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【WEB版】エレメントエンゲージ ―精霊王の寵姫たち―【第1巻発売中/第6部まで完結】  作者: 雨宮ソウスケ
第3部

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第12話 その頃のライドは②

 さて。

 場所は変わって第二層の来客室。

 その頃のライドは、


「……――」


 ベッドの上で未だ静かに眠り続けていた。

 だが、すでに熱もなく呼吸も安定している。

 後は目覚めるのを待つだけだった。

 そんなライドを、サヤはずっと傍で見守っていた。

 そして同時に考え続けていた。

 いかにして今の状況を打破するかをだ。


(よりにもよって海賊島……)


 サヤは眉をひそめる。

 海賊島の話は出航前に聞いていた。

 しかし、まさか訪れることになるとは思いもよらなかった。

 正直、危険極まる状況だった。


(けど、どうすればいいの……)


 いきなり脱出に向かうのは悪手である。

 ここは海賊たちの本拠地。

 噂によると、百を超える海賊団がいるそうだ。

 その上、このとんでもなく大きな要塞に関する地理も知識もなく、ライドの魔剣はここにあるが、サヤは無手のままだった。

 愛刀・霞桜は海の底に消えてしまった。

 サヤは無手の心得もあるが、出来れば武器は欲しかった。


(まずは武器。次にこの要塞の地理。後は船だけど……)


 特に最後が難しいかも知れない。

 この島が海上にあるのは間違いないだろう。

 なら流石に小舟で脱出とはいかない。少なくとも帆船が必要になる。

 そして帆船はたった二人で操船できるモノではなかった。


(他にも海図もないといけないし、どうすれば……)


 と、サヤが頭を悩ませていた時だった。

 不意に、廊下の方が騒がしくなったのだ。

 サヤが眉根を寄せて、丸まって座っていたバチモフが顔を上げた。

 多くの人間が走る男や、怒号のような声も聞こえた。

 ややあって騒々しい音は消えた。

 サヤは足音を殺して、ドアに近づいていく。

 サヤたちは一応扱いとしては『客人』だ。監禁されている訳ではない。

 だが、一応見張りはいたはずなのだが、ドア越しに人の気配はない。

 サヤは慎重にドアを開けてみた。

 廊下を除いてみるが、そこには誰もいない。見張り役もだ。


(何かあったの?)


 疑問に思うが、これは良い機会だ。

 情報不足の今、何かしらの情報を得られるかも知れない。


「バチモフ」


 サヤは部屋の中のバチモフに声を掛ける。


「私は少し調べてくるから。あるじさまをお願い」


『――バウっ!』


 バチモフは尻尾を振って元気よく応じた。

 サヤは頷き、部屋を出た。

 音もなく走る。同時に頭の中で地理をマッピングしていく。


(要塞だけど、凄く不格好。継ぎ接ぎして造ったみたい)


 そんな感想を抱く。

 事実、廊下の壁一つにしてもいきなり造りが変わっている。

 極端な部位は煉瓦造りから木造に変わっていた。


 ともあれ、サヤは進み続けた。

 すると、かなり大きな広場へと出た。

 酒場のような場所だった。事実そうなのだろう。

 だが、今そこは大変なことになっていた。


(―――え?)


 サヤが目を見張る。

 大広場は荒れに荒れていた。

 散乱したテーブルに酒。そして怒号を上げる男たち。

 しかし、サヤが驚いたのはその中央だった。


「捕まえろ! だが殺すな!」


「いや無理だろこれ――ボへェ!?」


 そんな声が上がる。

 広場の中央。

 そこには男たちを相手に大立ち回りをする少女がいたのだ。

 白いドレスを着た凄く小柄な少女だった。

 輝くような翡翠色の髪。

 とても綺麗な顔立ちで、白いドレスも相まって深窓の令嬢を彷彿させる。

 しかし、その動きはとても令嬢のモノではなかった。なにせ、小さな拳の一撃で大の男が壁まで吹き飛ばされているのである。

 男たちは武器まで持ち出しているのだが、彼女の動きをとらえきれない。迫り来る男たちを掻い潜り、拳や蹴撃を繰り出していた。


「わっちの(ヘルム)はどこだ!」


 少女はそんなことを叫んでいる。

 サヤの頭の中は疑問符だらけだった。

 そもそも戦闘の様子もおかしい。小柄である少女のリーチは男よりも短い。武器を持てば尚更だ。だから拳が懐まで届かないケースがある――のだが、

 ――ドンッ!

 触れてもいない男が吹き飛んでいく。

 そこでサヤは気付いた。


(あの子、凄い……)


 サヤの無色の左目は邪氣や虚鬼の気配のみあらず、通常の氣も視認できる。

 だからこそ、サヤには視ることが出来た。

 少女が繰り出した細い腕が、大きな氣の腕に覆われていることに。

 蹴撃の際も同様だった。彼女の足が氣で覆われているのだ。


(あれでリーチの差を埋めているんだ)


 戦士や武闘家が操る氣には大きく分けて二種類ある。

 一つは内氣。体内で氣を循環させて身体能力を上げる技だ。

 そしてもう一つは外氣。

 これは体内の氣を体外へと放出する技だ。氣弾とも呼ばれている。

 あの少女が行っているのは外氣だった。

 しかし、本来、外氣は体外へ放出するとすぐに消失してしまうのだが、あの子は器用にも体の周辺に留めて、相手にぶつけた後は体内に戻しているのである。


 これはサヤにもとても出来ない真似だった。

 すると、少女はさらにとんでもない真似をした。


「――ゴウガ流奥義!」


 両の拳を腰だめに構える。


破軍破城大滅壊はぐんはじょうだいめっかいっ!」


 そして右拳を撃ち抜いた!

