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【WEB版】エレメントエンゲージ ―精霊王の寵姫たち―【第1巻発売中/第6部まで完結】  作者: 雨宮ソウスケ
第2部

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第11話 舞台の裏では

(……おいおい)


 ダンジョンの最下層。その壁上側にある一角。

 まるで見晴台のように最下層の様子が窺える切り立った場所にて。


(ここで序列四位が出てくるのかよ)


 寵姫同士は互いに引き合うとでも言うのか。

 最下層の様子を窺いながら、男は渋面を浮かべていた。

 腰に短剣。黒いジャケットにテンガロンハットを身に着けた男である。

 彼の視線の先には赤い精霊魔法師の姿があった。彼が雇った新人狩りどもを容易く一掃し、自分の倍ぐらいはありそうな大男を一方的に打ちのめした少女だ。


 その精霊数は一万六千。

 我らが姫さま……麗しき盟主(レディ)を抑えての序列四位だ。

 ジュリエッタ=ホウプスである。


 盟主(レディ)のお言葉では、あの莫大な精霊の加護は別にかの青年の好感度をそのまま示す訳ではないそうだ。言わば精霊たちの忖度で成り立つらしい。


 だが、それでも不満は残る。

 我らが盟主(レディ)の上に行くなどあってはならない話だった。

 臣下としては忸怩たる想いではあるが、盟主(レディ)は寛大な御方だった。他の寵姫の存在も認めておられているとのことだ。

 少なくとも命を奪うような真似は禁じられている。


(姫さまは寛大でお優しき方だ。けどよ)


 男は思う。

 果たしてそれでいいのだろうか。

 そもそも姫さまに並ぶ寵姫など許しがたい存在なのである。

 盟主(レディ)こそが唯一無二。偉大なる始祖の血を引かれる御方なのだ。

 船団長(イリシス=ガド)などは何事も盟主(レディ)のお言葉を優先すべきと考えるが、彼は違う。

 主君が口に出さないような汚れ仕事も進んで行う。

 それこそが真の忠義と言うものだ。

 ゆえに今回は独断で動いたのである。


(ここで『娘』共々始末しておきたいところだが……)


 盟主(レディ)に心酔するこの男の名はサガン=クオズ。

 知識海図(ミストライン)の五船団の一つ、西方船団(ウェストガレオン)に席を置く者だ。

 そして第三番船の船長を担う男だった。


 知識の大海原を管理する知識海図(ミストライン)において階級は『船』を思わすモノになっていた。

 まずは下級職。基盤を担う船員(クルー)たち。三級から一級船員(クルー)までがいる。

 そこから十人長たち、百人長たちが選ばれ、その上に幹部である船長がいる。

 五つある各船団には八つの船があり、船長は八名ずついた。

 そしてその上に五人の船団長。最高幹部がいる。


 全構成員は九万人オーバー。

 それが麗しき盟主(レディ)率いる知識海図(ミストライン)の構成だった。


 大いなる古代の知識と遺産は、すべて始祖の末裔たる盟主(レディ)のモノなのだ。

 だが、それを理解しない愚者があまりに多く、古代の知識、遺産の回収は時に力を以て執行せざるを得なかった。そのため、幹部級は誰も実力者なのである。

 西方船団(ウェストガレオン)における八船長の一人であるサガンも例外ではない。


 だからこそ、その気配には気付いていた。


「……なあ、あんた」


 背後に声を掛ける。


「いつまで隠れているつもりだ?」


 壁の一角を見やり、そう尋ねる。

 しばしの沈黙。

 ややあって景色が歪んでいった。

 そうしてそこに現れたのは、腰に細剣を差す、白い全身甲冑の騎士だった。


「……その鎧……」


 サガンは即座に見抜いた。


「魔石を組み込んだ鎧か。効果はステルスか? 宝具を真似た()(せき)()か」


 最近の技術として魔石を組み込んで特定の魔法を付与された武具や防具がある。

 総じて『魔石具』と呼ばれる道具だ。

 破壊されない限り半永久的に効果が持続する宝具に比べて、定期的に魔石を交換しなくてはいけないために高額で維持費もかかるが、付与されている魔法には呪文を唱える必要がないため、重宝されている道具だった。

