努力は酒樽に沈めて、完璧少女の装いを。

　ここは、魔法が才能とされ、魔法使いがエリートであると称えられるとある王国、ウェンブル。
　酒場の娘であるフレアは、一般国民として平々凡々な家庭に産まれ、そこそこの生活を送っている。
　国を統べる王様とか、ロマンチックな恋をするお姫様に憧れないと言ったら嘘になるけれど、それでも和やかで幸せな日々に結構満足しているのだ。

　――いやぁ、今日もフレアちゃんは元気だねえ。
　――細やかな気づかいができるうえ華やかな子よね、ほんと。

　幼い頃から第二の家である酒場で看板娘として育ってきたフレアにとって、かわいくて明るいフレアでいることはいつしか当たり前であり、求められているものだと感じるようになっていた。

　――どうかこのまま、誰にも私の完璧がまやかしだと気づかれませんように。完璧な酒場の看板娘であることが、私のすべてだから。

　みんなに愛される自分であるためにフレアは日々努力を重ねている。しかし、それを誰かに見せることはない。
「だって、みんなが求めているのは完璧な私だから」

　さあ、酒場が賑わう夜が始まる。酒樽の用意をしなくては。

　今日もフレアは、酒場の娘としての生活を満喫している。


　これは『完璧』に苦しむ全ての人に贈る、不器用でもどかしい努力家たちの物語だ。