来訪者
生ぬるい水滴がほほに落ちたのをきっかけにレナードは目を覚ました。
空は既に十分に暗く、これから本格的に雨が降ることが容易に分かった。
正直起き上がるのは億劫だったが、嵐が来るのに黙ってびしょ濡れになるほどまだそんなに精神的に極まってない。
そうレナードは自分に対して薄ら笑いをした。
いつの間にか人通りもほとんどなくなって、遠くのほうに見える街灯にも淡い光がともっているのが遠目に分かった。
「……帰るか。」
結局何を決めるでもなくただ街を散歩して公園で昼寝をするにとどまった今回の家出。
収穫といえば余計な不幸を幼馴染から植え付けられたことだけだとレナードは自嘲した。
手早く隣においてある自分のリュックに手を伸ばして背中に背負う。
こんな雨の日の不幸中の幸いというのか、木陰にいたからかレナードの寝そべっていた芝生にはそれほど水滴が落ちてはいなく、レナードの持ち物や自身も大してぬれずに済んでいた。
まだこの公園付近では小雨ではあるが湾の反対側のもう少し先では雷が轟音を響かせている。
それは後数分でここら一体も雷雨に包まれることを暗にどころか完璧に示唆するものであった。
レナードは多少小雨だが駆け足ならバスの停留所までそれ程濡れずに済むだろうと踏んだ。
そして木陰から一歩を踏み出そうと思った、
その時だった。
突然目の前の空間が妙に歪んだかと思うと人間が一人すごい勢いでその時空の歪みから吹き飛ぶように現れ、
あわやレナードと正面衝突するかのそのギリギリのところでレナードはとっさに左に転げるように避けた。
「—―ぐっ、カハッ」
肺から空気の抜けるような音がしたと思ったら勢いが余ったのか、その男は滑るように濡れた芝生の上を転がっていった。
何事かと一瞬訳が分からなくなったレナードはとりあえず急いでその半身に倒れている男を仰向けにして先程まで昼寝をしていた木陰まで引っ張った。
倒れていたその男は妙な黒いマントに中はタキシードのような一歩間違えれば時代錯誤の痛い服を着てるかと思えば、髭は殆ど手入れがされていないのではないかと思うほど生えていた。
そんな髭面の男は全身既にずぶ濡れで、これは今ここを転がってついたにしては濡れすぎている。
「おいっ、あんた大丈夫か!? 」
「―――――大丈夫……じゃねぇ……。」
息も途切れ途切れにそう言葉を絞り出した男の顔をまじまじとみれば、そりゃあんな勢いで吹き飛んできたやつが無事なわけないよなと我に返った。
それでも何もしないわけには行かないと思い、その男にこう尋ねた。
「病院につれてくからちょっと待ってろ! 」
レナードはその男の様子を伺いながら背負おうとしたが、男の背中に回そうとしたてを叩かれた。
驚いたレナードはその髭面の男の顔を見たら、その男もレナードを見返していた。
「いや、構うな―――――」
「構うなって言われてもな……、そこに死にかけの人間がいてどうにかしようとしない人間もあんまりいないと思うぞ……。」
そもそも突然空中から人が飛んでくるあり得ないことが起きて、それでも取り敢えず病院に行こうと提案できる僕を誉めてほしい。
男は黙ったままだったがゆっくりと手を動かし始め自身のタキシードの胸ポケットを触った。
「あなたが良いって言うならまぁ良いんだが。でも一応これだけは聞いとこうか。……なんでそんなボロボロなんだ? 」
髭面の男の服は確かにびしょ濡れで、今先程凄まじい勢いで地面を擦ってはいたがどうもそれにしては服がボロボロすぎだ。
明らかに切り傷のようなものが身体中にある。
しかも肌の露出したした箇所からはナイフのような切り傷から打撲のようなアザまで、どんな喧嘩をしたらこうなるのかレナードには想像もつかなかった。