花火が照らす親子
五百文字制限企画に参加するために書きました。もう一つのルールは「綺麗な花火……」を最初か、最後の一文にすることです。
「綺麗な花火……」
そんな事、汗だくの美紀は感じない。
今夜の花火大会など美紀の家庭には無縁だった。
木々が生い茂る森の中、シャベルで穴を掘り続けている。
隣には血まみれの夫の死体。
山道に車を停め、ここまで引きずって来るだけで疲れ果てた。
しかし、手を止める訳にはいかない。
このクズ。
酒に溺れ、ギャンブルに溺れ、暴力に溺れたクズ。
娘の澪が独り立ちしたら離婚すると決めていたのに。
澪はまだ中学生なのに。
背中に花火の光と轟音を感じながら穴を掘る。
澪を想うと力が湧いてくる。
穴が出来た。クズの墓穴。
死体を穴に蹴り入れた。右手が縁に乗っていて、再度蹴る。
土をかけ、死体が見えなくなったらシャベルでバシバシ均した。
汗まみれ、泥まみれの体で車を停めた場所へ向かう。
自分が死体を運んだ距離に驚く。
花火によって足元は、赤や青に照らされている。
やっと木々の隙間から車が見えた。
車の脇に人影。
車から降りるなと言ったのに――
シャベルを杖代わりに、娘のもとまで来た母は声を掛ける。力を込める。
「澪、忘れなさい。お母さんにまかせなさい」
服の下は痣だらけの母と、服の下は痣だらけの娘。
幼い人殺しは空を見て、小さく呟く。
「綺麗な花火……」
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