
民が怯えるのを尻目に、魔王千歳とグリムゾンが互いの手を取り合い、堅い握手を交わしたのだった。
その瞬間に千歳は指を弾く。
パチンッ!!
耐えがたい苦痛の中、最後に見た景色は・・・笑顔の花が咲いたエミルの姿だった・・・・・
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