ローブの女性
サーキュラーキーという港を西に進み数分でロックス地区にたどり着いた。
レナードの想定していた通り、サーキュラーキーとは違いこんな大雨の中ではいつもは賑やかなロックス地区でも人がまばらにしかかった。
雨のせいで視界が悪くあまり人々の服装まではよく見えないが漸くバー探しを行えることにレナードは安堵を覚えた。
ロックス地区はオーストラリアの植民時代から存在している街である為、正直ここに魔法使いのバーなりパブがあってもおかしくはないほどの長い歴史を持つ。
しかしながら観光客向けの施設も多く、あまり地元の人間の足しげく通うような場所ではないため正直レナードがここの土地に特別詳しい訳ではない。
それが故か、レナードは小走りで変わった格好の人間を探しながらも雨に濡れる黄土色のレンガ調のブロックや石畳の美しさをしみじみと感じていた。
ロックス地区のパブには友人と一度訪れたことのあるレナードだったが、魔法使いの出入りするようなバーがあった覚えはない。
つまりはその妙なローブ姿の人間たち以外にめぼしい手掛かりはなさそうだった。
幸いにもローブ姿の人々の姿がここにくる道中にまったく見えなかったわけではなかったたし、ロックス地区に入る前にもまばらにだが姿を見かけたりした。
それから数分ほどロックス地区の少し広めの通りを屋根の下を伝って小走りでかけて行くと、少し道が狭まっている脇道を発見した。
奥の曲がり角を曲がっていく傘を差したローブ姿の人が見えたレナードは、急いでその人の後をおった。
レナードは少し遠くからではあったが多少大きな声をだしてそのローブの人間を呼び止めた。
「すみません! 少し聞きたいことがあって—————」
「—————!? え、えぇ。どうしましたか? 」
一度呼びかけた時には少し顔をレナードの向け確認しただけであまり反応しなかったが、二度目に呼びかけたときにようやくレナードのほうを向いてとまった。
レナードの呼びかけに飛び跳ねたように驚いた様子のそのローブの人は金髪でレナードほどではないが高身長、さらにほほに少しそばかすのある女性だった。
恰好が少しばかりオーストラリア人のようではなく周りと違うというだけで、特別珍しい訳ではない普通の女性にレナードには見えた。
口にあてた手が小刻みに震わせて緊張しているその女性は生唾をしきりに飲み、驚いた拍子に落としてしまった赤色の傘を拾ってさしなおした。
そんなにも驚かれたことに驚いたことに驚いたレナードだったが気を取り直して質問をする。
「突然で申し訳ないんですが、二日酔いというお店がどこにあるかわかりますか? 」
「え、あぁ、知ってます。今からちょうど向かう予定だったので…………。」
尻すぼみに声のボリュームの落ちていく女性であったがレナードは内心、ローブを着ている人ならばこのお店の場所が分かるだろうという推測があっていたことに満足感を得た。
少し緊張が解けたのか女性の表情も先ほどのようにこわばったものではいつの間にかなくなっていた。
「そこに用事があるんですが場所が分からなくて…………、ついていってもいいですか? 」
「えぇ、……大丈夫ですよ。」
その女性は不思議そうな表情を浮かべながらそう答えた。
続けて、頭の上で傘代わりにしていたリュックをチラッと見た女性はレナードに対してこう尋ねた。
「傘をお持ちではないのですか? 」
「まぁ家に忘れてしまったので…………。」
「…………? それでは私のをお貸しいたしましょうか?」
傘を忘れて手持ちがない旨をその女性に伝えたところ、先ほどよりもさらに不思議そうな顔をした女性はレナードにそう提案した。
レナードはありがたくその提案を受けた。
すると女性は彼女のローブの内側から一本のライターをレナードに渡してきた。
「あの、これは……。」
「マーガフィン商店の新作の傘ですよ、最近買ったんです。ほら……そこのレバーを二回押してみてください。」
打って変わったように楽しそうに微笑んだ女性はレナードにそう使い方を教えた。
レナードは訳が分からなかったが言われるがままにそのライターの着火レバーを二階素早く押した。