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【WEB版】エレメントエンゲージ ―精霊王の寵姫たち―【第1巻発売中/第6部まで完結】  作者: 雨宮ソウスケ
第1部

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第5話 その頃のライドは①

「ぐはあぁ……疲れたあ」


 とある宿屋の一室にて。

 腰に長剣、軽鎧(ライトメイル)を着たオレンジ色の髪の少年が丸テーブルの上に突っ伏した。


「最悪。何だよ、戦勝パレードって」


 そう呟く。


「ふふ、これも勇者さまの試練ですから」


 そう告げるのは神官服のおっとりした栗色の髪の少女だった。

 少年と同じく丸テーブルの席に腰を掛けてポンと手を叩いている。


「それよ。マジで最悪だわ」


 と、告げるのも少女だった。

 赤い三角帽子とローブ。ボリュームのある長い髪も赤色だ。


「何が『勇者の試練(クエスト)』よ。なんでまだE級の私たちが幼成体でもレッドドラゴンなんて化け物と戦わなきゃいけなかったのよ」


 勝気な眼差しを持つ赤い髪の少女が少年を睨みつける。

 少年は「うぐっ!」と呻いた。

 少年の名はアレス。勇者である。

 栗色の髪の少女は、そんな彼に仕える神官ララ。

 赤い髪の少女は、精霊魔法師のジュリだった。

 三人はE級パーティー・輝ける星(シャインホルダー)のメンバーだった。

 全員が十六歳。そして同郷の幼馴染でもあった。


「仕方がねえだろ。これが勇者の体質なんだから」


 と、顔を上げてアレスが言う。

 冒険者には多種の職業があるが、その中でも勇者という職業は特別だった。

 特徴としては万能職。戦士と神官と精霊魔法師の能力を併せ持つ職種である。

 戦士と精霊魔法師の能力を持つ魔法剣士。または戦士と神官の能力を有する神聖騎士の上位職とも言える職だった。


 ただ、勇者にはそれら以外にもう一つ特性があった。

 それが通称『勇者の試練(クエスト)』である。


 とある高名な識者は、それは災厄に対するカウンターなのだと語った。

 人の手に負えない災厄に対し、立ち向かう者こそ勇者なのである。

 そのため、勇者は非常にトラブルに巻き込まれやすい体質でもあった。

 仲間としては嫌われそうな職なのだが、意外と敬遠されることはなかった。

 何故なら勇者は豪運の持ち主でもあり、災厄を前にしてもその生存率はずば抜けていたからだ。『勇者の試練(クエスト)』を達成した時の恩恵が凄まじいこともある。


 勇者とパーティーを組んで一気に飛躍した者たちも多い。

 事実、十三組あるS級パーティーの内、勇者がいるパーティーは九組もあった。


 そして今回、アレスたちも『勇者の試練(クエスト)』を達成した。

 突如、王都近くのダンジョンに飛来したレッドドラゴンの幼成体の討伐である。

 たまたま(・・・・)居合わせたアレスたちが迎え撃つことになったのだ。


 魔獣の中でも最強種である竜種の一体。しかも純血種だ。

 あのまま放置すれば被害は甚大だった。

 アレスたちはどうにか討伐し、結果、今朝のパレードに繋がったのである。


 だが、正直、三人ではとても手に負えない相手だった。

 四人目がいたからこその勝利である。


「確かに、勇者とはそういうモノだからな」


 そう告げるのは四人目。

 席に座り、コーヒーを口にするライドだった。


「……おっさん」


 アレスはライドを睨みつけた。


「あんた、なに一人だけパレードぶっちしてくれてんだよ」


「あんなものは性に合わないしな。それにオレはお前たちのパーティーでもない」


 コーヒーをテーブルに置いて、ライドは言う。

 ララとジュリも、ライドに視線を向けた。


「お前たちとは何かと縁があったから手を貸したが、今回、レッドドラゴンに止めを刺したのはアレスだ。これはお前たちの戦果だ。若き勇者パーティーの活躍にロートルが出張るなんて無粋だろう?」


「そんな……」ララが眉を八の字にした。


「そんなことありません。ライドさんは何度も私たちを助けてくれました」


「……まあ、おじさんはアレスの百倍は役に立つわよね」


 と、ジュリが顔を逸らして呟いた。

 素っ気なく見えるが、その頬は若干赤らんでいる。

 そんな幼馴染の様子にアレスは「……ぐ」と少し呻いた。

 一方、ライドは、


「光栄だな。だが、オレはそろそろお暇するよ。別の国に向かおうと思う。もし縁があればまた会おう」


 そう告げて立ち上がった。

 そして出口に向かうと、


「……おい。おっさん」


 アレスが不意に声を掛けた。

 続けてアレスは重心を深く沈めて加速。強く踏み込んで抜剣した!

 狙いはライドの胴だ。

 しかし、


 ――ギィンッ!


