表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/22

6.続・十才 成長に栄養が不足していた件1

6.続・十才 成長に栄養が不足していた件




(ぼう)、食べ過ぎだろ。つか、何でそんな量食えんの!?」

 雇われて数ヶ月。とうとうディットはシェルディナードの部屋、夕食の席で悲鳴を上げた。

 一般的な人間で言うところの成人が一週間余裕でやりくり出来る食材を確保しているのに、それが二日で無くなる。

「んー……。食べ盛りの成長期だから?」

(これでもセーブしてるんだけどなぁ……)

 そんな事を思いつつ。

「だからって……。本当に大丈夫なのか?」

「平気だよ。足りないくらいだし」

「待て。やっぱおかしいだろそれ!?」

 胡乱(うろん)な顔でシェルディナードを見るディットに、シェルディナードは曖昧(あいまい)に笑む。

「そうは言われても……。しいて言うなら、種族の必須栄養素が足りないのを、普通の食事で補ってるから満腹にならないし、食べた側から魔力に変換してる、んだと思う」

「へ? 必須栄養……おいおい、そう言うのは初めに言え。何が要るんだよ」

「あー……。人間?」

「…………」

「大人一人で一日足りると思う。身体の成長が安定したら、もっと間隔空くと思うけど」

(うん。まあ、種族が違うと大分ショッキングかな?)

 人間でなくても、本当は他者であれば何でも良いのだけれど。

 そこは流石に言うとディットが震え上がってしまうだろう。言わぬが花だ。

「人間?」

 ゴクリと喉を鳴らし、ディットが確かめるように聞いてくる。

「うん。だって、母さん女食人鬼(グーラー)だから」

 父は不死者(アンデッド)の家系、母は人喰鬼(ひとくいおに)の家系。基本的にハーフとなる子は母体である母の体質が濃くなる場合が多く、シェルディナードもその例に漏れない。

 成長する為には人肉やそれに準ずるようなものが種族として必須なのだから仕方ない。他で補うのも一苦労なのである。

(問題は、そんな種族の治める領地に獲物(ごはん)が大量な事なんだけどね)

 え。何で? 食べ放題じゃん。とか言えるのは他領の奴だけだ。

「え。それなのに、人間が一番多い領地の跡継ぎ候補? 無理じゃね?」

「うん。まあ、そう思うよね。普通」

 せめて同じ近縁種族だったら不死者で産まれ、そんな問題無かったし、だから兄達が種族として最適だと思うのだが。

「何が、問題、なの?」

「うわぁあああ! ちょ、いきなり出てくんな! つか、いつ現れた!?」

 小さな鈴を鳴らすような声がディットの背後から聞こえ、文字通りソファからディットが飛び上がった。関係ないけど猫って驚くと垂直跳びするらしい。

 部屋にあったキャビネットの影から進み出たサラは不思議そうに小首を傾げる。

「いま」

「うんそうだな。そうじゃねぇ」

「どっち」

「サラ、もうそっち夕食終わったの?」

 ディットとサラのやり取りを見るのは嫌いじゃないけど、ひとまず確認した。

「うん。だから遊びに、来た、よ?」

「こっちの予定も考えろ。坊と俺はまだ食事中だ」

「いいよ。ディットももう終わりでしょ?」

 サラに考えろと言いつつ、ディットは立ち上がってテーブルを片付け、紅茶の準備をしている。口では何だかんだと言いつつ、従僕としての立ち居振舞いも板についてきた。

 来客であるサラとシェルディナードの前に紅茶のカップを置き、ディットは静かにシェルディナードの座るソファ、そのやや斜め後ろに立つ。

「ルーちゃん、さっきの、何で?」

「ああ。何で俺がうちの領地だとまずいか?」

「そう」

 サラは特に人肉が必要ではない種族だからピンと来ないのだろう。

「自分達を食べる奴が領地管理してる。わりと怖いじゃん」

「いつ自分を食べようとするかわからない。普通に怖ぇーわ」

 シェルディナードの後にディットが続けるが、普通に怖いと言いつつ逃げる様子もない。その言葉通りなら、一番怖い立場にディットはいるのだが。

 だからシェルディナードは不思議そうにディットを振り返る。

「やめたい?」

「別に。坊、やる気ねーだろ?」

「うん」

「じゃ、問題ねぇよ。曲がりなりにも俺、もう数ヶ月坊の側に居んだぞ。それくらいわからぁ」

 シェルディナードに自分(ディット)を食べる気がないとわかっているから辞める気はない。

 サラはその言葉に、自分の向かいに座る親友(シェルディナード)の顔を見て、目を静かに瞬かせた。

「そっか……」

 鳩の血のように赤い紅玉の瞳が、じんわりと(にじ)むような笑みの形に変わる。口許も、いつもよりきゅっと口端を上げ、堪えるようにささやかな笑み。

 そんな親友の笑顔を見られれば、それだけでサラには自分で雇ったわけではないが、価値がある。

「ディット」

「何だよ」

「ぐっじょぶ」

「は?」

 サラにいきなりそんな事を言われてハンドサインを出されたディットは、わけがわからずそんな声をもらす。

「とにかく、俺が領主になるのはそういう意味でもまずい」

 しかし、貴族の義務として放棄も出来ない。

 望む望まない関係なく、貴族として産まれたなら領地に生かされている。

(兄のどっちかを領主にして、補佐に回る。それが本来正しいものだし)

「だから兄達を補佐する為に領地を整える所までやって、俺はフェードアウトするつもり」

 頭が誰になろうと領地が回るようにすれば、相当下手をこかなきゃ大丈夫なはず……。

 目指せ、円満な跡目競争離脱!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