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463の継承



男は握られた反対の手をレナードの両手の上にそっと乗せた。


そして男は再び目を瞑り何かを小さな声で呟いたがレナードには何を言っているのかが聞き取れなかった。


張り詰めたような空気がレナードとその男の周りを取り囲んみ、雨の音、風、波の音さえもレナードには何も聞こえなくなったように思えた。


レナードは男が何をしようとしているのか聞こうと思った、次の瞬間だった。





「ちょっと、何しようとして—————ッ!? 」



突如あらわあれた謎の半透明の球体が男とレナードの手の中から広がる。

そしてそれは一瞬で二人の体を包み込んだ。


その半透明の球体に包み込まれたレナードは焦りから手を振りほどこうとするがまるでガムテープで手を固められたかのように動かすことが出来ない。



なんとか振りほどこうとすると、次第に様々な人間の声が聞こえ始めた。

泣き叫ぶ声、笑い声、むせび泣く声、せき込む声が辺り一面に広がったように響く。


その様々な声模様は段々と大きくなっていった。


レナードは頭に直接鳴り響くようなその声にどうにか抗おうと男になんとか懇願するも全く手を離してくれる様子がないまま何かをずっと唱えている様だっだ。






「—————何がどうなってるんだよこれはッ!! 」



出来るだけ大きな声を出そうするが当の男はそれに反応しない。


鼓膜から脳内へと流れるように響き渡るその幾千もの声の集合体になんども意識を飛ばされそうになるが歯を食いしばるように何とかレナードは耐える。



すると半球状のドームのような光の中には声だけではなく霧がかってはいるが映像のようなものが見え始めた。




「女の……人か? 」



映像は一人称で誰かの主観だった。

その人物が大きな扉の前に立つとその扉が開き、その奥のほうには一人の女性が座っている。


その女性の前にその人物が頭を垂れるようにひざまずく様子が映し出された。



さらに映像は移り変わり、先ほどとは打って変わり一人の男が映し出された。

その男性は一人部屋の中央にある椅子に座りうつむいている様だった。


段々とその座っている男性に映像が近寄っていく。

彼の小指がろうそくの光に反射して淡く光っている様子が見える。



レナードはその映像を見つめる。


すると、突然頭を持ち上げたその男が口角を少し緩ませたように笑い手を伸ばして映像をかき消した。




「————うわっ! 」



その一瞬の出来事にびっくりしたレナードは言葉を失ったが、その時になって初めて先ほどまでの突き抜けるような声の集合体が収まっていることに気が付いた。


そしてこの不思議な現象が起きている最中ずっと固く瞑っていたはずの男の目がレナードと合ったが、前に目が合った時とはまるで違う生気のない目のように見えた。




「頼んだぞ、レナード・クラーク……役目を果たせ。」



「なんで僕の名前を—————。」



レナードが疑問を質問にしようと思った直後、

ドームが弾け膨張するかのように広がり、広がっていくかと思いきや反転してレナードを中心にして一瞬で収縮した。


レナードは収縮した瞬間に反射で目を瞑った。

それはまるで何もなかったかのように突如として始まり、そして終わった。




雨の音が再びレナードを包みかすかに香る潮の匂いにレナードは現実に引き戻される。


固く閉じた目を再び開けると握っていたはずの、目の前にいたはずの男が消えていた。

それでもレナードはそれが夢や幻だったとは全く思っていなかった。


なぜならレナードの足元には男がほんの寸前まで横たわっていた時に来ていた服がまるで肉体だけが消失したかのように残されていたからだ。



レナードは振りほどくことのできなかった手を開いた。




「この指輪が、あの男のいってた指輪か……。」



透明度の全くない淀んだ赤い宝石がつけられた特徴的な指輪だった。

美しくも恐ろしくもあるそんな指輪を見て、自分が今まさに体験したこととこの指輪を照らし合わせるように考えるレナード。


これが男の言っていた死なんだとしたら、さっきのであの人は死んでしまったということになる。


何故そのまま手渡ししなかったのか。

何故こんな大掛かりなことをしようと思ったのかがレナードには全く分らずじまいだった。



広げていた手のひらを再び固く握りしめる。

そして落ちていたワンドのようなシンプルな柄の木の棒を拾いいポケットにいれた。



「とにかく、届けなきゃならないんなら届けるしかないよな。」



レナードは強くなってきた雨の中をリュックを傘代わりに木陰から歩き始めた。


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