 その剣はライドがわずかに引き抜いた魔剣の刀身で防がれた。

 剣を交差させた姿勢のまま、アレスとライドは互いの視線を重ねた。

 数秒経ってジュリとララが青ざめて立ち上がった。


「ちょっと!? 何してんの!? アレス!?」


「アレスくん!? なんてことを!?」


 それに対してアレスは、


「どうよ。おっさん」


 不敵に笑った。


「ようやくあんたに剣を抜かせてやったぜ」


「ああ。そうだな」


 ライドは微笑む。


「見事な太刀筋だった。剣を抜かねば防げなかったな」


 感慨深くライドは言う。

 アレスたちとは一年ほどの付き合いだ。

 パーティーを組んだ訳でもなく、縁があって何度も遭遇した間柄だった。


 同じE級冒険者。

 仕事で協力したこともあれば、対立したこともあった。

 出会った頃のアレスにはこれほどの斬撃は繰り出せなかった。


「強くなったな。アレス」


 言って、ライドはアレスの髪をわしゃわしゃと掻いた。


「ああっ! だからわしゃわしゃすんなよ! 俺はガキじゃねえぞ!」


 アレスは憤慨する。ライドは「すまない」と言って苦笑した。


「昔のことだが、オレにはお前以外の勇者の知り合いがいてな。そいつが頑張ったら同じことをしてたんだよ」


「何だよそれ。そいつガキかよ」


「ああ。当時あいつは十一だったな」


「ホントにガキじゃねえか!? 俺そんなんと同列扱いなのか!?」


 愕然とするアレスに「ははは」とライドは笑った。

 すると、アレスが不意に真剣な顔を見せた。


「……なあ、おっさん」


 一呼吸入れて、


「真面目な話をすんぞ。おっさん。俺たちのパーティーに入んねえか?」


「アレス!」「アレスくん!」


 ジュリとララが驚いた顔をする。

 が、すぐに何かを期待した表情をライドに向けた。

 数瞬の沈黙。

 ライドは口を開いた。


「すまないな」


 そう切り出して、


「気持ちは嬉しいが、オレには応えられない。そもそも今回の件でお前たちは恐らくC級にまで昇格するはずだ。E級のオレではパーティー参加は認められないだろう」


 パーティーメンバーは全員同格でなければならないというのがギルドのルールだ。

 絶対ではないが、出来れば遵守を推奨されている。


「なに言ってんだよ」


 すると、アレスはムッとした表情を見せた。


「あんなもん、ただの推奨じゃねえか。それにおっさんは絶対E級じゃねえだろ。仮にE級でもおっさんなら速攻昇格だろ」


「……確かに昔取った冒険者カードが随分と前に失効していたからな。この機会にF級から新たに取り直したのは事実だが……」


 ライドはあまり昇格に興味はなかった。

 冒険者カードを取り直したのも各国での身分証代わりに役に立つからだ。


「オレにはオレの旅があるんだ。すまない。アレス」


 アレスたちは沈黙した。

 ややあって、アレスは剣を納めて嘆息した。


「……分かったよ。仕方がねえよな」


「……ライドさん」


 ララが一歩前に出る。


「これまで何度も助けてくれてありがとうございました」


 目尻に微かに涙を溜めて、ララは言う。

 ライドはそんな彼女の肩に手を置いた。


「アレスはやんちゃだからな。これからもララが面倒を見てやってくれ」


「はい。アレスくんは私の勇者ですから」


 ニコッと笑ってそう返す。

 アレスは少し顔を赤くして気まずそうだった。

 次いで、ライドはジュリの方に目をやった。


「……ジュリ」


 彼女の名を呼ぶ。

 ジュリは三角帽子を脱いで手に持っていた。

 上目遣いでライドを見つめている。

 アレスには剣技を。この子には精霊魔法を教えていた。

 ライドにとっては大切な愛弟子だった。

 だから、


「……ジュリ」


 とても優しく彼女の頭を撫でた。

 ゆっくりと。

 深く愛情を注ぐ。

 それは数秒ほど続いた。

 そしてライドの手が離れると、


「………あ……」


 ジュリは泣き出しそうな表情で顔を上げた。

 思わず三角帽子を落として、両手をライドへと伸ばしている。


「……頑張れ。ジュリ」


 ライドは優しい声でエールを贈った。

 ジュリはぐっと口を強く結ぶと、


「……うん。頑張る」


 そう返した。


「さて。オレはそろそろ行くよ。汽車に乗り遅れそうだ」


「ああ。またな。おっさん」


 アレスはプラプラと手を振った。

 が、不意に、


「なあ、最後に教えてくれよ」


 アレスは尋ねる。


「おっさんはなんで旅をしてんだ?」


 そう問われて、ドアに向かっていたライドは足を止めた。

 アレスたちの方に振り向く。

 そして、


「そうだな。強いて言うのならただ旅をしたかったからだな。この目で世界を見てみたかったんだよ。しかし、本音のところを言うのなら――」


 一拍おいて、ライドは自嘲気味に告げた。


「オレは今、傷心旅行中なんだろうな」




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