眠くても学校は始まる
うーん…。やっぱり早く寝るべきだったなぁ…。
学校への道を歩きつつ、ほんの少し後悔した。
酒場『ノア』は、基本的に夕方から明け方にかけての営業なので、私は大抵夜が深くなる前まで数時間のお手伝いをしてから、歩いて十数分の場所にある家に帰るんだけど…。
昨日は帰ろうとしたタイミングで団体のお客さまが入って、じゃあもう少しだけ、と思ったのが最後、結局夜遅くまでのお手伝いになってしまった。「一人で帰るのは危ないから」ということで二階の仮眠室で課題と予習をしながらお母さんがお店を閉めるまで待っていたので、家に着いたのは明け方。極限の眠気を過ぎてしまったからか判断力が鈍って、結局家に帰ってからも回らない頭で勉強し続けてしまったせいであまり睡眠時間を確保出来ずに、今に至る。
「授業、寝ないように気をつけなくちゃ…」
今日の一限目、何だったかしら。
「…ふぁ」
学校に着き、今日何度目かのでかかったあくびを噛み殺しつつハンガーにコートを掛けていると、ハミが教室に入ってくるのが見えた。
「ハミ、おはよう」
「おはようフレア。あら、眠そうね?」
顔に出ちゃってたか…しゃきっとしなくちゃ。
「フレアがそんなに眠たそうなの、珍しいわねぇ。よく眠れなかった?」
「ううん、大丈夫!ありがとう。ちょっと眠気の波を逃しちゃって」
ここ三年一緒に過ごしているハミが言うんだから、余程酷い顔なんだろうな…。
私たちが住むこの国『ウェンブル』では地域ごとにある程度行く学校が決まっていて、初等級舎から高等級舎までは同じ学校に通うのが通例となっている。そのため全体の人数が多く学校が変わらない代わりにテストや実技の成績でクラスや授業が細かく別れているので、見かけることはあれど話したことがないという人も多い。だから私もハミの存在は知っていたけれど、ここまで仲良くなれたのはたしか中等級舎の二年生でクラスが一緒になってからだった気がする。
ちなみにこのハミちゃん、ふわふわした見た目に反して魔法が使えちゃうエリートちゃんだ。すごい。うちのハミすごい。
月日は流れ、私たちは今、高等級舎の一年生。もうすぐ一年の始まりの期間、凍期が終わって、新生活の始まりの期間、瞬期がやってくる。
「ーーフレア?ふふ、本当に眠いのね、ぼーっとしてるわよ?今日一日、つまづいて転ばないように気をつけてね?まぁフレアに限ってそんなことないだろうけれど」
きっとあっという間に二年生になっちゃうんだろうな。なんてどことなく感慨にふけっている間に朝の連絡の時間が迫っていたみたい。ハミ含め、みんなぱたぱたと席に戻っていく。
「ありがとう。気をつけるわ」
来年度もこうあれることを願いつつ、私も同じ教室の席に着いた。
校舎いっぱいに、朝を知らせるチャイムが響く。