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【WEB版】エレメントエンゲージ ―精霊王の寵姫たち―【第1巻発売中/第6部まで完結】  作者: 雨宮ソウスケ
第4部

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第6話 産まれは塵。屑に塗れて

 草の匂いを嗅ぐといつも思い出す。

 草土を()む。

 それは、自分の人生にとっては当たり前のことだった。


(ろくでもねえ)


 歩きながら、その長身の戦士は思う。

 アッシュゴールドの短髪に、同色の瞳。

 年の頃は二十歳ほどか。精悍な顔立ちをしている。

 装備は革鎧と長剣。首からは冒険者カードを吊るしていた。

 そこには、レオという名と、D級の戦士であることが記されていた。

 戦士レオは、木々に挟まれた道を一人で進む。


(ろくでもねえ人生だった)


 ザッザッと土を踏む。

 産まれ落ちた場所、悪臭漂うスラム地区。

 産まれた時点では息をしていなかったらしく、死体も埋まるゴミ山に捨てられた。

 しかし、ややあって、ゴミ山の中で産声を上げた。

 そのまま死んでしまった方が楽だったのかも知れない。

 だが、どこぞの馬鹿が拾い、孤児院に投げ込んでくれやがったそうだ。

 糞ったれの人生の始まりだった。


(本当にろくでもねえ)


 思い返せば、自分の人生は本当にろくでもなかった。

 孤児院の日々は戦争だった。

 騒がしいという意味ではない。

 文字通りの戦争だった。

 食事は日に一度だけ。それの奪い合いだ。

 まだ幼児の頃はマシだった。

 流石に死なない程度には大人が面倒を見てくれる。


 しかし、六歳にもなれば、自分で食事を奪わなければならない。

 当然、強いのは年長者だった。

 敗北者はわずかな残飯を漁った。

 それもまた奪い合いだった。

 まともに食えず、空腹に苦しめられたのは一度や二度ではなかった。

 奪われる辛さを叩きこまれたのはこの頃だった。


 その孤児院は慈善施設ではなかった。

 十歳にもなれば仕事が斡旋される。

 主にスリ。他には強盗だ。

 子供であることを利用して襲うのだ。

 主に腕力や走力に優れた者が斡旋された。

 他にも娼館などもあった。

 男も女も関係ない。小児愛好家というクズ相手の仕事だ。


(………姉貴)


 木の葉の間から日の光が差し込む。

 レオは顔を上げて双眸を細めた。

 日の光は苦手だった。


 当時、レオは強盗組だった。

 それも命がけの仕事だったが、娼館組よりはマシだった。

 中には世渡り上手な者もいた。

 媚びを売って食事を得る。身請けされる者もいた。

 だが、当然ながら外れもあるのだ。子供を嬲るのが趣味の最悪の大外れが。

 姉貴分の初めての仕事相手もそうだった。

 姉貴は心を病んだ。

 そうなれば最後だった。

 孤児院にとって金にならない者は『卒院』だった。

 卒院後、姉貴がどうなったのかは知らない。


「…………」


 レオは無言で進む。

 姉貴は弱者だった。

 自分はああはならない。


 強者になる。

 誰よりも(したた)かな者になる。


 そのためには『力』が必要だった。

 今の虫けらのような生き方では『力』など手には入らない。

 だから、十一の時、自分から孤児院を出た。


(……そうだ。おれは……)


 レオは足を止める。

 続けて、腰の長剣を強く掴んだ。


(……おれは力を得た)


 そうして得たのがこの『力』だった。

 これを手に入れたのは偶然だった。

 闇商人同士の争いに出くわし、騒乱に紛れて盗んだ物だった。

 これはいわゆる『宝具』と呼ばれるモノだった。

 話だけは聞いていた。

 魔石を組み込んだ現代の『魔石具』とは違う。

 古代の魔法式が刻まれた極めて希少な道具である。

 もちろん、売れば相当な大金が手に入る。

 だが、そんなことは考えもしなかった。


 (ゴミ)のようだった自分が初めて得た力に心を震わせた。

 手探りで使用したこの宝具と相性が良かったことも幸運だった。

 流石に使いこなすのには相当な修練と代償を払うことになったが、それも構わない。

 これでようやく自分は強者側に立てたのだから。


 本当にようやくだった。

 ようやく、真っ当な産声を上げたような気がした。


(あの時、おれは生まれ変わったんだ)


 拳を固める。

 もう無力だった子供(ガキ)ではない。

 この『力』があれば、冒険者にもなれる。

 C級以上にもなれば最下層からの成り上がりも夢ではない。

 手に入れた時は、それも可能だと思っていた。

 その時、


(………ちっ)


 再び日差しが視界に差し込んでくる。

 (ゴミ)の中から産まれ、(クズ)どもに育てられた自分に日の光は煩わしかった。

 それは忌々しいほどにだ。

 だから、日の光は嫌いだった。


(……やれやれだ)


 自嘲の笑みを浮かべつつ、レオは再び歩を進める。

 ややあって、森の道を抜けた。

 その先には地下へと続く洞窟があった。

 ダンジョンである。

 暗い、暗い入り口だ。

 全く日の光が届かない闇の門。

 まるで地獄の底にでも繋がっているようにも見える。

 しかし、


「にひ。おれにとっちゃあ、むしろ居心地がいいか」


 日々こんな場所に好んで籠ることが冒険者というのならば、案外、自分に向いていた職業だったのかも知れない。

 皮肉気な笑みを零しつつ、レオは闇の入り口へと姿を消した。








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