5日目:やあ!!
「ゴブリンいるかな?こんな所に……」
不安げな様子でそう呟いたのは加藤純一。
今日になってい世界に生きること5日目に突入した彼は、その寂しさから
逃れるため、昨日から本格的に自分と同じ種族のゴブリンを探していた。
そして散々な結果で終わって昨日を終えた彼は夜を過ごし、朝早くから
起きて探してるものの出会うのはオオカミか大鹿ぐらいであり、ゴブリンの姿や
それらしき痕跡すら彼は見つけることは出来なかった。
果たしてゴブリンを探し始めて何時間がっただろうか。
太陽の日周は既に半分を切ろうかとしているなか、彼の心は折れてしまった。
尖った耳を地面に垂らしながら彼は重たい息を吐く。
もともと淡い希望であったのも確かだろう。
しかし何よりも朝食を抜きにしながらもこの燃費の悪い腹に喝を入れ、
空腹に耐え忍んで仲間を探したと言うのに、何一つ成果を出せなかったのだから、
彼の心と体は既に限界を迎えていた。
「やっぱりいないのかな…」
そして自分の不甲斐なさに落ち込みながら食事を取るため川辺に戻ろうとした時、
彼の鼻に何か香ばしい匂いが漂い始めた。
「いや…まさか……これは……」
体を止め、謎の匂いの正体を探ろうと鼻を鳴らすこと十数秒が経過した
後であったか、次第にその香ばしい匂いがなにか、肉が焼けた臭いである事に
気が付いた彼は、とっさに臭いのする方へと走り出した。
なにか絶対的な確証があった訳では無い。
しかし周囲が乾燥している訳でも、落雷が鳴り響く訳でもないのに、
何かが燃える臭いがするなど、普通では有り得ない事だと思っただけであった。
そしてその予想は――彼が全速力で森の中を進むこと数分後――見事に的中する。
そこに響き渡っていたのは怒号であった。
木々が揺れる音でも、鳥のさえずりでも、獣の遠吠えでもない。
意味の分からない、しかしどこか聞きなれた様な怒号が森の中を走り回っていた。
そしてその怒号に囲まれるように、一匹の巨大な鬼が大木に酔垂れかかっていた。