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【WEB版】エレメントエンゲージ ―精霊王の寵姫たち―【第1巻発売中/第6部まで完結】  作者: 雨宮ソウスケ
第3部

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第28話 いざ、東方へ!

 そうして。

 時間は現在に戻る。

 キヤジ王国。

 その海岸沿いの砂浜にて。



「――ふぎゅっ!」


 ライドとシャロンの恒例の模擬戦。

 百回目の戦いの決着がついた。


『バウっ!』


 それを示すように、少し遠くで座っていたバチモフが吠えた。

 勝者はライド。

 シャロンは、今日も砂浜で腰をついていた。


「あうゥ……」


 シャロンは俯いて、しょんぼりとする。


「また負けた。これでもう百回目だ」


「そう落ち込むことはないさ」


 ライドは苦笑を浮かべた。


「オレはシャロンよりも歳をとっている分、戦い方がずるいだけさ。それにシャロンは間違いなく成長しているぞ」


「……そうか?」


 シャロンは顔を上げた。

 ライドは「ああ」と頷く。


「フェイントが巧くなってきている。それに新たな技も得ただろう?」


「……そうだな。うん!」


 シャロンはニカっと笑った。


「前向きに考える!」


 そう言って、座り込んだままシャロンは跳躍(・・)した。

 ――ぼよんっ!

