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琥珀の翼  作者: やばくない奴
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道化

 ツヅリが洗面台を出ると、部屋のすぐ外にはマドロミが待ち構えていた。彼は片手にマーカーを持ち、小さなホワイトボードに文字を書いていく。声を発することの出来ない彼にとって、筆談は他者とのコミュニケーションを取る唯一の方法だ。彼はホワイトボードに書かれた文字をツヅリに見せた。そこには、「マドロミはここにいてもいいの? メノウをたおせなかったから、マドロミはいらない子じゃないの?」と書かれていた。そんな彼を抱き寄せ、ツヅリはささやく。

「良いんだよ。マドロミは……ここにいても……良いんだよ」

 彼女はマドロミの頭を撫で、優しく微笑む。母からの愛情に飢えてきた彼女にとって、彼を見過ごすことは出来ないらしい。


 そんなツヅリのもとに、ハザマが姿を現した。

「聞いてくれ、ツヅリ!」

「何……?」

「メノウの目撃情報が入ってきたぞ! 早く行こうぜ!」

 どうやら仕事が舞い降りたようだ。今はマドロミを励ましている場合ではない。

「マドロミ。帰りに……ケーキを買ってくるよ」

 ツヅリはそう言い残し、ハザマと共に出動した。



 *



 その日の昼下がり、二人はコハクたちを発見した。彼らの降り立った場所は、無機質なビルに囲まれた街の中心部だ。コハクはすぐに刺客たちの姿に気づき、背後へと振り向く。彼女の真剣な顔つきに対し、ハザマは相変わらずニヤニヤと笑っている。

「……さぁてと! またお前らと会っちまったことだし、ゲームスタートだ!」

 彼に続き、ツヅリも言う。

「ワタシなら……出来る」

 二人は準備万端だ。コハク、メノウ、セツナの三人は咄嗟に身構え、眼前の刺客たちを睨みつける。両陣営の間には強風が吹きつけ、辺りには神妙な空気が立ち込める。今にも死闘が繰り広げられそうな雰囲気だ。


 その時だった。


 彼らの目の前に、突如一人の使い魔が舞い降りてきた。彼はドミノマスクを身に着けた少年――――オニキスだ。

「その勝負、ミーに仕切らせてくれないかな?」

 それが彼の第一声だ。無論、この場にいる者たちは、彼の提案を易々と呑むような連中ではない。

「アンタ、使い魔か……!」

 コハクはオニキスに殴りかかった。しかし彼女の拳は、不思議な力によって寸止めされてしまう。そればかりか、彼女の肉体はそのまま硬直し、思い通りに動かせない状態となった。突然のことに動揺する彼女の目の前で、オニキスは話を続ける。

「今回の戦いは、二対二だ。ユーたちには、コハク抜きで戦ってもらうよ」

 彼がそう言うや否や、コハクは重力に従ってその場に崩れ落ちた。彼女は体を動かせるようになったが、完全に自由の身になったわけではない。


 コハクは訊ねた。

「……アンタ、何をした?」

 彼女の固有魔法をもってすれば、己の身に起きたことを把握するのは容易いはずだ。どういうわけか、そんな彼女が事態を呑みこめずにいる様子だ。更に奇妙なことに、この場にいる誰もがオニキスに手を出そうとしない。正確には、手を出すことが出来ない状態だ。


 オニキスは言った。

「シンキングターイム! ユーたちは、どうしてミーに攻撃できないのかな?」

 この場にいる者たちにとって、それは切実な疑問である。コハクは少し頭を悩ませ、それから推論を述べた。

「魔法も使えねぇ。体術も使えねぇ。ついでに、この場から撤退することも出来ねぇ。だが反抗の意志を持つことだけは出来る。オレたちが制限されているのは、『行動』だな?」

 それが彼女の回答だ。オニキスは満面の笑みを浮かべ、答えを発表する。

「ピンポーン! 大正解! ミーには、他者の行動を制限する固有魔法が備わってるんだよ。さあ、ユーたちには正々堂々戦ってもらうよ」

 コハクの読みは当たったようだ。しかし、彼の魔法の正体がわかったところで、何か攻略の糸口が見いだされるわけではない。


 いよいよ、四人の戦いが始まる。

挿絵(By みてみん)

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