 直後、男たちを巻き込んで凄まじい衝撃が奔る! 

 それは壁も砕いて大穴を空けた。

 サヤは思わず息を呑んだ。

 これぞ正統なる外氣。氣弾だった。

 砲撃のような威力も瞠目すべきだが、その技自体にサヤは驚いていた。


(あれ? 今の技って?)


 どこかで見た記憶があった。

 果たしてどこで見たのか。

 思わずそこで考え込んでいると、


「―――え?」


 サヤは目を丸くした。

 いきなり少女がこちらに走り出してきたのである。

 気付けば男たちは全員倒れている。立っていたのはサヤだけだった。

 少女はサヤも敵だと認識しているようだ。


「わっちの(ヘルム)を返せ!」


 そう叫んで、サヤにも拳を繰り出してくる!

 サヤはギョッとしつつも迎え撃った。掌底で少女の拳を受け流す。


「――むむ!」


 初手を防がれた少女は逆三角の眉を吊り上げた。

 そして猛攻が始まった。

 拳、襲撃、肘に膝。小柄な体を躍動させて襲い来る!


(うわっ! うわっ! うわっ!)


 サヤは猛撃を巧みな体術で凌ぐ。

 だが、この少女は恐らく生粋の武闘家だ。侍であるサヤが無手で凌ぎ続けるには無理がある。徐々に圧され始めていた。


「――むむむ!」


 しかし、少女の方としては防がれ続けたことに苛立ちを覚えたのか、後方に跳んで大きく間合いを取った。

 そうして、


「――ゴウガ流奥義!」


 再び両の拳を腰だめに構える。

 サヤは息を呑んだ。

 先程の氣弾でサヤを吹き飛ばすつもりだ。


(かわせない!)


 サヤは両腕を交差させて防御の姿勢を取った。

 口元を強く結んで衝撃に備える。

 ……が。


(………え?)


 結局、衝撃は来なかった。

 代わりに一つの影がサヤの隣を通り抜けていく。

 白いドレスの少女だった。

 どうやら氣弾の構えはフェイントだったらしい。

 サヤが手強いと感じて、少女は無視することに決めたようだ。

 サヤとしては別に彼女と戦う理由はない。

 しかし、振り返って息を呑む。

 何故なら廊下の奥。少女が向かう先にライドがいたからだ。

 グルードゥとの戦いでボロボロになったアーマーコートを羽織って、鞘に納まった魔剣を左手に携えている。隣にはバチモフの姿もあった。


 彼が無事に起きてくれたことは嬉しい。

 だが、タイミングが最悪だった。

 白いドレスの少女は、当然のようにライドを敵と見なした。


「わっちの(ヘルム)を返せ!」


 サヤに対してと同じ台詞を叫んで、走る勢いで大きく跳躍して蹴撃を繰り出した!

 対するライドの反応は、目覚めたばかりで少し鈍かった。


「あるじさま!」


 サヤが声を張り上げる。

 ――が、


「――――え?」


 白いドレスの少女の唖然とした声が零れた。


 それは一瞬のことだった。

 まだ本調子ではなかったライドは無意識に動いていた。

 半身の姿勢となって右の掌底で跳び蹴りを強く打ち払ったのだ。当然、少女は空中で大きくバランスを崩す。そのまま床に落ちるはずだった。

 と、そこでライドはハッとする。


「ッ! しまった!」


 ライドは咄嗟に魔剣を手離した。

 ほぼ同時に地を蹴って、空中の彼女を両腕で拾い上げる。

 勢いよく少女を抱え込んだため、ズザザと靴が床を擦った。

 そこまでが一瞬の展開だった。

 気付けば、少女は抱きかかえられる形でライドの両腕の中に納まっていた。

 なお、魔剣はバチモフが咥えていた。


 数瞬の沈黙。

 そうして、


「……すまなかった。怪我はないか?」


 ライドが少女に問う。

 彼女は茫然としていたが、反射的にコクコクと頷いた。


「……そうか。良かった」


 ライドは安堵の息を零しつつ、


「だが、遊びだとしてもダメだぞ。いきなり人を蹴ってはいけない」


 そんなことを言った。

 少女は、パチパチと目を瞬かせている。

 どうしてライドがこんな台詞を告げるのかといえば理由がある。


 彼女は人族なら十一、二歳ぐらいの身長だった。

 実際のところは、あくまで背が低いだけであり、その手足や全身の成長具合は決して幼くはないのだが、流石に一瞬では見極めようもない。


 要するに、ライドは子供が悪ふざけで蹴りつけてきたと思ったのである。

 それを反射的に打ち払ってしまった。

 だから、落下する前に慌てて拾い上げたのだ。


「しかも裸足じゃないか。靴をなくしたのか? バチモフ」


 ライドは愛犬の名を呼ぶ。

 バチモフは魔剣を咥えたまま、ライドの前に移動した。


「すまない。少し手足の力を緩めてくれ」


「あ、うん。分かった」


 彼女は素直に頷いた。

 無意識にしがみついていた両腕と両足から力が抜ける。

 ライドは少女をバチモフの背に座らせた。


「素足だと怪我をするからな。しばらくはバチモフの上に乗っているんだ」


 そう告げて、ライドは彼女の頭に、ポンと手を乗せた。

 次いで、


「……さて。この子は迷子か?」


 小さくそう呟く。

 それから、ライドは唖然とするサヤの方を見やり、


「ああ。サヤ。状況が分からないんだ。ここはどこで何があったんだ? この子の両親はどこにいるんだ?」


 そんなことを尋ねるのであった。



 ライド=ブルックスの冒険は続く。




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― 新着の感想 ―
[一言] これ、わっちに勝ったことになるのでは? 嫁増えた?w
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