最期の笑み
コハクたちの死闘は続いた。二人の中で眠る神々の力は更に引き出され、ツヅリを圧倒する。やがて彼女は力尽き、膝から崩れ落ちた。彼女はそのまま眠りに就き、それから二度と目を覚ますことはなかった。
メノウの口から、衝撃的な事実が告げられる。
「ツヅリ、笑ってた。最後の最後……死ぬ瞬間に」
それが何を意味するのか――――コハクたちにはわからない。その場には、ただひたすらに不穏な空気が立ち込めるばかりだ。
「笑ってた……か。きっと、ミカドがアンタを倒すことを確信していたんだろうな」
それがコハクの憶測だ。
その時、彼女たちの背後から、聞き覚えのある声がした。
「ブッブー! 不正解!」
オニキスだ。彼はどこかに身を潜めていたのか、はたまた何らかの方法で姿を消していたのか、さも当然のようにその場にいた。
コハクは彼の固有魔法を知っている。ゆえに、彼がどのように姿を隠していたのかも想像がつく。
「怯えるな、メノウ。コイツはただ、オレたちの認識を制限することで身を隠していただけだ。それで、ツヅリが笑っていた理由はなんだ?」
彼女は淡々と解説をしつつ、同時に質問も投げかけた。オニキスはにやりと笑い、ツヅリの身にあったことを話す。
「以前ユーたちを眠らせてきた子供がいたのを覚えているかい? ツヅリはいつもその子を気に掛けていたんだけど……ミカドは、その子を人質に取ったんだ」
「それじゃ、ツヅリの奴は……」
「わざと負けたのさ。あの子供を守り、なおかつセツナの意志を継ぐには、ユーたちに倒されるしか方法がないからね」
「ツヅリ……」
コハクは少しうつむき、ツヅリの遺体へと目を遣った。彼女は肩を震わせ、無言で唇を噛みしめる。形容に難い感情が交じり合い、彼女を苛んでいる。
彼女は言う。
「準備に取り掛かるぞ。アストラムに乗り込むための……準備をな」
ついにこの時が来たようだ。メノウは熱意に満ちた眼差しを見せ、深くうなずいた。
*
その日の晩、オニキスはある男のもとを訪ねた。
「ユーの助言通り、あの子たちを怒らせてきたよ」
何やら彼は、何者かの助言に従って行動していたようだ。彼の目の前では、一人の男がアームチェアに腰掛けている。
「ヒュー! 事は計画通りに運んでいるってわけだ!」
ハザマだ。彼はアストラムの一員でありながら、マッド・カルテットとも関わりを持っているらしい。オニキスはアームチェアの周りを歩き回りつつ、彼との会話を続ける。
「幸福を持て余した者たちにとって、悲劇というものは遠い世界の物語でしかない。連中にとっては、貧困も、紛争も、難病も、何もかもが他人事なのさ」
「だろうな。だから運命に呪われた人間は助からない。誰も、敗者に手を差し伸べようとはしない。負けた時点でゲームオーバーだ」
「ピンポーン! その通り! だからこそ破壊神が必要なんだよ。この痛みに満ちた世界は、もはや誰にも正せない。そのことは、ユーが一番よくわかってるんじゃないかな」
「ああ、もちろんだ。俺は絶対に、この狂った世界を許しはしない。絶対に……な」
ハザマは笑っている。しかしその心には、底無しの憎しみが宿っていると見て取れる。彼の今まで辿ってきた人生は、それほどまでに壮絶なものだったのだろう。
オニキスはため息をつき、持論を述べる。
「破壊神の復活を阻止する者たちは、是非とも自らの行いを省みるべきだと思うね。ユーの言うところの『運命に呪われた人間』とやらを、彼らはずっと見て見ぬふりしてきたんだから。この世界が滅びるのも、彼らが招いた必然だよ」
曰く、破壊神が復活することに関しては、温室育ちの人類に責任があるという話である。
ハザマは宣言する。
「さぁてと! それじゃあそろそろ……ゲームスタートだ!」