 と、豊かな双丘を抜群の緩衝材にしてライドにぶつかり、両足を絡めてライドの上半身にしがみついていた。

 実はこれこそがシャロンの新しい技だったりする。

 予備動作のなしの跳躍。その実態は氣で体を押し上げる加速だ。

 無造作に間合いを詰める何気に凄い技である。

 特に、殺意も敵意もなしに使われると、ライドでもかわしきれない。


「……シャロン。いきなり跳びつかないでくれ」


 シャロンを落とさないように腰を支えつつ、ライドはそう告げた。

 しかし、シャロンの方は、


「やだ。それに前向きに考えたぞ」


 そう告げて、ライドに首に両腕を絡めた。


「わっちは百回も負けた。だから、わっちはライドに百回愛されるんだ。百回も愛されたら、もうわっちはライドのお嫁さんだな」


 そこで満面の笑みを浮かべる。


「うん! そんなにいっぱい愛されたら、きっと子沢山だぞ!」


「……いや、シャロン」


 シャロンの台詞に、ライドは本気で困った顔をした。

 と、その時。


「こら」


 ――コツン。

 刀の鞘でシャロンの頭を軽く叩く者が現れた。

 サヤだ。隣にはタウラスの姿もある。バチモフも近づいてくる。


「シャロン。あるじさまを困らせないで」


 サヤは小さく嘆息した。

 そして、


「その件は、リタちゃんとティアさんの承諾を得るまで保留って決めたでしょう」


 そう告げた。シャロンは「……むう」と頬を膨らませた。

 それに対し、ライドは少し渋面を浮かべていた。


「モテるな。ライド」


 タウラスが真顔で言う。


「……言わないでくれ。タウラス」


 ライドは深々と嘆息した。

 まさか、こんな状況になるとは……。

 現在、ライドは二人の女性に好意を寄せられていた。

 腕の中のシャロンと、目の前のサヤだ。

 サヤからは明確な思慕と忠義を。

 彼女は絶対に「あるじさま」の呼称を止めようとしない。

 シャロンからも、先程のように直球の好意を向けられている。

 もともと叔父からお伽噺の主人公(ヒーロー)のようにライドの話を何度も聞いていたことと、初めて敗北した相手ということが切っ掛けのようだ。

 しかし、ライドとしては本当に困惑する事態だった。

 友人の姪っ子。二人同時。何より二人が愛娘(リタ)に近い世代だとか色々とあるが、そもそもライドはあまり恋愛に積極的ではなかった。

 どうしても、不機嫌そうな愛娘(リタ)の顔や、元恋人(ティア)の顔が思い浮かぶのだ。


 だから、彼女たちの想いを告げられた時、正直に伝えた。

 まずはリタのことを。

 自分には二人とさほど歳の変わらない娘がいると。

 養女であり、親権も失っているが、それでも自分は父親であるのだと。

 しかし、それに対して、


『ん? わっちは気にしないぞ』


 シャロンが言った。


『二歳差の娘になるんだな! 母ちゃんって呼んでくれるかな!』


 ライドは唖然とした。


『……私も気にはしません』


 サヤも言った。


『そもそも私はあるじさまの剣です。もちろん、ご息女には礼節を尽くしますが、私に夜伽を命じることは私の主君であるあるじさまの権利ですから。ただ……』


 サヤはそこで上目遣いにライドを見つめた。


『時折でも、あるじさまに愛されるのなら嬉しいんです』


 そう告げる声が緊張していることはすぐに分かった。

 サヤの覚悟に、ライドは言葉を失う。

 改めて、サヤにもシャロンにも真剣に応じなければならないと感じた。


『……実はな』


 だから、ライドはもう一つの想いを告げた。

 自分には想いを寄せる女性がいると。

 かつての恋人であり、十年以上も会えていないが、心の奥にずっといる女性だ。

 もちろん、ティアのことである。

 この旅では彼女との再会を望んでいると伝えた。再会して、もしも彼女の想いも、あの頃と変わっていないと言ってくれるのならば、結婚も視野に入れていると。

 かなりの本音だった。

 だがしかし。


『なら、わっちはお嫁さん二号だな!』


 シャロンは躊躇もなくそう返した。

 さらに彼女は言う。


『嫁さんが多い人はいっぱいいるからな!』


『待って。シャロン』


 サヤが、かぶりを振って続く。


『私の国にも大奥というのがあるの。だからそれは否定しないけど、あるじさまには正室に考えておられる方がいるんだよ』


 一拍おいて、


『だったらその方の許可を取らないと。私の夜伽も。あなたのことも』


『なるほど! それが筋か!』


 と、シャロンがポンと手を打った。

 こうして二人の間で話が決まったのだ。

 ライドとしては、二人の勢いに完全に押される形だった。

 話の流れ的に、完全に一夫多妻が前提になっている。

 ライドも流石に困惑するが、実のところ、自然な流れで出てくるぐらいに一夫多妻という慣習自体はそこまで少数派ではないのだ。


 代表的なのは獣人族だが、他種族でもその慣習はある。

 例えば、人族では一夫多妻というと、貴族や王族が後継のために側室を置くというのが一般的なイメージかも知れないが、一般家庭でも一夫多妻という国もあるのだ。

 妻同士の仲が良ければ、メリットもあるからだ。

 妻が家庭を守るという考えに囚われず、夫も含め、それぞれが働けば収入となり、子供を育てる場合でも協力して面倒が見られる。家族というよりも群族(クラン)という言葉が相応しい慣習だった。もちろん、デメリットもあるが、それは一夫一妻でも同じことだ。


 結局、生き方や愛の形は人によってそれぞれということだった。

 旅をする冒険者ならば、それを実感する機会も少なくはない。

 ライドも一夫多妻の慣習を否定はしなかった。


 だがしかしだ。


(……このオレだぞ?)


 ライドは思う。

 まさか、自分がそれに当てはめられるとは考えたこともなかった。

 なにせ、ライドの人生は、俗に言う『女っ気』がほとんどなかったからだ。


 幼い頃は、恋愛対象になり得る相手は、幼馴染のアリスだけだった。

 学生時代は、男友達の方が多く、あまり女生徒に声を掛けられることはなかった。

 道具店の店主時代も、女性とは世間話ぐらいしか記憶がない。

 今日という日まで愛した女性はたった一人だけ。ティアのみだ。

 だからこそ、ライドは、自分は恋愛には縁のない男だと思っていた。


 ただ実のところ。


 幼い頃は、圧倒的な美少女だったアリスが常に傍にいて。

 学生時代は、女生徒同士が牽制しあって声を掛ける機会を失って。

 冒険者時代は、ティアがいて、レイが周囲を蹴散らして。

 道具店の店主時代は、リタが鉄壁の防御(ガード)を敷いていた。


 それが真実なのだが、ライドが知る由もない。


(……本当に困ったぞ)


 抱きかかえていたシャロンを降ろして、ライドは嘆息した。

 何はともあれ、娘のリタと、元恋人のティアに会って承諾を得るというのが、サヤたちの中で大前提となった。


 ライドとしても有り難い。

 今は真剣に考える時間が欲しかった。

 二人とも魅力的だが、正直、今はまだ恋愛対象としては見られなかった。

 きっと、今の自分の恋愛対象は二十代前半ぐらいからなのだろう。

 シャロンは言うまでもなく、サヤでもまだ少し幼く感じるのである。

 ただ、年齢だけを理由にして、彼女たちの想いを雑には扱いたくなかった。


 そもそも、自分の想いも定まっていないのだ。

 別れた日から昇華も出来ないまま、ティアへの想いが消えないでいる。

 いや、この想いを消したくないのかも知れない。


(思い返せば、これまで忙しい人生だったしな)


