続々・十一才 ご挨拶にいく件8
「お待たせ致しました」
訓練場の中ほど。数匹の飛竜がたむろっている。
いずれもシェルディナード達をあまり好意的ではない眼で見ているようだ。
「何かどれもガンつけてきてねぇか?」
「仕方ないよ。飛竜は元々縄張り意識も強いし、プライドも高い。それを無理やり舎から引き出してきたのもいそうだし」
ご機嫌は麗しく無さそうである。
「…………」
そんな中、サラからじわりと冷気に似た気配が漏れ始めた。
「サラ?」
「サラ坊?」
その気配に、飛竜達が一斉に反応して頭を上げ、サラの方を向く。
「――どこまでルーちゃんをバカにしてるの?」
「サラ待った!」
ヤバい。とっさに判断してシェルディナードはサラの肩を掴む。
その瞬間、ふっ、と。冷気が和らいだ。
「ルーちゃん、なに」
「落ち着けって。今回は急に依頼したこっちにも責任あるから」
「でも……」
「頼むよ。な?」
お願い、と。シェルディナードがサラに手を合わせる。
少しジトッとした眼になったものの、ため息一つでサラは完全に気配をおさめた。
瞬間、ぶはっと息を吐き出して胸を押さえて安堵したのは隊長だったのか、それともその場にいた他隊員もだっただろうか。へなへなと座り込む者もいた。
「坊、これって」
「うん。こっちは冷気くらいだけど、多分……」
殺気、混じってたんだろうなぁ、と。シェルディナードは気の毒そうに呟く。自分達とこれから搭乗する可能性のある飛竜達には向けられなかったが、その他の人には容赦なく殺気がぶつけられたようである。
だがそれも仕方無し。普通、『無理やり引き出す』ような事をしなくて良いよう準備して当たり前なのだから。
それをしていない、準備もせずにコンディションも整えていないものを、自分達が仕える家門の令息に供するなんて無礼以外のなにものでもない。
ポリと片頬を指で掻き、今度こそ終わったという顔をした隊長を見たシェルディナードは、とりあえず飛竜にもう一度目を向ける。
一際大きく黒青の鱗艶も良い個体。そして意外にも遠くでぷるぷる震えつつ涙目でこちらを見ている気配を漂わせた小さめの漆黒の個体。
この二匹以外は伏せ状態で震えるか泡吹いて気絶するかという有り様である。
「とりあえず、こっちのとあっちの奴、用意して。大きい方には二人乗り用の鞍で。黒い方は一人乗りを」
「か、畏まりました」
黒青の個体はサラの怒りに触れた事で色々納得したのか、騒ぐことも無く鞍と鐙、手綱を掛けさせている。が、漆黒の方は相変わらずぷるぷる震えてか細い悲鳴を上げ、散歩を嫌がる犬の如く引っ張ろうとしてもイヤイヤと抵抗している風だ。
隊長がギギッ……とブリキ人形のような動きでシェルディナード達を見る。
「あ、っと……ちょっと声掛けてくる」
イヤイヤする個体に近づくと、青い涙目のそれはうるりと懇願するようにシェルディナードを見つめた。
手を伸ばすだけでビクッと震えるそれに苦笑しつつ、ゆっくり鱗を逆立てないように首筋を撫でる。
「急にゴメンな。びっくりしたよな」
よしよしと撫でつつ、乗せて欲しい事と危害を加えるつもりは無いと伝え、ゴソゴソと亜空間収納からシェルディナードは手のひらサイズの肉塊を取り出す。
「ほら、オヤツ。美味しいよ?」
肉塊が取り出された瞬間から、その視線は釘付けである。乗せた手が右に行けば右に。左に行けば左へ飛竜の首は動く。
ついにはダラリと涎まで。
「これあげるから、乗せてくれない?」
肉塊とシェルディナードの顔を交互に見つつ、飛竜は悩むように視線を彷徨わせ、最後に肉塊をペロリと舐めて覚悟を決めたらしく、差し出された肉塊を口にした。
飛竜が弁解を口に出来るとしたらこう言っていただろう。「いやだって、滅多にこんなオヤツ貰えないし。ただでさえ仲間にチビとかトロいとか言われてゴハンも高確率で横取りされるんだよ? 今しか食べられるチャンスない」と。
プライドより肉。
「交渉成立。よろしく。着いたらまたゴハンあげるから」
ブンブンと尻尾を振る飛竜にシェルディナードは頷き、手綱を引いて戻る。
「お待たせ」
「おかえり。ルーちゃん」
「坊、そいつに乗るのか?」
シェルディナードはサラとディットがそれぞれ口にした言葉に頷き、黒青個体を見た。
「うん。そっちはサラとディットで。サラ、ディットをよろしく」
「わかった」
「おい、逆じゃね?」
「ディットだけだと放り出されるかも知れないし、こっちのはディットには小さいでしょ」
その言葉に一番反応したのは漆黒個体。ソソっとシェルディナードの後ろに隠れられないのに隠れる。
この人しか無理、というのが如実だった。
サラはよほど怖いのか漆黒個体は搭乗拒否らしい。
かくしてそれぞれが搭乗し、飛竜が空へと舞い上がる。




