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続々・十一才 ご挨拶にいく件10

「その打ち石が鳴らされるのも久しぶりですね。それで、此度(こたび)はいかがされたのか」

「領主に代わり無沙汰(ぶさた)をお詫び致します。現在、領主から領地の開拓整備を命じられておりまして、皆様の御力をお借りしたくお願いに参った次第です」

「開拓を……」

 彫像めいたその顔が一瞬、微細に眉を動かした。

 開拓する気あったのか、という所だろう。これまでのシェルディナード父の様子はおおよそ放置一択。街を作ろうなど微塵も考えていない様子だった。

 今さら? と思われても仕方ない。

 そして、それは……。

「岩石喰いの皆様には、今まで何の連絡も支援もなく、申し訳ありませんでした」

「……いえ、貴方の謝る事でも、そもそも謝罪など不要な事ですよ」

「いいえ」

 シェルディナードはキッパリと言って首を横に振る。

「私は『領主代理』としてこの場におります」

 それには挨拶にシェルディナードが立った時に、主を立たせて従者が座っている訳にはいかず立っていたディットも背筋を伸ばす。今この場で座っているのはサラのみである。

「現領主の無礼を領主代理として心からお詫び申し上げます。そして、改めて共に手を取り合って頂きたく」

 頭を下げ、そして岩石喰いの長を正面から見つめた。

「我が領民として、もう一度共に歩んで頂け無いでしょうか」

「…………」

 長の顔は彫像めいているだけあって、表情が読み取れない。無表情にも見える。

 だが、長が目を閉じてため息めいた仕草をすれば、流石にわかった。

「是非もありません。申し上げたでしょう。謝罪など不要と。……ですが、確かにその打ち石がある事すら忘れかけておりました。その長きに我らに声が掛からなかった事、寂しく思っていた事もまた事実」

 ズズッと音を立てて長がシェルディナードに近寄る。

 そっと手を差し出す。

「打ち石の存在を忘れず、再び我らと友誼(ゆうぎ)を結ぶ意思を見せて下さった事、大変嬉しく思います。これから互いの繁栄を祈りましょう」

「ありがとうございます」

 握手を交わし、今度こそ長の表情が柔らかな方向へと変わる。

「打ち石を一度お預かりしても?」

「はい」

 シェルディナードが長へと打ち石を渡すと、何かを長が呟き、打ち石を再びシェルディナードへ返す。

 返されたそれは、幾分様子が変わっていた。

「透き通った……?」

「元々はその状態だったのですよ」

 黒い事は変わらないのだが、透明度が違う。今は薄っすら手の輪郭が石に透けて見える。

「シアンレードの主が来訪した事を我らに伝える特別な音域を発するのですが、古くなり伝わりが悪くなっていたので。これでまたしばらくは大丈夫でしょう」

 長の顔には変わらず笑み。そして少しだけ首を傾げた。

「ところで、よくその打ち石の存在を知っていましたね? 先ほどの言の通り、最後に使用されてから随分長い時間が経っていたので、紛失や代替わりで伝達が途絶えてもおかしくなかったのに」

「領城の保管室に収蔵され、用途の説明書きも添えられていましたので」

 にっこり笑顔のシェルディナードを、ディットは胡乱な顔で見る。

 実際の所は、城の図書室で岩石喰いについて書かれた以前の領主の資料を見つけ、数日かけて探索した結果なんとか見つけ出した。

 収蔵されていたのは間違っていないが、ほぼ保管室はダンジョンであったのはディットに強烈な印象を与えている。そんな簡単に言われると何とも言えない気分になるのである。

「そうですか……」

 しみじみと呟く長には口が裂けても言えないが。

「ところで改めて友誼を結んで頂けた事ですし、これからの開拓について大まかな概要とご協力頂きたいこと、岩石喰いの皆さまへの対価などをすり合わせさせて頂いてもかまいませんか?」

「はい。それでは立ち話は止めにして、お掛け下さい」

 そこからはシェルディナードと長で開拓の内容を共有し、条件を詰める作業だ。

 ディットはサラと共に進行を見守る他ない。

 しばらくの協議の末、(おおむ)ね合意したらしく長とシェルディナードが握手を交わす。

「ありがとうございます。それで、これから取り扱う隣り領の品をサンプルとして持参致しましたので、お受け取り頂けたらと」

「お気遣いありがとうございます。お隣は湖や海の領地でしたね。大変興味がございます」

 亜空間収納から手のひらサイズの小箱を取り出し、長へと渡す。

 それを開けた長がピタリと笑顔のまま固まった。

 一拍の後、微かに長の身体が震え出す。

「いかがですか?」

「……素晴らしいです」

 長の目許がとろける。

「これは湖と海、それぞれの魔力を帯びた真珠ですか? 粒ぞろいでしっかり魔力が入ったものをこんなに……。本当に頂いてよろしいのでしょうか?」

「もちろんです。その為に持参したのですから」

「ありがとうございます。皆も喜びます」

 海水で育った真珠と淡水の真珠を小箱にぎっしり。岩石喰いと言うが、真珠もどうやら守備範囲のようだ。

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