結託
一先ずハザマとの戦いを終え、メノウは安堵のため息をついた。コハクはパーカーの内側から金色のペンダントを取り出し、それを虚ろな眼差しで見つめた。彼女がペンダントを開くと、そこには緋色の髪をした少女の写真がある。
コハクは自らの過去を語り始めた。
「十年前のことを思い出すよ。あの日もオレは屋敷から脱走して、アストラムの連中から逃げ回っている女の子を助けたっけな」
曰く、彼女が脱走を試みたのは、これで初めてではないらしい。そんなコハクに少し心を開いたのか、メノウは彼女と話し始めた。
「コハクは、逃げきれたの?」
「いや。結局、屋敷に連れ戻されたよ。オレはあの子の母親の命を守れなかったし、あの子も片方の翼をアストラムの刺客に奪われちまった」
「むごい……」
メノウは息を呑んだ。コハクはパーカーの中にペンダントを仕舞い、小さなため息をつく。
「なあメノウ。今度はアンタの話を聞かせてくれないか?」
「ほ、本当の本当に……?」
「アンタとオレの敵は同じだ。だから行動を共にしたい。だがその前に、アンタの素性を知っておく必要がある」
二人は共通の敵を見いだした。手を組むには充分な動機だ。メノウは拙い言葉を紡ぎ、自己紹介をする。
「ボクは……えっと……絵を描くのが、好き」
「他には? もっとこう……アンタの人間性の根幹を成すような……」
「わからない。本当の本当に、自分が何者なのかわからない。ボクはずっと……『破壊神の卵』でしかなかったから……」
「そっか。見つかると良いな……自分ってヤツが」
コハクは手を伸べ、メノウと握手を交わした。
*
その日の夕方頃、ハザマはとある施設に足を運んでいた。エントランスを潜り抜け、階段を登り、彼は施設内を突き進んでいく。そして彼は「会議室」と書かれたプレートの貼られた扉を開け、広い部屋に辿り着く。
「遅いぞハザマ! 実に気に入らん!」
彼を出迎えたのは、チューブトップを着た翼人の女性だった。その周囲には三人の翼人がいる。一人は幼い少年、もう一人は眼鏡をかけた女性、残る一人は皮のジャケットを着た青髪の男性である。二色の翼を持つハザマとは異なり、彼らは皆、茶色の翼を有している。
会議室は厳格な雰囲気に包まれていたが、ハザマはそれをまるで気にしない様子だ。
「そう熱くなるなよ……ミカド。ゲームは楽しんだモン勝ちだぜ」
彼はアストラムの一員だが、あまり責任感を持ち合わせていないらしい。そんな彼の態度に、チューブトップを着た女性は呆れるばかりだ。
「ゲームだと? 気に入らん! 我々は世界の存亡を背負っているのだぞ!」
彼女はミカド――――アストラムの首領である。言うならば、彼女はハザマの上司にあたる人物だ。しかしハザマは、彼女に対してへりくだる素振りを見せはしない。飄々とした態度のまま、彼は今回の件を報告する。
「……業務連絡だ。メノウがコハクと手を組んだ。守護神の依り代として生まれた……あのコハクだ」
彼の言葉に、この場に居合わせていた全員が耳を疑った。ミカドは顔色を変え、事の詳細を問い詰めようとする。
「気に入らん。破壊神を倒すための切り札が、よりにもよって破壊神の依り代と結託したというのか?」
「マジに決まってるだろ。俺がそんなつまらねぇ冗談を言うとでも思ったか?」
「気に入らん! 何故お主はそう冷静でいられる! 事の重大さがわかっておらぬのか!」
彼女にとって、これは死活問題だ。彼女が声を荒げるのも無理はない。むしろ、この期に及んでも薄ら笑いを浮かべているハザマの方が、余程異常であると言っても良い。会議室の空気が凍り付く中、ハザマは言う。
「こいつは確かに一大事だが、チャンスでもある。奴らが行動を共にするのは、大袈裟に言えば自殺行為だぜ」