3話・エリンとの取引
縄で縛られ地面に転がっているソバカスの少女を踏みつけている恰幅のいい男性。
(なかなかだな)
色々突っ込みたくなるが無視して俺が気になっている事を喋る。
「さっきの様子を見ていたぞ」
「!? こ、この少女は私が正当に買っただけだぞ!」
「そうか?」
奴隷は合法とはいえ、それはしっかり決められた規律の範囲での話。
(違法の可能性はあるか)
規律の範囲から離れた方法……人攫いとかで奴隷にした際は犯罪になり警察に捕まる。
(いや、逆転の発想だな)
最悪この奴隷商人を警察に引き渡せばいい。俺は最悪の保険を考えた後に口を開く。
「その辺はどうでもいい」
「は、はあ?」
「う!」
俺の発言に奴隷商人はホッとした面持ちになり奴隷落ちした少女は硬直。
(まだ終わってないけどな)
俺は地面に転がっているソバカスの少女の方に向き能力鑑定を用いる。
(名前はエリン・フェネック。レベルは13でスキルは〈剣術レベル1〉〈盾術レベル2〉〈耐久力・精神力アップ〉でマイナススキルは〈能力低下(大)〉か)
レベル5の俺よりはレベルが高いがマイナススキルの影響でステータスが相当低い。
(なるほどな)
なぜ彼女がチンピラ共に捕まったのかが謎だった、
だが俺は彼女の能力を見て大体察した。
(この能力じゃあ勝てないか)
俺は彼女の事で考えていると奴隷商人が慌ただしい表情で話し始めた。
「すまないが、用がないなら離れさせてもらう!」
「いや、待ってくれ」
奴隷商人が焦りながら離れたいと発言。俺は奴隷商人の言葉を聞きある提案を口にする。
「その奴隷の購入額は5万Eだよな」
「え、そ、それがどうした!」
「いや別に」
5万Eという破格値の奴隷。俺は彼女は安いと思いある取引を奴隷商人に持ちかける。
「奴隷商人さん、彼女を俺に売ってくれないか?」
「は、え?」
「ここで売ってくれるなら8万Eを出す」
元値が5万Eなのを知っている俺はギリギリの金額である8万Eを提示。
(いけるか?)
俺は自身が提示した金額に不安を覚える。
「うーん」
コチラの言葉を聞いた奴隷商人は口に手を当てて考え始めた。少し時間が経った後、彼は一つ頷いた。
「ええ、それで売りましょう」
「契約成立」
俺は財布から8万Eを取り出し奴隷商人に渡す。
(やったぜ)
お金を受け取った受け取った奴隷商人。彼はお金の額を確認した音、地面に縛られている奴隷少女の方に向く。
「これでプラスにはなったか」
ブツブツ何かを呟く奴隷商人。彼はソバカスの少女に隷属魔法をかけ主を俺に変更し裏路地から出て行った。
「コレで彼女の主人は貴方です」
「あぁ」
「では失礼します」
俺は彼女の主人になった事を確認。
(指示は『命令』と言った時だけ有効か)
後は主人に危害を加える事ができない。もしコチラの命令を違反したりしたら彼女の首に付いている紋章が光り強い痛みが発生するみたいだ。
(確認はこれくらいでいいか)
俺は地面に倒れている少女の口についている紐を外す。
「ゲホゲホ! な、なんでアタシを買った!」
「そんなの決まっているだろ」
親の仇みたいな目で見てくる彼女。俺はいい買い物をしたのでコチラの要件を話す。
「決まっている?」
「お前には俺の復讐に手を貸してもらう」
「復讐?」
俺は復讐のために彼女を購入。ただ説明をしていない事を思い出す。
(説明はいるよな)
どうやって説明するか。俺はその事を考えていると彼女は面白そうに口を開いた。
「アンタ、そんなに憎い奴がいるんだね」
「いや、憎い奴だけじゃない」
「? じゃあなんで復讐をしようと思ったんだ?」
「それは簡単だ」
ソバカス少女の問いに俺は深呼吸。息を吸い込み早口で話し始める。