 ライドは遠い目をした。

 ここまで自分の心について深く考えたのは初めてのことだった。


(まずはティアに会おう)


 改めてそう思った。

 この件を相談したい。

 そして、何より今の彼女の想いを聞いてみたい。

 そのためにも、東方大陸にいるガラサスに会いに行こう。

 彼なら、現在のティアとレイの行き先を知っているかもしれない。

 家出同然に冒険者になったというシャロンも一度連れて行った方がいい。

 きっと、ガラサスも心配していることだろう。

 心配と言えば、サヤも彼女の故郷に連れて行かねばらない。

 冒険者ギルドを通じてサヤは手紙を送ったそうだが、彼女の無事な顔をゼンキとマサムネに見せてやりたかった。そして騒動続きで忘れそうだが、不運(トラブル)を引き寄せるという魔剣の呪いも解いてもらいたい。

 それから、新たな仲間であるタウラスについてもだ。

 彼の仲間である女性の行方も道中で調べていくつもりだ。


 長い旅になりそうだった。


「サヤ。装備は整ったみたいだな」


 新しい羽織を着たサヤに言う。

 サヤは「はい」と頷いた。


「お時間をおかけしてすみません」


「気にする必要はないさ。それよりよく似合っているぞ」


「ありがとうございます」


 サヤはそう答えると、何かを期待するようにライドを見つめた。

 ライドは何となく彼女の頭に手を置こうとするが、サヤは少し頬を膨らませた。


(……う)


 手を止めて、ライドは呻く。

 この行為が、無意識の内にライドが彼女を子供扱いしている表れであると見抜いているようだ。ジト目でライドを睨みつけてくる。

 サヤとしては、ティアやリタと出会う前に、ライドのこの認識を払拭したいようだ。

 ライドは躊躇いつつも、サヤの頬に片手で触れた。


「……ん」


 サヤは小さく声を零し、ライドの手に自分の手を重ねて幸せそうに微笑む。

 一方、それを見てシャロンが、


「あ! サヤ! ずるいぞ! わっちも!」


「……シャロンはいつもあるじさまに跳びつくからダメです」


 そんなことを言い合う。

 サヤの頬から手を離して、ライドは小さく息を吐いた。


「なかなか大変だな。ライド」


 双眸を細めて、タウラスが言う。


「正直、タウラスが同行してくれて助かるよ」


 ライドが少し本音を零す。

 ともあれ、


「いずれにせよ、これで旅立ちの準備は完了だな」


 改めて仲間たちを見やる。

 サヤにシャロン。

 タウラスに、その隣で座って尻尾を振るバチモフ。

 彼らがライドの仲間であり、同行者だ。

 そして、


「それじゃあ、そろそろ出発しようか」


 ライドは宣言した。


 いざ、東方へ。

 彼の旅はまだまだ続くのであった。





 第3部〈了〉




読者のみなさま!

本作を第3部まで読んでいただき、誠にありがとうございます!


しばらくは更新が止まりますが、第3部以降も基本的に別作品との執筆のローテーションを組んで続けたいと考えております。

現在は『骸鬼王』の第11部を更新中なので、次は実に久しぶりに『クライン工房』の執筆を考えています。もし、それらの作品も読んで頂けたら嬉しいです!



少しでも面白いな、続きを読んでみたいなと思って下さった方々!

感想やブクマ、『★』評価で応援していただけると、とても嬉しいです! 

もちろん、レビューも大歓迎です!

作者は大喜びします! 大いに執筆の励みになります!

感想はほとんど返信が出来ていなくて申し訳ありませんが、ちゃんと読ませて頂き、創作の参考と励みになっております!

今後とも本作にお付き合いしていただけるよう頑張っていきますので、これからも何卒よろしくお願いいたします!m(__)m




最後に他作品の宣伝を!

よろしければ、それぞれ第1部だけでも興味を持っていただけたら嬉しいです!

何卒よろしくお願いいたします!m(__)m



『骸鬼王と、幸福の花嫁たち』第11部更新中!

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― 新着の感想 ―
「二歳差の娘になるんだな!」「私も気にはしません」←w。  シャロンとサヤが(いろいろな意味で)強すぎて、吹きました(笑)。他のヒロインたちも頑張らないと……(いえ。既にメチャメチャ頑張っていますけど…
[一言] 更新楽しみにしています。
感想一覧
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