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続々・十一才 ご挨拶にいく件14

「マジで気ぃつけろよ……坊」

 寿命が縮む。そう呟いてディットが座り込む。

 危機が去って気が緩み疲れたのか、しばらく誰も何も言わずに天井の星空を眺める。

 が。

「いてっ」

 ボーッとしていたディットの額に、親指の爪くらいの何かが落ちて来た。

「なんだコレ?」

 拾い上げると、ランプの明かりにキラリとオレンジや黄色の光りを放った。

「あ。それ、魔影晶です」

「え?」

 拾ったディットがマジマジと見つめる。

「コレが? てか、降ってきたぞ。ここ大丈夫なのか?」

 崩れたりしないだろうな? という顔でディットが不安そうに辺りを見回す。

「はい。それは大丈夫です。多分ですけど、その魔影晶が、あなたを気に入ったんだと思いますです」

「はあ……。って言われてもなぁ」

 この欠片みたいなのでどうしろと。そんな微妙な顔でディットが呟く。

「せっかく気に入って来てくれたんだから、大切にしたら?」

「まあ、それもそうか。じゃあ、うちに連れてくって事で」

 記念品くらいの感覚でディットはハンカチにそれを包んでポケットに入れた。

「って、サラ坊、足許それなんだ!?」

「おおー」

「うわぁ! こんなの初めてみます!」

 サラの足許がいつの間にかキラキラと光っている。まるで星屑の上に立っているかのようだ。

「ロキシン、そう言えば魔影晶の好みって何基準?」

「あ。えっとですね、魔影晶は魔力が強ければ強いほど好感を示してきます。生息も魔脈の近くを好みますし。その点は洞窟巾着と同じですね」

 岩石喰いは魔影晶にとっては捕食者なので嫌われ、洞窟巾着にとっては好物なので狙われる。

 まあ洞窟巾着は普通の魔族も狙ってくるので、どちらにとっても危険なことに変わりはない。

「そりゃサラ坊好かれるわな」

「そうすると、俺は難しいかな?」

 シェルディナードは魔力量で言うなら特に多くも少なくもない、言うなれば平凡なレベルである。

 まだまだ成長過程であり、伸び代はあるものの、現在この場では魔力量だけなら最弱だろう。

「ただ、嗜好があることから、一種の魔力生命体とも言われていて、興味を引けば魔力量以外でも気に入られる事は出来る……かも知れません」

「気を引く……」

「石のか? むずくね?」

「これ、ルーちゃんに、あげるじゃ、ダメ?」

 その言葉をサラが口にした瞬間、足許の光りが消えた。

「ダメみたい、です」

「だね」

 気まずそうなロキシンの言葉にシェルディナードが軽く肩をすくめる。

 とは言え、サラに比べたらディットだってシェルディナードと大差ないはずだ。それでも欠片とは言え気に入られたのだから、ロキシンの言う通り何か魔力以外にも好みとかそういう要素があるのだろう。

「んー……」

 シェルディナードはディットを見る。ディットは猫妖精(ケットシー)だ。魔力はこう見えてもそれなりにあるが、黒陽(ノッティエルード)たるサラと比べた時、純粋な魔力基準なら比べるべくもない。

 更に言うなら、魔影晶は最初から降ってきたわけではない。

 明らかにディットのとった『行動』が欠片くらいの魔影晶にささったのだろう。つまり、ある意味、鉱石ではなく普通の人と同じく話が通じそうである。

 満天の星空の如くこちらを見下ろす魔影晶。

 そこに向かい、シェルディナードは宙に指先を走らせる。指先の軌跡は魔力の線となり術式が描かれては消えていく。

 その軌跡を追うかのように、魔影晶が瞬いている。

 少しの間そうして書いては消える術式を描き続け、いつの間にかシェルディナードの額や首筋には玉の汗が浮かんで流れた。

 指先から絶えず魔力を流しっぱなしなのは、人間で言え出血が止まらないのと同じようなものだ。

 通常は術式に必要なだけの魔力が使われるのに、入れ物がない宙へ流しっぱなしでは際限なく。

 何をしているのかわかったロキシンが慌てて止めようとするのを、ディットが逆に止める。その視線はサラへ。

 サラはじっとシェルディナードを見ているものの、止めようとはしない。それを確認して、ディットも固唾を飲み、ジリジリとしつつもその場に留まった。ただし、

(うっお。怖ぇ……。つか、サラ坊が堪えてんのに、こっちが手ぇ出したら良くて半殺しにされんだろ)

 藍色の瞳は瞳孔が開き、光もなく底が見えない昏い深淵。きつく握った拳は握り過ぎているのか真っ白だ。

 そんな状態で自分自身を抑え込んでいるサラを見て、ディットも焦れるものの様子を見る。

 本気でヤバかったらサラが待ったをかけるだろう、と。いやかけない訳がない、という確信から。

 シェルディナードの指先が宙に『協力者大募集中』と書いて下ろされる。

 はぁ、と。息を吐く音だけがその場に響く。



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