「俺を虐げ馬鹿にしてきたムカつく奴らに『できない奴の気持ち』を徹底的に味合わせるためだよ」
「へ、ドユコト?」
俺の意図が読めなかったソバカスの少女。彼女は頭に疑問符を浮かべている。
(もっと細かな説明がいるか)
俺は彼女に能力や才能、家の生まれが当たりの奴らをどん底に落とす事を伝える。
「今まで散々見下してきた相手にやり返される反応を見て俺は嘲笑うんだよ」
「口調が早い! それに言っている事がごちゃごちゃしているぞ」
俺の言葉を聞き戸惑っているソバカス少女。彼女の言葉を耳にした俺は自身の思考が止まる感覚を受ける。
(え、あ)
だが高スペック共への恨みが大きいので胸の中がモヤモヤして話したくなる。たが彼女は俺の話を無理矢理止めて改めて話してくる。
「お前がソイツらに復讐したいのはわかった! ただ、今の状態を見てくれ!」
「うん? 今の状態?」
「まずアタシは縄で縛られているし自己紹介もまだだろ! それでいきなり復讐の話を聞かされてもわかるか!」
「あ」
誰か通りかかったらマズイ状況。
(確かにまずいな)
俺は彼女の言葉を聞き腰に着装しているショートソードを引き抜く。
「今解放する」
俺はショートソードを使い彼女を縛っている縄を切り裂く。
「ふう、これで動ける」
「そうか」
解放された少女は立ち上がって手足をクルクル回していた。俺は彼女の表情を見て復讐の話をしようとするが相手の方が言い出しが早かった。
「助けてくれてありがとう!」
「は? お前は俺の奴隷になったから助かってないだろ」
「そうか? どっかの変態野郎に買われるよりも何倍もいいぜ」
彼女に復讐の事を話せないのでモヤモヤとする気持ちが湧き上がる。
(早く話したい)
俺は自分の事を話したい。
(だが……)
彼女の笑顔を見て俺は一旦復讐の事を考えるのをやめて自己紹介を始める。
「ま、まぁ、それはさておき俺の名前はガスト・フォールレイン。お前の主人だ」
「あー、ガストだな。アタシの名前はエリン・フェネック! よろしくな!」
ニッコリ笑って握手を求めてきたエリン。
(コレでいいのか?)
俺は主人と奴隷の関係がよくわからないの頭に疑問符を浮かべる。
(え、あ)
コチラが戸惑っていると彼女が俺の右手を掴んだ。
「ふふっ」
「……何笑っているんだ?」
「いやな、ドン底のアタシにも救いがあったんだな」
ドン底……俺はその言葉を聞いた時に胸にグサリと見えない刃が刺さった。
(コイツもか)
彼女の人生はわからないが俺エリンも辛い経験をしてきたんだなと思う。
「お前も色々あるんだな」
「そりゃあ当たり前だろ」
彼女は俺の言葉に対して苦笑いを浮かべて頷いた。
(……)
俺はエリンに対して同情の気持ちが湧き上がる。
(いや)
ここで彼女に同情すれば舐められるかもしれない。俺は心の中でエリンの実情を考えながらあえて無視する。
「それで?」
「……それだけか?」
「初めて会ったやつにどうやって答えたらいいんだよ」
「最初に復讐を話してきたお前が言うか?」
「ブーメランが帰ってきた!?」
俺は彼女のブーメランを受けてうずくまりそうになる。
(マジかよ)
まさかそう帰ってくるとはと思いながら俺は改めて口を開く。
「まさかこんな簡単に読まれるとはな」
「いや、お前はわかりやすいから考えを読むのは簡単だぜ」
「ええ……」
俺は気持ち的に沈み、エリンは今の会話が面白いのかニコニコした面持ちを浮かべる。
「いやー、お前といるのは楽しいぜ」
「会って1時間も経ってないぞ」
「時間なんて関係ないだろ」
彼女はボロボロでありながら笑っているので俺は疑問符を浮かべる。
(なんなんだコイツは)
