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序
これからお話しするのは、私と大切な人を巡ったちょっとしたお話しです。此処にいらしたのです、折角だから其処の椅子にお座りください。そして、私どもの話を聞いていってくださいな。
どこにでも転がっていそうなありきたりな小咄でありますが、この間偶然彼らの手記を手に入れたのでそれも交えつつ話していこうと思います。
そんな重苦しい話ではないですよ。ただ、貴方にこの話を書いていただきたい。あぁ、そうです。この前の戦争で右腕を無くしまして、思うように書けないのです。よろしいでしょうか?すみませんね、ありがとうございます。私の最期の小説として、出版していただきたい。彼らのことを金儲けのダシにしたいわけではございません。私の人生のなかで、最も美しく、哀しい物語。しがない小説家として、書かずにはいられませぬ。
話が少々逸れましたね。では、話させていただきましょう。あれは確か、大正八年頃のことであったと思われます。