 恐らくあの鎧には(エア)系の精霊魔法がストックされているのだろう。

 それを使用して白騎士は景色に溶け込んでいたようだ。


「……あんたは誰だ?」


 サガンは問う。


「風を起こしてガスの効き目を抑えたのもあんただろ? 応援を呼び寄せたのもか? なんであの連中を助けるんだ?」


『私の方こそ聞きたい』


 白騎士が男とも女とも聞き取れない声で問い返す。


『お前こそ何者だ? 新人狩りではないだろう? どうして彼女たちを狙った?』


「おいおい。俺が先に質問しただろ」


 サガンは肩を竦めた。


「答えてくれよ。気になって仕方がねえ」


『……私は』


 白騎士は腰の細剣の柄に手を置いて言う。


『通りすがりの冒険者だ。新人狩りに遭遇して見過ごせなかった。それだけだ』


「よく言うなあ」


 サガンは呆れたように目を瞬かせた。


「あんた、少なく見積もってもB級以上だろ? こんな低ランクのダンジョンに通りすがるようなレベルじゃねえだろ」


『………』


 白騎士は無言だ。サガンは「はあ……」と嘆息した。


「真面目に答える気はねえってか?」


 ……なら少し探るか。

 サガンは双眸を細めた。


「ああ~やれやれ。察するにあんたはあの娘の護衛者ってところか? それもB級以上を付けるって何なんだよ」


 一拍おいて、


「天象剣はどんだけ娘に過保護なんだよ」


『………』


 白騎士は未だ無言だった。

 そこからは何も察することは出来ない。


(……徹底してんな)


 サガンは内心で舌打ちする。

 無用なことは喋る気もない構えだ。これ以上は情報の引き出しも無理そうだった。


「ああ~、今回は失敗か」


 サガンは頭を掻いた。


「まあ、機会はまたある。今回はこれでお暇させてもらうぜ」


 そう告げた。

 途端、白騎士が動いた。凄まじい速さで刺突を繰り出したのだ!

 それはサガンの心臓めがけて突き進むが、一瞬後には空だけを貫いた。

 サガンの姿が一瞬で消えたからだ。

 どこかに隠れた訳ではない。完全に消えたのだ。


(失われた転移魔法? いえ、違う……)


 白騎士――アニエス=ストーンは眉をひそめた。

 恐らくそれとは違う。

 全く別系統の力だ。直感がそう告げていた。

 いずれにせよ、あの男はすでにこの場にはいないようだ。

 アニエスは細剣を納めた。


(けど、どういうこと? あの男は何なの?)


 この鎧が表情をすべて隠してくれたが、動揺していない訳ではなかった。

 先程の男は一体何者だったのか。

 正直、勝てるかどうか分からない相手だった。

 そんな男がどうしてリタたちを狙う?


(狙いはリタだったの? いえ。あの男の言葉からだと、カーラスさんやグラッセさんの可能性もあるけれど……)


 アニエスは崖沿いに近づき、最下層に目をやった。

 そこでは毒から復帰したカリンがリタに治癒魔法を施しているところだった。


(……良かった)


 あの傷なら痕にも残らないだろう。

 みすみすリタに傷を負わせてしまったことは心痛ではあるが、いくら盾の覚悟をしたとはいえ、介入しすぎてはあの子の成長を妨げてしまう。

 路傍の石であることを望んでいても、あの子を躓かせる石であってはいけない。

 介入の見極めはとても難しいところだが、今回はこれが限度だと判断した。


(けど、本当にどういうこと? 天象剣ってなに?)


 アニエスは再び眉をひそめる。

 あの男は謎だけを残してくれた。

 しかも、またリタたちを襲撃すると匂わせてだ。


(いずれにせよ)


 アニエスは強く細剣の柄を握った。


(あの男はリタたちに近づけさせない。次に遭遇した時は必ず捕らえて、目的や裏の関係をすべて吐かせるだけよ)


 そう決意する。と、その時。

 ……チチチ。

 どこからか小鳥の声がした。

 アニエスが指先を上げると、そこに小鳥がとまる。

 手乗りサイズの丸々としたシルエットの愛らしい小鳥だ。

 しかし、それはただの小鳥ではなかった。

 半透明の小鳥だった。


『……ありがとう』


 アニエスは感謝を告げる。

 この小鳥は精霊魔法の産物だった。


 遥か昔。幼き日。

 ライドから教わった魔法だった。

 いつしか使えなくなっていた魔法だった。

 けれど、今は何故か使えるようになっていた。


『また、あの子が危険だと思ったら教えてね』


 アニエスは小鳥にそう願った。

 半透明の小鳥は『チチチ』と鳴くと風景に溶け込んで消えていった。

 アニエスは双眸を細めた。

 そうして再び眼下に視線を戻す。

 そこには傷が完治して立ち上がる娘がいた。

 もう一度だけ彼女を見やり、


『…………』


 アニエスは踵を返した。

 ただ静かに。

 誰にも知られずその場から立ち去って行くのだった。







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