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ウチは妖怪お悩み相談室  作者: 森野 熊漢
1/2

妖怪が居候しています

なろうは初投稿です。

十年前ほどにノートに書いてたやつが出てきたので、ところどころ変えながら投稿する予定です。

五月のとある土曜日の朝。


「司さん、朝ですよ。起きてください?」


そんな声が聞こえたことで、俺、天条司は目を覚ました。

とはいっても、頭はぼんやりとしているし、目は全くと言っていいほど開いていない。それもそのはずで、昨日が自分でも考えられないくらいバタバタしていたから疲れてしまったからである。

怠さが抜けないため、寝返りを打って、もう少し寝ようとして。


「……うん?」


寝返りをうてなかった。転がろうとする身体に何かが当たって邪魔をしている。


「……んだよ、これ……」

「ひゃいっ!?」


目を瞑ったままそれを掴む。ふにっと柔らかくて触り心地はスベスベ。少しヒンヤリとしており、なんだかずっと触っていたいと思うような感触。


(ん、こんな触り心地のいい素材のモノ、確か部屋に……)


あったっけ? と疑問に思ったところで、目を開けると。


「……腕?」


目の前に真っ白な手。そして腕がベッドに対して垂直に立っていた。どんどん目線を腕から上げていくと。


「あ、やっと起きました……?」

「……」


一人の女性が俺に覆いかぶさるような恰好をしていた。

見ただけでもサラサラだとわかる白い髪。髪に負けじと真っ白な着物のような服に、それ以上に白くて透き通っているかのような肌。灰色の色素を持つ目が俺をのぞき込んでいた。

……とにかく。


「冷華。この状況は一体?」


冷静でクールに問いを発するのが一番である。


「それはですね」


俺が名前を呼ぶと、女性、冷華はにっこりと微笑んだ。どんな答えが来ても、興奮せず、冷静に答える自信が俺にはある。


「司さんを起こすために、ちょっと覆いかぶさってみただけですよ? 何か問題でも?」

「ありまくりですが!? むしろ問題点しかないが!?」


前言撤回。冷静に答えられる範疇を超えていた。

俺の反応に、冷華は「……むむっ」と唸りながら考え込み始めた。そういや昨晩のテレビに映ってた芸人さんにネタでこんな唸り方する人いたな。……にしても、そんな考えこむようなことだろうか。


「……ああ、そういうことですね」


言って、冷hなあはベッドの上からのいてくれた。どうやらわかってくれたらしい。


「私があのままだと、司さんは起きるに起きられない。そういうことですね?」

「間違ってないけど、世間一般的にはもっと大きな問題点があったんだよなあ?」


何一つわかっていなかったらしい。


「違うんですか? それなら……よいしょ、と」

「……なんでまたさっきと同じ体勢になろうとしているわけ?」


慌てて身体を起こし、動きを阻止する。危ない。一体何が起きているんだ。寝起きの俺には何一つわからないよ。


「いえ、もう一度同じ体勢を取れば、何かわかることがあるんじゃないかと思ったので……。ですので」


言いながら俺の両手を握り。


「お、おい何を」

「……えい」

「うおぉっ!?」


いとも簡単に俺を押し倒した。……え? マジで何?さすがに焦るぞ!?


「お、おい、やめろって」


そして再び俺の上に冷華が覆いかぶさろうとしたその時。


「れ、冷華!?」

「あ、文菜」

「ちょ、何やってんの!?」


金髪ロングの、これまた女の子が入ってきた。女の子……文菜は俺たちの状態を見て目を三角にしながら冷華を引きはがしてくれた。……助かった。


「今大事な考え事をしていたのに……」

「あんなことしながらじゃなくてもいいでしょ!?」


文菜は俺の方を見つつ、


「こんな男なんかに冷華は勿体なさ過ぎるんだからね。自分が女の子とってことをもっと自覚しなさい?」


何やら説教しつつ、地味に失礼な言葉で俺をも攻撃してきた。

……うん、それを言うならなんだが。


「文菜も一応女の子に分類されるって自分で言っていたように思うんだが、平気で男の部屋に乗り込んでくるのはどうなんだ?」


純粋な疑問をぶつけるしかないよなあ?

