続々・十一才 ご挨拶にいく件6
「飛竜に乗りに」
「…………」
ディットは両手で顔を覆ってガックリと両膝をつく。そのまましばし色々な言葉を飲み込んだ。
スッ……と両手を下げて顔を上げる。
その顔にはアルカイックスマイルが浮かんでいた。
「なあ、坊」
「なぁに? ディット」
ホットチョコレートを飲みながら小首を傾げるシェルディナードを数秒見つめ、ディットは溜め息を吐きながら力なく首を横に振った。
無駄なことは、しない。
「弁当用意するわ」
「やったー。色々詰めてね」
うっきうきでピクニックにでも行くような雰囲気だが、行くと言った先はプライドが高く気性もそこそこ荒い飛竜の集う場所である。
シェルディナードとは打って変わってどんよりとした空気を纏ったディットの上着の裾が、クイクイと引っ張られた。
「?」
見ればサラがディットをじっと見上げている。
「どうした? サラ坊」
「大丈夫……心配、いらない、から」
相変わらず眠そうな眼だが、その声音は意外にもハッキリそう言った。
「ん。まあ、サラ坊がそう言うなら」
「うん。ルーちゃん、ディットも、ついでに」
ついでかよ、とはツッコまない。慣れた。
「手は、出させない、から」
「お、おう……」
得体の知れない気迫に圧倒されつつ、ディットは頷く。
そんなこんなで翌日。
最近縁があり通っていたセンナの孤児院からは北北西に数十キロ。小高い丘の上に領城はそびえ立っている。
「いつ見ても……」
壁は先日みた城とは正反対の漆黒。屋根は黒に近い深すぎる青。繊細な飾りの大きな窓が幾つもあるが、その様相から明るいイメージが全然わかない。
高くそびえる尖塔や飛び梁と呼ばれるものが高さと光を取り込む建築のはずだが、何故こうも空気からして重いのか。城全体が大きいからこそ、建築様式とは正反対の重苦しさが強調されている。
しかも、何か薄気味悪い木がそこかしこにあって城周辺も暗い。
まるで悪魔か魔王の城……とは流石に雇い主の手前、口に出せないディットだったが、領主令息たるシェルディナードはそんなディットの濁した言葉をハッキリ口にした。
「趣味終わってるよね」
「…………」
ディットは何も言えない。そしてサラはいつも通り眠そうにコクリコクリと舟を漕いでいる。
子供って自由で良いよなぁ、などと現実逃避していたディットだが、これから向かう場所を思い浮かべて気を引き締めた。
悪魔の城もとい領城の北側は崖、東に少しズレた所も城の敷地内であり、そこにはまた岩場や崖がある。今回の目的地はそこだ。
崖の側面には幾つもの穴が空いており、そこからコウモリのような、けれど比較にならないくらい巨大な翼を持つ竜が飛び立つのが見えた。
飛竜舎である。
ちらりとディットはお子様二人を見た。
飛竜は一番小型のものでも人が乗れるだけあって、子供なら簡単に掴んで飛び上がれる。ついでに子供くらいペロリと平らげる肉食性だ。なおディットは飛べない。
何かあっても助けられないどころか、多分瞬殺される。
「なあ、本当に行くのか?」
「うん。だって岩石喰いの村はサラも行ったことないし」
サラの影転移は、転移先が行ったことのある場所でないと使えない。
「徒歩じゃ時間掛かるし、陣を敷くには現地の様子がわからないとリスクが高いから」
陣移動は座標だけで言えば可能なのだが、移動先の状態がわからずやるのは大変危険である。
「そうなると飛竜が一番速くて確実でしょ」
「だけどなぁ……」
「ディット、そんな心配しなくても大丈夫だって」
「いや、飛竜って結構面倒くさいんだぞ? 気性も荒い奴多いしな」
「ディット、しつこい……よ」
シェルディナードが言ってもなお落ち着かないディットに、サラも眠たそうな眼でディットを見上げた。
そんなお子様二人に、ディットは眉を下げて溜め息をついてから、少し屈んで目線を合わせつつ二人の頭を雑にワシャワシャする。
「どんだけお前らが強くても、俺なんかよりよっぽど心配いらねぇとしても、それでもお前らはまだ子供なんだよ。心配すんのは当たり前だっての」
サラは不服そうにディットの手をベシッと払い除け、片やシェルディナードは不思議そうな顔でディットを見ていた。
「サラ坊、痛ぇんだけど?」
「髪、ぐしゃぐしゃに、するから、でしょ」
「へいへい。悪ぅござんした」
諦めたようにディットは軽く自分の両頬を叩いて気合いを入れ、シェルディナードを見る。
「じゃ、行くか」
「うん」
シェルディナード達が崖近くの訓練場へと足を踏み入れると、近くにいた青年が二人、見咎めるように声を掛けてきた。
「おい、ここはシアンレード騎士団飛竜部隊の敷地だ。勝手に入って来るな」
「子供の遊び場じゃない。ったく、さっさと失せろよ」
その発言にサラの眼が据わるが、心得たように笑顔てディットがサラの前に立つ。
「いやいやいや? ちゃんと許可取ってるぜ? そっちの部隊長から聞いてねぇの? 報連相は基本だろ」
そしてごく自然に喧嘩を買って売り返した。




