続々・十一才 ご挨拶にいく件7
「あ?」
「なんだお前」
青年二人は分かりやすく気分を害した顔になり、ディットは笑顔で追撃した。
「ん? 俺は坊の従者だけど? てかそれよりもしかして部隊長のせいじゃなく、おたくらがきちんと聞いて無かっただけなんじゃね? 上官からの連絡事項忘れるとか、訓練そんなキツいなら休み取った方が良いんじゃねぇの?」
安いディットの挑発に青年二人の気配がいよいよ怒気を帯びる。
「お前達! そこで何してる」
「「隊長」」
割り込んできた第三者の声に青年二人の背筋が伸びた。
隊長と呼ばれた黒い騎士服を着た人物がしっかりとした足取りで近づいてくる。
短く刈り込んだ灰髪と日焼けした肌の中、鋭く光る鉄色の眼をした、体格の良い外見年齢としては中年手前の男性だ。
「不審な男一名と子供二名を発見したので注意を促しておりました!」
「自分達は部外者の安全の為に注意していただけであります!」
二人の言葉に隊長はディット、シェルディナード、サラと視線を滑らせ、最後に眉間に深くシワを寄せた上で一度口を真一文字に引き結んだ。非常にいかつい顔となる。
さらに頭痛を抑えるように閉じた目尻、口の両端からチリチリという音と共に何故か煙が上がった。
急激にその場の気温が上昇を始め、隊長の身体の所々から白い湯気のようなものが立ち昇る。
「た、隊長?」
「あの、あの! な、なな、なにかっ」
「この――愚か者どもが」
ひっ! と青年二人の身が竦んで声がもれた。
カッ、と見開かれる眼とは裏腹に、隊長の声は低く、グツグツと煮えるような怒りがにじんでいる。
「俺は朝礼で来訪がある旨を伝えたな? 来訪するのは領主様の三番目の御子息とそのご友人であることも」
「え……」
「聞きました、が」
これが? みたいな顔をして青年二人がすました顔のディットを見た。
そんな動作に、隊長の額に音を立てて青筋が浮かぶ。
「キサマらは、自分の仕える家の御子息の顔も覚えておらんのか―― 御子息は皆様、まだ子供だ」
「俺、従者つったじゃん」
隊長の押し殺した怒気含みの言葉にしれっとディットも乗っかる。
そんな言葉に青年二人はガタガタと震え、即座にお子様二人に深々と頭を下げた。その様子と雰囲気は命乞いに近い。
「も、申し訳ございません! 何卒命はっ」
「このような失態は二度と致しませんので、何卒、なにとぞ命だけはっ! もう一度チャンスを!」
近いではなく命乞いだった。
「良いよ。ただ、サラには謝って欲しい」
シェルディナードの言葉に、青年二人は埋まる勢いの土下座で謝罪する。
「「失礼な態度を取って申し訳ございませんでした!」」
「……わかった」
「「ありがとうございます!!」」
青年二人が助かったと息を吐いた瞬間、隊長から激が飛ぶ。
「走り込み5キロ! 終わったら当面お前達で全ての飛竜舎の掃除をしろ! 行け!」
「はい!!」
逃げるように駆け出した二人を苦い顔で見送ってから、隊長はシェルディナードの前に片膝をついて頭を下げる。
「部下のご無礼をお赦し下さい。大変申し訳ございませんでした。以後無きよう徹底致します」
「うん。ありがとう。よろしくね」
「は! そして今代黒陽、お初にお目もじ叶い、光栄の至り。ようこそシアンレード騎士団飛竜部隊へ」
隊長の挨拶には返さず、サラはシェルディナードに顔を向ける。
「ルー、ちゃん。時間、勿体ない、よ」
「あー……。そうだな。クルア隊長、事前にお願いしていた通り、飛竜を二匹借りたいんだけど」
「畏まりました。しかし……その、候補を数匹引き出しますので、御力を示して頂ければと」
非常に言いづらそうにする隊長にシェルディナードは苦笑した。
「わかってる。それでよろしく」
「は!」
素早く立ち上がり、崖の側に行って部下に指示を出す。
「ディット……」
「んだよ、坊」
「ルーちゃん、今回は、ディット悪くない、よ」
サラの言葉にディットが庇われたのに変なものを見た顔をする。
「……」
ディットの顔にサラが半眼になって一瞥するも無視する事に決めたのか何も言わず、シェルディナードに向き直る。
「ディットが、言わなきゃ、オレがやってた、から」
「……まあ、そうだよな」
それこそ、あの命乞いが大袈裟ではない。サラは殺る気だったし、それが許される立場でもある。
隊長も表情から何からガッチガチで顔も強張るわけだ。あの青年二人には良い隊長さんでほんと良かったね、としか言えない。
何とか助けようとこの場から追い払って、自分は責任を取って頭を下げ沙汰を待った。
それをみとめてサラもそれ以上はしなかったのだから。
「サラ坊、ちったぁ堪えろよ。最低限まずは警告から入れ」
「無駄」
「切り捨てんな!」
「自分の、とこの、家主の顔も覚えられない、無能が、有罪……」
「あー……それはそうだな」
「あの隊長さんも苦労してそうだね」
ちらとシェルディナードはディットを見る。そういえばディットには一族名鑑を見せていなかった。
父母と異母とその子二人は説明したが、それ以外の血族上のいわゆる親戚は名前も顔もわからないだろう。
基本会うことは無いと思うが、今回のような事が逆にディットの身に起こらないよう、帰ったら名鑑を見せようとシェルディナードは心の中で頷いた。