文菜は「へ……?」と一瞬呆けた後、


「あああああああああああぁぁぁぁぁ!?」


一瞬で顔を真っ赤にしたと同時に冷華の腕をつかみ、部屋を飛び出していった。……そんなに人に説教した割に自分の行動がブーメランになっていたことが恥ずかしかったのだろうか。

まあ、文菜のおかげで助かったから、今回は感謝しておこう。


「やれやれ……」


二度寝する気分には最早なれなかった。服を着替え、朝食をとるためにリビングへ向かう。


「あ、おはよう! 司」

「…………」


何故か眩しくもない室内でサングラスをかけている少女がいた。…………。


「……あ、ああ。おはよう石美」

「……なんで今変な間が空いたの?」

(こんな室内でサングラスをかけている理由がわからないからなんだが!? ……っと、ああ。そういえば)


まだ寝ぼけているのかと、目を伏せ眉間を揉んでいると、少女……石美がサングラスをかけている理由を思い出した。そうだそうだ、確か……。


「えと、さっきからどうしたのかな?」

「うわっ!?」


いつの間にか目の前に石見が来ていた。身長は大体俺と同じくらいなので、急に視界いっぱいにいかついサングラスが現れたように感じた。


「で、どうしたの?」

「い、いや? なんでもないが」


あまりにも距離が近いため、じりじりと交代して距離をとろうとすると、


「なんで付いてくるんですかねえ!?」

「司が怪しげな動きで距離をとるからでしょう!?」


何故か石美が近づいてくる。距離の変化ゼロ! むしろマイナス! なにゆえ!?

リビングの扉が背中に当たり、追い詰められる。 え? ほんとなんでこんなことになってるんだっけ?


「ねえねえねえ、さっきから変だよ? どうしたの? ねえねえ?」

「どうしてって」


キミがサングラスをかけている理由を思い出せなかったから気まずかっただけですなんて言いにくすぎドゥバア!?


「きゃあっ!」


不意に背にしていたドアに思い切り押されたことで、俺は石美に激突。二人そろって床に倒れこんでしまった。


「ん? あ、司いたの?」


ドアを開けたのは、文菜だったようだ。


「あの、司?」

「ん?」


文菜に絶対許さない旨の文句を言おうと考えていると、声を掛けられる。そこで初めて石美を押し倒してしまっていることに気づいた。


「す、すまん! すぐにどくから」


慌てて彼女の顔の横についていた手を引っ込めようとしたのが失敗だった。何も考えずに挙げた手に、サングラスの蔓をひっかけてしまい、石美の顔からサングラスをひっぺがしてしまった。

しかも、顔が至近距離だったため、露わになった彼女の目と俺の目がばっちりと合ってしまった。

その途端。


「は、はうう、ううううう」


石美は顔を真っ赤にしていき、そして。


「あ…………」


そのまま石になってしまった。石のように固まってしまった、という比喩表現ではなく、本当の石像に、だ。

……やっちまった。


「司! あんた何やってんのよ! 石化しちゃったじゃない!」

「それはお前が……!」


反論しかけたところで、今は文句をいうよりも石美をなんとかしないといけないだろうと思い直す。こんなところに転がしておくのは生活の邪魔になる。あと少しだけだが可哀想。


「よっ……重い」

「女の子相手に重いとか言うなんてサイテー」

「お前マジで覚えとけよ」


しっかりふんばって持ち上げようとしたが、石像と化した石美は重くてとても持ち上げられなかった。一体何がどうしたら生物が急にこんな重さを得られるのか。いつか科学で解き明かせる日が来るのだろうか。


「はい、どいてどいて。私がやるから」


ずい、と文菜が割って入り、いとも簡単に石美を抱え上げた。


「部屋に運ぶから手伝ってよ」

「お、おう」


女性とは思えない怪力を前に、呆気にとられている俺に奴はそう声をかけてきた。


「……早く開けてくれないとドア蹴破るけどいい?」

「今すぐ開けるからやめろ」


手がふさがっている彼女に変わり、石美の部屋までのドアを開けていく。そうしないとこいつは本当にドアを蹴破るという蛮行をやりかねないから困る。思考が脳筋ゴリラすぎる。


