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最後の頼み




「お前には……関係ない……。」



軽くむせる髭面の男はそうぶっきらぼうに答えた。


レナードにしてみれば親切心から傷だらけの人間を介抱してあげようとしているのに、そんな言われ様には少し腹が立ったが、男のあまりにも青白い顔を見たらそんな一過性の憤りなどどうでもよくなった。


この怪我の具合から見るに強がっているわけではなさそうだし、多分何か口外できぬ事情があるのだろうとレナードはそう思った。



「なんかさっきの魔法のように何もないところから現れたことを隠したいのなら別に僕は言わないぞ。人に隠さなきゃならない事なら僕がそれを知る必要はないだろうし。」



男はその言葉を聞いてもただ何かを考えたような表情で目を瞑ったままだった。


レナードは一応安否を確認して、決して大丈夫ではなさそうだが少なくとも会話は出来るぐらいの状態ではあったためその場をさろうと立ち上がった。


とりあえず木陰には移動させただけ何もしないよりはマシであると自分に言い聞かせる。



すると男が呟いた。



「……少し待て。お前に頼みたいことがある。」



男はそういうと先ほどから触っていた胸ポケットの中から一枚の紙きれと木の棒のようなものを取り出した。

紙であるならまだサイズ的には分かったが、取り出された木の棒は明らかにその胸ポケットに収まるサイズではなかった。


その現象にレナードは自分は一体手品でも見させられているような気分になったが気を取り直して答えた。



「僕にできることなら。」



この言葉を聞いた男は何を思ったのか先ほどとは一点、少し微笑んだ。



「……その紙に書いてある店に物を届けて……ほしい。今日までに……頼んだ。」



レナードはそう言われたのちその店を確認するために折りたたまれたしわくちゃの紙を破れないように丁寧に開いた。


紙にはこう記述されていた。




『【The Rocks 二日酔い】:7時、208号室』




ロックス地区の店なのに部屋番号まで記載されているのは妙ではあったがレナードは気になったことを質問した。



「この二日酔いってなんだ? 」



レナードはロックス地区の店舗をすべて把握しているわけでは勿論ないが、流石にそんなふざけた名前の店なら聞いたことがあるはずだと思った。



「……二日酔いは魔法使いの集まるバーだ。魔法使いならば大体行けば分かる。」



「魔法使い……か。魔法使い以外はそのバーには入れないのか? 」



そう質問を切り替えしたところで男が強くむせた。

苦しそうにせき込む姿を見て、男はこのまま死んでしまうのかと焦るレナード。


よく見たら男の顔色がどんどんと悪くなってきているのが分かった。



雨の影響も多少はあるのだろうと少しレナードは考えたが、それにしてもこんな一瞬で顔色が変わるようなことがあるとは思えなかった。



すると男はせき込む体に鞭を打ったようにレナードのほうに震える手を伸ばしてきた。

一瞬意味の分からないというような顔をするレナードに対し男はこう言う。



「……早くしろ、俺ももう長くは持たないんだ。」



手を握ったからといって何になるのか全く想像もつかなかったが、しぶしぶ言われた通りに手を握り返す。

その手はかなり汗ばんでいて、かなり体力が消耗している状態であることがそこからわかる。


握ったレナードの手でさえその男の手の震えから一緒に震えてしまう為、レナードはもう片方の手を使い包み込むように両の掌で手を握った。



「……俺の小指についている指輪が分かるか。俺が死んだらこいつを持って【二日酔い】に迎え。これは絶対に誰にも見られてはいけないし、誰にもこのことを話してもいけない。—————————話していいのは唯一、魔法魔術学校の校長、【ファーガス】だけだ。」



勿論お前の親にも言うな、とダメ押しをされて少したじろぐレナード。


しかも死んだらあげるというのは何故なのだろうか。何故生きているうちに渡してはダメなのかと疑問が頭の中を渦巻いた。


それでも、この男の瞳の奥にある燃えるような覚悟に対し、返答の仕方をレナードは一種類しか紡ぐことは出来なかった。



「分かった、必ず届けるよ。」



「……店自体はここから近い。……気負わんでいい、頼んだぞ。」



男はそう言うともう片方の手をレナードの両手の上にそっと重ねた。







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