2日目:人間もゴブリンも、余裕が生まれると考える事は同じらしい
「……ぁ…?」
上り出る朝日が瞼に差し込み、視界を暗闇からオレンジ色で包み込んでいく。
意識が少しずつ覚醒へと至る中で、彼は自身の下半身が今まで以上に張っている
ことに違和感を覚え、目を覚ました。
「なっ…なんじゃこりゃぁ⁉」
まだ完全に目を覚まさない森の中で、一人、彼の叫び声が響き渡る。
鳥たちが一斉に空へと羽ばたくのを無視して、彼の視線は自分の身慣れない
息子の姿から離れなかった。
確かに今日見た夢はそれなりのモノであった。
しかし、だからといって彼は思春期の中高生ではないのだ。
少なくとも精神は三十後半になるオジサンであった。
しかし体は正直であったらしい。
それは極端に言えば禍々しかった。
大きさも太さも自分が人間の頃の二倍以上はあるだろうか。
そして表面には大きなホクロほどの突起物たちがボコボコと飛び出ている。
確かにゴブリンの身体を初めて見た時、玉袋はともかく、竿の方は通常時とはいえ
以外とデカかったことには内心静かに驚いていた。
それでも自分が人間であったときのものよりは格段に小さかったので
スルーしていたのだが…目が覚めればこの小柄な体には不釣り合いな
鬼の棍棒が天高くそそり立っていたのだから、叫びたくもなると彼は思った。
そして同時に、自分の内側から計り知れないエロスの感情が沸き上がった。
彼は活火山と様に今まさにドクドクと溶岩を垂れ流し、噴火させようと見える
こん棒をとっさに掴むと、居ても立っても居られなずに直ぐさま事に励み始めた。
「……ふぅ…」
彼が鬼の棍棒を手放したのは太陽が丁度、空の真ん中に昇った頃であった。
湯水のように何回も噴き出したもう一人の自分たちを眺めながら、
彼は自分の身に若干の恐怖を覚えた。
この身から湧き出る欲求が余りにも大きく、自分では制御出来なかったのだ。
精神が落ち着いた今であれば有り得ない――敵の襲来の可能性も考慮しない程に
彼は乱れていた。
両手を使ってサルの様に雄叫びを上げていた自分の様子を思い出し、
彼は羞恥心と恐怖から額を手で覆う。
しかし事が終わり、冷静になった彼は直ぐに自分が今すべき事を思い出した。
そうだ…もう昼だってのに……まずは飯を食わねぇと。
俺の体を受け止めるのは後で良い。
寝床にしていた木の枝から地面に降りると、彼は昨日殺したオオカミの死骸が
横たわってある場所に向かった。
「どけどけ!これは俺の物だぞ!俺が昨日仕留めたモンだ!」
死肉に集るカラスのような鳥の群れを小枝で追い払った彼は、カラスたちの抗議を
無視して、早速食えそうな部分をその辺に落ちてある鋭利な石で切り取っていく。
いくら若いころに医療従事者として手術の現場に立ち会った事があろうと、
彼は自分がよく何も感じずに、無表情で動物の死骸を解体できることに軽く
眉をひそめた。
もしかしたら恐ろしいほどの性欲と言い、好戦的な言動も自分のモノではなく
この体に精神が引っ張られているからではないだろうか。
そんな考えが彼の脳裏に浮かんでしまう。
しかしその恐ろしさに彼はすぐさま考える事を放棄した。
「ふん…ゴブリンだろうが知らんが既にこの体は俺の物だ。ならこの内からなる
欲求も何もかも俺の物なんだよ…!」
そう不安がる自分に言い聞かせながら柔らかい腹の部分の肉を切り取った
彼は、その肉を川に浸し、気持ち眺めに血を洗い流していく。
血抜きの知識など無い彼にとって、これが限界であった。
「まぁ…一日ぐらい置いたってどうってことないか」
どこか暗い表情で血がにじみ出ていく肉を眺めながら、彼はそう呟いた。