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1日目:おれ加藤だけどなんだこれ???

加藤純一最強!!

懐かしい臭い。



母なる大地の匂い。



植物の、動物の、生命の匂い。



鼻をくすぐる香しい、そんな土の臭いに加藤純一は目を覚ました。





「……あっ⁉……あっ?…な…なんだ…?」



気付けば目の前に雑草が見えた。ぼやけた視線の先には木々もある。

雑草は揺れ、木々の葉は風に吹かれている。


鼻には土の匂いがする。


背中は太陽の温かみが、腹には土の冷たさが感じられる。


自身の呼吸の音も聞こえる。


瞬きもしている。


手のひらを握れる。



全てが動いていてる――自分の心臓も。


「っ!!」



一瞬、背中と額に鳥肌が走った。


そしてそれが混乱の最中でも微かな冷静さを彼に与えてくれた。


緩やかに収まっていく緊張と共に彼は上半身を起こす。


「なっなんなんだ…森?なんで外に…」


意識が途絶える前の最後の記憶は、防音壁で囲まれた仕事用の自室。

いつもの様にデスクの上に置かれたパソコンの前で配信をしていたら、

突然に心臓へ激痛が奔り、そして視界が真っ暗に――。


「大丈夫…覚えてる」


記憶がきちんとあることを確認した加藤純一は小さく息を吐く。

そして周囲を見渡した。


「とにかくよう分からんが…敵はいねぇな…」


そう呟きながら、加藤純一は自分が余りにも冷静に現状を把握し、

同時にあまりにも「敵」の脅威に怯えている自分に驚いたのであった。


「いや敵ってなんだよ。なにに警戒してるんだ…っていや、別に――」


警戒するに越したことはない。そう言い終える前に彼の口は止まる。

そして視線は徐々に顎に置かれた自身の腕に集まっていった。


数秒、思考回路が停止する。

顎に置かれた腕は離れ、目線は次第に震える体へと移っていく。



「………緑?」



そしてなんとかして出せた言葉がそれであった。



「いや……え…待ってくれ…え……えぇ⁉どっどいうこと⁉なんで体が緑に――」




そう声を荒げた加藤純一の後ろで獣の唸り声が鳴った。



「うわ⁉……おっオオカミ⁉」



まさか声で気が付かれたのだろうか、加藤純一は自分自身の無警戒さに

軽く舌打ちをする。


そしてオオカミの存在を見た時に感じた恐怖と同時に抱いた、

違和感の正体に辿り着いた。



「っ!!!!……いや、おい…まさか此処って日本じゃねぇのか⁉」



そうだ、日本狼は絶滅した。ならば今自分がいる場所は日本ではなく外国……

自分の体が緑なのは此処まで自身を連れて来た何者かの仕業ではないのか。


涎を垂らし、のっそりと周囲を回りながら近づいて来る、痩せ細った

死にぞこないのオオカミに釘付けになりながらも、そんな考えが加藤純一の

脳裏に浮かぶ。



何もかもが明らかにおかしい。


目を覚ませば森にいることも、日本に居ないオオカミがいることも、

目線がいつもより低い事も。


そしてなにより自分自身の内面での変化もだ。

目を覚ます前であれば混乱していて冷静さを失っていたのにも関わらず、

今や彼の右手には近くに落ちていた拳大の石が握られているのだ。


しかし彼は自身の目が充血し、耳が張り、息が荒くなっている事には気づかない。



「テメェ!これ以上おれに近づいたらぶっ殺すぞ!!」



生き残るため、自分を食い殺そうとするオオカミの前に彼は虚勢を張る。

威嚇もあったが、そんなものが死にぞこないの獣に対して無駄であることは、

興奮している彼にも理解できた。


だからこそ、自分の命を狙うオオカミを迎え撃つため自分を鼓舞したのだ。

実際、彼はより強く石を握り、彼もまたゆっくりと円を描くように歩き出した。



「来いよ…ぶっ潰してやる」



警戒し、間合いを保とうとする彼は、オオカミが空腹で警戒心が薄れ、

少しづつ距離を詰めてきている事に気づくと、すぐさま距離を置いた。


「ぐぅううう…」


するとそれに我慢が出来なかったのだろう。


オオカミはすぐさま彼に向かって走り出し飛びついた。



「馬鹿め!」


空を奔り、オオカミは獲物の首めがけて口を開く――。


――が、タイミングを呼んでいた加藤純一は、右手で握った石でオオカミの

頭を思いっきり殴り飛ばした。



「ギャン!」という甲高い叫びと共に地面に叩きつけられたオオカミに、

加藤純一は右手に残る痛みを無視して一目散にまたがり首を押える。


そしてオオカミが息を吹き返す前に何度も何度も、まるで親の仇かのように、

手に握る石をオオカミの頭蓋に叩きつけていった。



「死ね!死ね!死ね!これが人間の力だ!!お前風情が俺の命を狙いやがって!

 人さまに逆らった事を詫びろ!!詫びて…死ね!!」

 


果たして今、口から出た言葉が本心によるものなのか、それとも別の何かか、

加藤純一にも分からない。しかし目を覚めてから自分自身の心情に驚くほどの

変化が生まれている事には――グチャグチャになったオオカミの死骸と眺め、

浴びた血の臭いを嗅いでも何も感じなかった――彼にも理解できた。



「ふん、所詮は獣よ」



立ち上がって小さく息を吸い込み、先程まで動いていた肉の塊を一瞥しながら

呟いた彼は、こんどは水の音を探るため、静かに森の中を歩み始めた。



さてと……先ずは水を探さなくては。

喉の渇きもそうだが、流石に血を流さないと臭いでまたオオカミが

寄って来るかもしれん…身体に塗られた緑の塗装も含めて一度清めよう。


食べ物は…どうせアレがおびき寄せてくれるか。


意外と動ける事には驚いたが…筋トレのお蔭か?


いや、どうでもいい。

オオカミを殺せることが分かっただけで十分だ。


現状を把握するのも水を確保してからだ。


はぁ、日が落ちる前に見つかればいいんだがなー……。








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