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琥珀の翼  作者: やばくない奴
午睡
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明晰夢

 マドロミはかつて、麻薬中毒者の父親から家庭内暴力を受けていた。彼は父親と接することを避けるべく、よく自室に鍵をかけて引きこもっていた。扉の向こう側からは、父親の怒号と母親の悲鳴が聞こえてくる。

「なんだその顔は! テメェ俺に文句でもあるのか!」

「やめてあなた! 落ち着いて!」

「うるせぇ!」

 父親が怒鳴るたびに、壁や床が振動する。鈍器で人を殴りつけるような音が、幾度となく家中に響き渡る。マドロミは布団にうずくまり、緊張のあまり爪を噛んでいる。そんな日々が毎日のように続いた。


 過酷な家庭環境の中で、マドロミは一つの特技を編み出した。

「マドロミは今日も、パパとママと、ピクニックに行くんだよう」

 そう呟くと彼は、布団の中にくるまった。それから瞼を閉じ、彼は数分もしないうちに眠りに就く。

「サンドウィッチ、美味しいよう……」

 そんな寝言を零しつつ、マドロミは穏やかな微笑みを浮かべる。彼の特技とは、「見たい夢」を見ることであった。そして彼は、夢の中で「理想の家庭」を築き上げていた。



 しかし、いくら彼が幸せな夢を見ていても、それで現実に変化が現れることはない。彼も、彼の母親も、毎日のように体に痣を作っていた。二人はみるみるうちに痩せ細っていき、次第に冷静な判断力を失っていった。


 ある日、彼の父親はいつものようにシンナーを吸い、二人を恫喝した。

「薬が足りねぇぞ。早く買ってこい!」

 父親はそう言ったが、母親は期待には応えられない。

「あなた! もうお金がないわ!」

「うるせぇ! 体でもなんでも売ってこい!」

 父親は激昂し、自らの妻に酒瓶を投げつけた。続いて、彼は怯えるマドロミの胸倉を掴み、非情なことを口走る。

「そうだマドロミ! 少年愛を拗らせた大人相手になら、男娼だって出来るんじゃねぇのか? なあ、パパのためなら出来るだろ?」

 その言葉に耳を疑ったのは、マドロミの母親だ。

「マドロミから手を離して!」

 彼女は頭から血を流しつつ、正気を失っている夫からマドロミを引きはがす。

「うぜぇんだよ!」

 父親は彼女を突き飛ばし、そのまま壁際へと追いやる。彼は右手で包丁を拾い、その切っ先を己の妻の方へと向ける。



 マドロミの固有魔法が発現したのは、まさにそんな時であった。



「パパ! やめてよう!」

 彼が叫び声をあげるや否や、彼の両親は一瞬にして眠りに落ちた。続いて、マドロミは父親の右手に握られていた包丁を奪う。

「マドロミが……ママを守らないと……!」

 彼は一心不乱に包丁を振り回した。無我夢中だった。彼が正気に戻った時、そこには顔面が血に塗れた実父の姿があった。

「はぁ……はぁ……マドロミは、悪くないよう……」

 右手から滑り落ちた包丁は、金属音を立てて床に倒れる。マドロミは膝から崩れ落ち、そのまま熱を出して倒れた。



 数日後、マドロミの母親は自宅に火を放ち、自らの命を絶った。焼け残った遺書によれば、彼女は夫を愛し、依存していたらしい。マドロミは燃え盛る家から命からがら脱出し、なんとか生き延びることが出来た。しかし、彼はこの日をもって、声を発することが出来なくなった。



 家庭と声を失ったマドロミは、路頭に迷い続けた。彼は街行く人々を魔法で眠らせ、金品を奪い取ることによって生計を立てていた。それでも豊かな生活を送ることは難しく、彼は常に腹を空かせていた。昼はゴミを漁り、夜は冷たい風にさらされる日々が続いた。彼の幸福が約束される場所は、夢の中にしかない。マドロミにとって、睡眠は自らの心を守る唯一の手段であった。



 両親の死から一年が経ち、彼はミカドに拾われた。アストラムの一員となった彼は持ち前の魔法を活かし、白い翼を乱獲していった。そんな彼がコハクたちと対面したのは、その更に一年後のことである。

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