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6日目:ゴブリンな俺異端か?


「なぁ、それ俺にも手伝わせてもらうこと出来るか?」


太陽が地平線を沈んでいく。洞窟に差し込む光が徐々に後退してゆく中、今まさに人間たちの死体から奪ったナイフで女魔術師の舌を切り取った鬼に、彼はそう話しかけた。


「……無理をする必要はない。今は休む時だ」


「もう休んだ。無理もしてない…それに俺は鬼だ」


真っ直ぐに自分を見つめる彼の目は、薄暗い洞窟の中でも分かるほどに充血し、黄土色の瞳も相まって鬼からすると橙色のようにも見えた。

 そしてその瞳と彼の表情から、彼が覚悟を決めたことを察した鬼は、どこか何とも言えない表情で振り絞るに言葉を吐いた。


「……そうか」


「ああ、鬼として生きるって決めたんだ。俺はもう逃げない」


「そうか」


「ああ。それに人間時代の事もあって、こういった事はアンタよりも長けてんだ。

 止血をするんだろ?石かなんかないのか?」


「ならこの木の棒を、焚火で熱して傷口をふさいでくれ。口は我が押えるゆえ」


分かった。そう言い残して彼は鬼から木の棒を受け取ると、火花を散らせ、煙を天上にあげていく焚火の上にそれを置くと、ゆっくりと熱していく。

 そして煤焼けて、所々赤く燃えるまで熱くなった木の棒を握り、女魔術師の前で見下ろす様に立ち止まった。


「hふぇうぃ⁉んxwkfw!!」


舌を切られ、手で押さえつけながらも、傷口から漏れ出る血を口元から垂らしながら悶絶していた女魔術師は、目の前に現れたゴブリンの右手に握られた赤黒い火花を散らす木の棒を見上げる。

 そしてこれから何をされるのか分かったのだろう。舌を切られ、声にならない悲鳴を上げて、今から自分が受けるであろう痛みを想像した時、なんとか目元で押さえていた涙が、雫のように頬を流れ落ちていった。


「抵抗すれば無駄に痛むだけだ。メス如きが抗うな」


自分のデコと顎を掴み、口を無理やりこじ開けた鬼がそう耳元でそう喋った。女魔術師には鬼が何を喋ったのかその意味は分からなかったが、目の前の鬼が先程まで自分にした凌辱の数々を思い出した時、自分より先に下を切り取られた女神官の怯えるような表情を見た時、彼女は恐怖のあまりあらゆる抵抗を放棄した。



魔術師の口に熱せられた木の棒が入っていく。


眠りの時――静寂な森の中で女の甲高い叫び声がいくつも響き渡った。





それかというもの二人は焚火を囲い、飯を食べた。

人間の肉は彼がこれまで食べたどの肉よりも味わい深く、大変美味であった。


自分が本格的にヒトを止めていっている事に寂しさを覚えながらも、

新たに出来た仲間とそれを忘れるかのように何度も話し合った。


自分の故郷の事。


母の、祖母の味。


子供時代の眩しい記憶。


初体験の衝撃。


将来への不安を抱いていた青春の時。


ペットの話し。


母の死――そして社会的地位を経て、色んな女を抱いた武勇伝。



自分の知らない、彼しか知らない、彼の住んでいた世界の話し。

これまで聞いたことのないような言葉の数々に新鮮さを感じながらも、男として通じる部分も多々あった事に、鬼は今一度彼に強いシンパシーを覚えた。


だから鬼も彼に話した。


狩りの事。


森の、川の、嵐の美しさ。


自然の尊さ、偉大さ。


そして父との確執。


母が人間である事のコンプレックスと、父への尊敬と憧れ。


矛盾の中でしか生きられない鬼の生きざま。



彼の知らない、自分しか知らない、鬼の世界の話を。

その話を聞きながら彼も先程の鬼のようになんども頷きながら、相槌を打った。そしてその相槌の回数が増えていくたびに互いの話し声はしだいに大きくなり、笑顔も増えていった。


「ありがとう。グーガ」


自分の名前を呼び、感謝を伝える彼にグーガは首を傾げた。


「なにがだ?」


それは決してワザ知らないふりをしている訳では無い。グーガはこれまで生きてきた中で、狩りで成功した時以外に感謝させたことが無かったからだ。そしてそれは大体の鬼がグーガと同じであった。


「なにがって…一緒に飯を食べてくれて、話を聞いてくれて、笑わせてくれて、ありがとうだよ」


ふむ、と彼の言葉を聞いてを鬼は腕を組んで軽く天井を見つめる。


「なるほど、加藤は真に面白いこと言う。だがさもありなん」


「そうかい」


感慨深いような表情でうんうんと首を曲げる鬼に、彼は小さな微笑みを浮かべた。

そしてそんな彼に鬼もまた笑みを浮かべる。


「しかしそうなると我も感謝せねばな」


「なんでだよ」


「我と食卓を共にし、談笑し、笑わせてくれた……加藤よありがとう」


その鬼の言葉に彼はどこか拍子抜けたような、何かがスッと通ったような表情を一瞬だけ見せると、すぐさままた微笑みを浮かべた。


「いいよ純で。だって俺ら親友だろ?」


気付けば二人の間を照らしていた焚火は燃え尽きていた。微かな火花が二人の足元を照らす中、彼は鬼に向かって拳を突き出した。


「ははっ!!分かるぞ!これが男の握手であろう?誠に愉快!!」


「俺の友に万歳」


「我の盟友に勝利を!!」



何も見えなくなった闇夜に包まれて、確かに拳と拳がつながる。


次第に満月のように瞳孔が開かれて行く中、二人は女を抱くために

洞窟の奥へと戻って行った。




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