彼女が作った話の流れに俺は翻弄される。
(コレじゃあ復讐内容は話せないか)
今は復讐の話をするべきではない。俺は直感でそう思い彼女の次の発言を待つ。
「さてと自己紹介は終わったし違う事を話そうぜ」
「……何故お前に主導権があるんだ?」
「いやだってお前は話すのが苦手だろ」
「……」
俺はエリンに言われた言葉を聞き図星を当てられたと感じる。
(なんかムカつく)
ただここで黙るのはカッコ悪いと思い俺はなんとか言葉を絞り出す。
「なら俺からも聞きたい事がある」
「うん、なんだ?」
彼女はカラカラ笑いながら返答。俺はエリンの方をマジマジ見ながら言葉を返す。
「お前は何者だ?」
「え? アタシが何者かって?」
「そうだ」
この裏路地で汚らしい笑いを浮かべたチンピラ達に捕まって売られた彼女。
(捕まった理由はわかるがコイツが何者なのかは聞いてない)
まず、エリンが苗字持ちなのが引っかかる。苗字は貴族や王族が持っている物で平民は持ってない。
(ここが気になるが……)
俺は苗字持ちなのを含めて彼女に質問。エリンは俺の問いに笑いながら答えた。
「アタシは貧民層の孤児だ」
「? それだけじゃわからない」
「あー、アンタ無神経だな」
エリンに馬鹿にされていると感じた俺は命令権を使ってお仕置きしてやりたいと思った。
(でも今じゃないよな)
俺はお仕置きしたい気持ちを抑えてもう一度同じ質問をする。
「で、改めて聞くが何者だ」
「さっきも言ったが今のアタシら貧民層の孤児。いや……居場所がなく能力もないアタシは孤児以下のゴミでお前の奴隷だ」
さっきの笑顔とは少し変わり自虐的な笑みを浮かべるエリン。
(昔の話はしたくないのか)
俺はエリンが自分の話をしたくない。直感的にそう感じて彼女への深堀はやめる。
「なるほど」
「それでマイナススキルがあるアタシは上に上がれなかったんだよ」
「あー、それでチンピラに捕まって奴隷商人に売られたのか」
「まぁな」
さっきよりも暗い表情になっているエリン。
(その表情はわかる)
俺は自分の人生が一番ひどいと思っていた。だがエリンの人生も同じくらいのレベルみたいだ。
(なら取引開始だな)
俺は本題の一つに入るために視線を直して話し始める。
「なあエリン。お前、強い能力が手に入ったら何をしたい?」
「ん? いきなりなんだガスト」
「いいから答えろ」
「うーん、アタシは強くなって魔物を倒しまくって豪遊したい!」
エリンの表情が自虐的な笑顔からニコニコした顔に変化。
(うまくいったな)
俺は彼女の反応をしっかり見ながら続きを喋り始める。
「ならその夢を叶えないか?」
「は? ドン底のアタシにできるわけがないだろ」
「……と、思うじゃん?」
俺の言葉に初めて反論したエリン。彼女の虚しそうな表情を見ながら俺は内心で笑う。
(そうなるよな)
ここで俺自身が黒い笑みを浮かべながら喋っている事に気づく。ここでエリンが怪しむ表情になりながら言葉を話す。
「何か手があるのか」
「まぁな。その前に命令『俺が話す内容は誰にも言うな』」
「あ、あぁ!」
俺はエリンに向かって命令権を使い、彼女は疑問符を浮かべながら頷いた。
(呪いスキルは他の人には知られたくない)
俺は命令権が上手く行った事を確認した後にコチラの秘密を伝え始める。
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・エリン・フェネック〈ステータス〉
・能力、レベル13
・筋力12
・耐久力18
・賢さ11
・精神力18
・素早さ10
〈スキル〉
・剣術レベル1、盾術レベル2
・能力低下(大)
〈レアスキル〉
・耐久力・精神力アップ