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両親



ノースシドニー・ウィラビー三番通りのとある一軒家では日常の風景とばかりに口論が響いていた。

家の周りをスケートボードで遊んでいる子供たちも、庭の芝生をきれいに掃除している隣人もむしろその口論の無い日のほうが気持ち悪いぐらいにその家では毎日口喧嘩の嵐。


そうとは言っても決して仲が悪いとか、家族が離散の危機にあるとかそういうことではないらしい。


そんなクラーク家の一人息子【レナード・クラーク】はとにかく頭がいい。

もうすぐに卒業式を控えるレナードは卒業生代表になるぐらいの秀才で、シドニー大学やメルボルン大学、オーストラリア国立大学も満額の奨学金付きで合格してしまうぐらい頭がよかった。


でもその頭の良さが災いというかなんというか、どうしても両親のいうことにいつも違和感を覚えて仕方がないのだ。



「だから僕はギャップイヤーが欲しいんだって何回も言ってるでしょう? 母さんの要望通り大学には出願して合格してやったんだから文句はないはずじゃないか。」



レナードは顔の真っ赤になった母親【レベッカ・クラーク】に対してそう言った。



「わたしが出願だけはしなさいと言ったのは、出願さえすれば大学にいかなくて良いという意味で言ったわけじゃありません! 」



レベッカも負けじと言い返すが、そんな様子の自分の母親を話半分に聞き流すレナードは再び言い返す。



「なら始めに言っとくべきだったね、一般的な契約ごとでも後出しは話にならないよ。小学生からやり直しておいでマイマザー。」



手をひらひらさせながら返答するレナードにだんだん腹が立ち無性にひっぱたきたくなったレベッカは握りこぶしをつくり何とかあふれ出る怒りを鎮めようとした。


するとレベッカの隣にレナードの父親である【ハワード・クラーク】が歩いてきて肩に手を置いた。



「子供がやりたいことをやらせてあげるのは親の義務だ。だから私たちはお前がやりたいことは何でもやらせてきたし実際にお前も不自由は感じなかったろう。……ただなレナード、世話になった人の恩にたまには報いてやるのもまた愛だぞ。」



ハワードはレナードに対していつもこうだった。

叱るかと思えば諭してくるし説教とは違う道徳論を説いてくる。

それが無性にむかつくかといえばそうではなく、まぁ仕方ないなとそう思わせるような話し方で訴えかけてくるのだ。


レナードはため息をついて考えとくと一言呟いて自室へ向かった。



クラーク家はたしかにそうだった。

レナードはわりかしポジティブでいつも何事にも挑戦してきたしスポーツだって望めばなんでもやらせてくれた。


そんな両親の親元を離れる最後ぐらい彼らのいうことを聞いてやっても罰は当たらないと、父親の言う通りレナードにはそう思えた。



靴も脱がずにベッドに倒れこむレナード。

頭の中では様々なことが渦巻いていた。


優秀で高給取りの父親を間近で見て育ったからわかる社会のつまらなさ。

毎日仕事に通ってやりたくもないことを行い、その対価は家庭の維持に費やされるだけの日々。


大学ではめちゃくちゃに勉強することが分かり切ってる中で最後のバケーションは完全にギャップイヤーしかない。


でも両親のことを考えるとやはり人生最後の夏休みを謳歌するのは非常に難しいだろうとレナードはそう思った。


レナードは深くため息をついて自分の将来について思案した。



社会人になってやりたいことがないわけではないし、別段モチベーションが低い訳でもないがこれも大学生前のそれこそマリッジブルーの社会人前版みたいものだ。



—————ユニバーシティブルー、とでも名付けてやろうか。



謂わば投げやりな気持ちをどこに発散するわけでもなく、レナードは静かに自室から見える外の景色を眺めた。


きっと道路で水をかけあって遊んでいる子供たちには自分のやり場のない気持ちを理解出来やしないんだろう、という気持ちと、あんな風に何も考えず遊んでいたいと少しの羨ましさが、レナードの頭の中をゆっくりとかき混ぜていた。









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