第4話 父の行方は
およそ二時間後。
リタたちは別の部屋に案内されていた。
樹上家屋の一つ。
謁見の間と呼ばれている場所だった。
広くはあるが、樹皮で編まれた敷物ぐらいしかない簡素な部屋でもある。
流石に武器の類は取り上げられたままだが、リタたちは拘束もなく客人としてこの部屋に通されていた。
現在、この部屋にいるのは十人。
下座に座るリタたち五人と、無事に合流したクロ。
そして上座に座る金色の少年と、彼の後ろに控える三人の少女たちだ。
右から兎人族、虎人族。そして腕を人化させているため確証はないが、翼のような髪質から鷹人族だと思われる少女が並んでいる。
「改めて名乗るぜ」
あぐらをかいた金色の少年が言う。
「俺の名はホロ。この里の長をしている獣王ホロだ」
一拍おいて、
「そんで後ろにいんのが、俺の愛する嫁さんたち。右から兎人族のササラ。虎人族のテティ。そんで鷹人族のアルサだ」
「「「―――え?」」」
リタたちは少し驚いた。
獣人族は一夫多妻が多い。
早婚も多いので少年が既婚者でも不思議ではない。
しかし、妻が全員他種族の獣人だというのは驚きだった。
そんな中、
「獣王の第一妃・ササラです」
ササラが深々と頭を下げた。
「……第二妃のテティだ」
テティと紹介された虎人族の少女が腕を組んで名乗る。
そして、
「第三妃のアルサでございます」
鷹人族の少女が挨拶をした。
「まあ、色々あってさ。俺らは今、他種族との垣根を壊そうとしてんだよ」
金色の少年――ホロは朗らかな笑みを見せて言う。
リタたちはまだ少し困惑していたが、
「初めまして」
リタが代表して声を発した。
「あたしたちは冒険者のD級パーティー・星照らす光です。あたしはリーダーのリタ=ブルックスと言います」
「……へえ」
リタの名乗りにホロは双眸を細めた。
その後ろで、ササラとテティが少し目を見開いていた。
アルサだけはキョトンとしている。
そうして、メンバー全員が名乗りを上げてから、
「なるほど。あんたがリタさんか。けど、そっちのホウプスさんは何なんだ?」
ホロはそう告げて、ジュリの方に視線を向けた。
ジュリは「え?」と目を瞬かせる。
「私ですか? 何か気になることでも?」
ジュリがそう尋ねると、
「いやなに。リタさんの方はマーキングとは違うが、似た匂いがすんのは分かるんだが、あんたからもほんの少しだけ匂いがしたからな。不思議に思ってたんだが、まあ、それは今から話を聞けばいいだけか」
ホロは独白まじりにそう答えてから、
「ともあれ、あんたらの目的は事前にクロから聞いているよ」
そう告げる。リタたちの視線がクロに集まった。
クロは少し緊張しながらも、
「ぼ、ぼくから伝えられることは伝えました」
そう答えた。リタは「ありがとう。クロちゃん」と微笑んでお礼を言った。
ホロはふっと笑って話を続ける。
「そんで、あんたらは俺の姉貴のアロと、黒仮面に会いに来たんだよな?」
「え? お姉さん?」
いきなり初めて聞く情報に、リタたちは目を丸くした。
一方、ホロは気にせずに、
「おう。アロは俺の姉貴だ。そんで黒仮面だが……」
そこであごに手をやり、ニヤリと笑った。
「大当たりだよ。黒仮面――義兄貴の名前はライド=ブルックスだ」
「「「―――っ!」」」
リタたちは息を呑んだ。
特にリタとジュリはかなり浮足立った。
思わず軽く腰を上げていた。
今にもホロに詰め寄りそうである。
「おいおい。二人とも。王さまの前だぞ」
ライラが慌てて忠告する。
「そうだよ。落ち着いて。ジュリちゃん。リタちゃん」
と、カリンも制止の声を掛ける。
リタとジュリは「「グヌヌ……」」と二人揃って呻いた。
すると、
「獣王陛下」
ジョセフが両手をついて頭を垂れる。
「お尋ねしてよろしいでしょうか?」
「ああ。構わねえよ」
ホロが答える。
ジョセフは「は」と頷き、
「ここにおられる我が主君は、ライド=ブルックス氏のご息女であります。行方不明の父君を探してこの地に訪れました。氏はこの地におられるのでしょうか?」
興奮気味のリタに代わってそう尋ねた。
実に分かりやすい問いかけだ。
クロも含めて、リタたちの視線はホロに集まる。と、
「う~ん……」
ホロはボリボリと頭をかいた。
そして、
「実はさ。ライドの義兄貴はもうこの里にはいねえんだよ。俺らを奴隷商から助けてくれた後、しばらくここに滞在してから旅立っちまった」
そう告げた。
「ええェ……」「そんなぁ」
と、リタとジュリは露骨にがっかりした顔を見せる。
ホロは――ちなみにササラとテティも――申し訳なさそうな表情をした。
「すまねえな。リタさんが義兄貴の娘さんだってことがマジなのは分かるよ」
う~んと唸りつつ、両腕を組む。
「まあ、あんたの話はあの人たちからも聞いていたし、リタさんからは親子特有の深い愛情の匂いもしてるしな。まあ、どうしてかホウプスさんの方からも義兄貴の匂いが微かにしてんのが謎なんだが」
「あ。そういうこと。それなら」
ジュリが手を軽く上げた。
「私は先生――ライドさんの弟子なの。半年ぐらい前まで修行を受けてたわ」
「ああ。なるほどな。そういうことか」
ポンと手を打ってホロは納得する。
「その時の匂いがギリギリ残ってんのか」
そう呟いた時、
「あ、あの!」
リタが勢いよく身を乗り出した。
かなりそわそわとして、
「それで父はどこに向かったんですか! どの街ですか! どこの国ですか! あっ、そうだ! アロさんって人ならそれを知っているんですか!」
再び詰め寄りそうな勢いでそう尋ねた。
まあ、返答次第では間違いなく詰め寄ることだろう。
「ああ~もう。このファザコン娘は」
やむを得ずライラが立ち上がって、リタを両腕で羽交い絞めにした。
膝立ちのままリタが「グヌヌ!」と呻いていると、
「いや。姉貴も行き先は知らねえよ。つうか姉貴もこの里にはもういねえしな」
手をパタパタと振って、ホロはそう返した。
その台詞に全員がホロに注目する。
「え? アロさま、今は里におられないのですか?」
と、クロが呟く。これはクロも初耳だった。
ホロは「ああ」と頷いた。
「姉貴も旅立ったんだ。義兄貴の後を追ってな」
そこで優しい眼差しを見せる。
「姉貴はさ。元々ライドの義兄貴に付いていきたかったんだけど、俺の護衛のために里に残ってくれたんだ。けど、それもようやく目途がたったからな」
小さく息を吐いて、
「だから、俺はどうにもくすぶってた姉貴の背中を押したんだ。義兄貴に会いたくて仕方がねえ姉貴の背中をさ」
「「「……………」」」
リタたちは沈黙する。
特に、リタとジュリは何とも言えない顔をしていた。
今の話だけでアロという女性の想いを察することが出来た。
二人としては心中穏やかではいられない。
(ムムム。やっぱり)
(先生ってやっぱりモテるんだ)
リタとジュリが内心で唸る。
ただ、ここまではある意味で予想していた内容でもあった。
「だからさ」
予想外だったのはその後のことだ。
ホロが告げたこの台詞であった。
「義兄貴を追ってきたあの二人と一緒に旅立つことを勧めたんだよ」