「ふっ、と。これでよし、と」

「お疲れさん、すまないな」


ベッドへ運び終えた文菜にねぎらいの言葉をかける。九割がたこいつのせいだとしても、運んでもらったのは事実。紳士はきちんと礼を言うものだと俺の中のマナー講師が教鞭を振るってきているから仕方ない。


「まったく。ちゃんと気をつけなさいよね」

「ああ。だけど文菜も気を付けてくれよ。ドアをあんな勢いで力任せに開けるなって」

「知らないわよそんなの。あんたがドアの所に立っているなんて思ってもいなかったし」

「なら猶更気をつけてくれよ!?」


危うくドアが壊れるところだったんだから。


「まったく、その馬鹿力はもっとセーブできないのか」


思わず言っってしまい、すぐに後悔する。なんせ今言ったことは。


「……うん。それは、ごめん」


彼女の表情を一瞬で曇らせる言葉だったから。


「私が……もっとちゃんとした吸血鬼だったら、力をコントロールできたんだけど」


ぽつりとそうつぶやいた。

今自身で言ったように、彼女は吸血鬼。一口で言えば人街、妖怪、怪物といったものである。見た目は普通の人間なのだが、力とか他にもいろいろと人のスペックを超越してしまっている。


「う、ん……?」


気まずい雰囲気の中、石美が目を覚ましたようだ。


「あ、石美。今回は早かったわね」

「ええ、今回はどうやら軽くで済んだみたい」


本当に軽度だったらしく、ぴょんと元気にベッドから降りていた。


「ほら、サングラス」

「あ、ありがとう」


事前に拾っておいたサングラスを石美の目を見ないようにしつつ渡したところ、すぐに装着した。


「それにしても、やっぱり不便よねえ」


文菜が口を開くと、石美は肩を落とした。


「うん、早くなんとかしたいんだけどね。ゴーゴンなのに自分が石化するなんてねえ……」


ゴーゴン。ゴルゴーンとも呼ばれるそれは、目を見た相手を石化させると言われている妖怪。石見はその種族であるとのことなのだが。


「まさか、目を見ると自分が緊張して石化する、なんて恥でしかないわ……」


この子は本当に恥ずかしがり屋で自との目を直視できないようで、サングラスを装着することで緊張はするものの、自身の石化に至るまでには至らないらしい。


「早く何とかしたい……」

「本当にね……」


二人そろってため息をつく。

実は石美や文菜だけでなく、この家にいる奴らは漏れなく何かしらの事情を抱えているらしい。


「別に文菜のは弱点ではないだろ。昼に活動できるわ、ニンニク大好きで十字架も平気なんだから」

「それは……そうなんだけど」


一般的に吸血鬼が苦手とするもの全てにおいて耐性があるのは純粋に強い。


「暗いのと血が苦手って、吸血鬼にはあるまじき弱点を抱えているのよねえ」


割とそれは種族的には大打撃だろう。血に至っては生命線のはずなんだが、どうやら鉄分豊富なものを代わりにとることでなんとかなっているらしい。もはやちょっと力の強い人間なんだよそれは。


