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琥珀の翼  作者: やばくない奴
運命の悪戯
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邂逅

 翌日の早朝、コハクはベッドの中で目を覚ました。起き上がった彼女がカーテンを開くや否や、窓枠に止まっていた小鳥は一目散に飛び去った。コハクは彼を目で追い、広大な青空へと目を遣った。

「オレにも翼があるのに……」

 そんな独り言をつぶやきつつ、彼女は部屋を見渡した。いつもの侍女は、まだここには来ない。コハクは咄嗟に窓を開け放し、屋根の上に出る。この屋敷を出れば、自分を縛るものなど何もない。彼女は助走をつけ、そのまま大空へと羽ばたいていった。



 それからしばらくして、コハクは城下町の片隅にある路地裏へと降り立った。正午を迎えた町は陽の光に照らされ、人混みで賑わっている。守護神の依り代ともあろう者が屋敷を脱走したのなら、人前にその姿を晒すわけにもいかないだろう。コハクは深いため息をつき、大通りを覗き込んだ。白い翼を生まれ持った者たちが逃げ惑い、捕まった者たちは翼を切断されていく。凄惨な光景だが、これはこの街における日常茶飯事である。


 コハクは固唾を呑み、再び路地裏に身を潜める。それから息を殺しつつ、彼女は建物の脇に設置されていたごみ箱の蓋をそっと開けた。


「動かないで!」


 彼女と目が合ったのは、黒い翼を持った少女だ。少女は警戒しているのか、息を荒げながらコハクを睨みつけている。


 コハクはこの少女を知っていた。否、この世界に、この少女の存在を知らない者などほとんどいない。

「……メノウ。破壊神ザラシュタインの依り代だな」

 それが黒い翼の少女の正体である。


 守護神の依り代として生まれたコハクと、破壊神の依り代として生まれたメノウ。神の器としての使命を背負った二人は、今この瞬間に数奇的な出会いを果たしたのだ。


 当然、メノウもまたコハクのことを知っている。

「キミは……コハク? 本当の本当に、守護神アデルラピスの依り代だよね? どうして、こんなところに……」

「先ずはその目をやめろ。アンタに危害を加える気はない。オレはただ、自由になりたくて屋敷を脱け出しただけだ」

「自由……」

 二人の望むものは同じだ。神妙な空気の立ち込める中、両者は互いの目を見つめ合っていた。


 まさにそんな時であった。


 路地裏の出入り口から、見知らぬ者の声がした。

「ヒュー! ようやく見つけたぜ。しかし、まさか守護神の依り代の嬢ちゃんまで一緒にいるなんてな!」

 突如その場に現れたのは、二色の翼を持つ男だった。左の翼は白く、右の翼は黒い。コハクはこの男のことを知らなかったが、何か異様な雰囲気を感じ取っていた。


 そんな彼に対し、メノウは怯えたような目を向けていた。

「この人……ボクを殺そうとしてる。本当の本当に……」

 どうやらコハクの嗅覚に狂いはなかったらしい。この男は二人にとって、紛れもなく「敵」である。


 そんな状況を前にしても、コハクは相も変わらず冷静だ。

「メノウの追手か……その翼を見る限り、アンタは『キメラ計画』の生き残りだな」

 毎日のように侍女の教育を受けてきた彼女は、多くのことを知っているようだ。その一方で、メノウは少しばかり世情に疎いらしい。

「キメラ計画……?」

「説明している時間はねぇ。コイツをオレらでぶっ潰すぞ」

 たった今この場に現れた男は、二人にとっての共通の敵だ。コハクは体から青白い魔力を放出し、男を睨みつけた。しかし、メノウはあまり気乗りしない様子だ。

「えっ……ええ⁉ 本当の本当に大丈夫?」

「確証はねぇが、上等だ」

 二人の性格は正反対だ。おもむろにごみ箱から這い出たメノウは、震える両足で全身を支えながら身構える。彼女の体からは、赤黒い魔力が溢れ出している。


 男は首の関節を鳴らし、不敵な笑みを浮かべた。

「さぁてと! それじゃあ、ゲームスタートだ!」

 自由を勝ち取るためには、戦うしかない。

挿絵(By みてみん)

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