暗い雰囲気にどうしたものかと頭をかいていると、ドアをノックする音が聞こえ。


「あ、司さん。に、文菜に石美もいたの」


冷華が顔を覗かせた。


「土筆がご飯できたから呼んできてって」

「お、そうか。ありがとうな」


そう返事すると、冷華はどこかうれしそうに微笑んだ。


「ほら、とりあえず飯だ飯。さっさと行くぞ」


二人を促し、リビングへと向かった。



「ごちそうさまでした」


手を合わせて、みんなで植樹終了の儀式を行う。

今日の朝飯も美味かったなあ、と思っていると、


「司さん」


真正面に座っていた冷華が声をかけてきた。


「あの、今日はお暇ですか?」

「ん……そうだな」


少し考える。今日は土曜日で予定は特にない。そのことを正直に言うと、冷華は少しほっとした顔をする。


「なら、お買い物に行きませんか?買いたいものがあるんですが……」

「まあ、いいけど……」


そう答えながら考える。何か必要なもの、あっただろうか。


「土筆、何か必要なものってあるか?」


キッチンの方に声をかけると、


「ええと、食器用洗剤と塩、あとは今日の夕飯の具材ですね」


皿洗いをしていた女性がこっちに顔を向けてさらっと言った。


「……もしかして全部把握できてるのか?」

「ふふっ、一応ハウスキーパーですから」


何を把握できているのか、とは敢えて言わなかったが、伝わったらしい。俺ですら家にあるもので足りないものが何かと聞かれたら、ノータイムで答えられる気がしない。


「お買い物に行かれるんですぅよね? お願いしてもいいですか?」

「ああ、ついでだしな」


メモを出し、何を買うのか書き込む。


「食器用洗剤に塩と。夕飯の具材は何を買えばいい?」

「そうですね……とりあえず」


何やら思案顔。何にするかは決めきっていなかったらしい。


「しいたけにタケノコ、人参に」


ふむ、野菜炒め系か? メモを順調に取っていく。


「オニオンスープの素にコーンスープの素、昆布」


スープに出すのだろうか。ただそうなると今のセットの中では昆布が異色を放っているのだが。


「タバスコは三滴。ソースにラー油を混ぜて」


レシピの説明みたいになっているのだが、これも必要なのだろう。その三つを混ぜる意味は果てしなくわからないが。


「トドメにワライダケとカエンダケを……」

「今トドメって言ったよなあ!?」

「どうしたんですか、司さん。メモを取ってくれてましたよね」

「取ってたが!? 取ってたけど明らかに今の二つはいらないですよねえ!? しかもトドメって何!?」

「……ちょっと愛するアイツに手料理を振舞いたくなってしまいまして」

「さーて、今日の夕飯は俺と冷華で作りますかー」

「ああ! ごめんなさい! 冗談です! 冗談なんですー!」


冗談という割にはマジで目から光を失ってましたが、そこのところは一体。


「土筆。司さんが困ってる」

「ええ、ごめんなさい。ちょっと浮かれちゃって」

「……はあ」


何がそんなに楽しかったのだろうか。


「まあ今さっき言った食材を買ってきてくださいね」

「どこまで買えばいいんですかね!?」


ヤバめのブツが混入してるせいで意識がそっちにしかいかないんですが!?


「えっと、これとこれと……」と、俺の書いていたメモは土筆により書き換えられ、


「はい、これです」


えっと、書き加えられたのは豚肉、キャベツにもやし。不必要なのはしいたけ以下全部。なるほど。


「ほぼいらなかったんですか……」

「ええ、特には」


その場のノリであれやこれやと律義に書き留めた俺の努力を返してほしい。


「……行こうか、冷華」

「ええ」


心なしか、冷華の声が三割増しで優しく聞こえた。


「気を付けてね」


とんでもハウスキーパに見送られ、家を出た。

季節は五月。現在午前十一時。晴れているから、少し暑く感じる。


「……いい天気だな」

「そうですねえ」


俺の呟きに呑気な声で冷華が答えるが、俺は気が気でない。


「なあ、大丈夫なのか」

「何がです?」


いや、何がって。


「本当に雪女でありながらこの気温でその格好ってのは辛くないのかってことだが」

「大丈夫ですよ。むしろもう少し厚着してくるべきだと思っているところです」

「それで!?」


ぶ厚めのトレーナーの上にセーターを着て、更にその上から季節外れのコートにマフラー、ニット帽をつけているのに!?


「雪女ってのはよくわからん……」

「いえ、これは私だけですから。他はみんな暑さに弱いですから」


冷華は雪女であるが、文菜や石美と同じように何故か寒さにめっぽう弱いという特殊体質らしい。なので、家でも厚着は欠かさないし、こたつを拠点としている。俺としては片付けるタイミングを失ってはいたものの余計に片付けにくくなってしまったわけで困っているのだが。


それにしても、変なやつっらが家に来たものだ。冷華たちと出会った時のことを思い出し始めた。

……いや、昨日のことなんだがな。

面白いと思ってもらえたらいいなあと思いつつ次出せるように頑張りたい。

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