続々・十一才 ご挨拶にいく件5
虹珊瑚は数千年を生きる。
自然に寿命を迎えたもののみ、宝石化する珍しい珊瑚だ。さらに宝石化する過程で透明になり、遊色効果を帯びるものの、非常に見つけにくくなる。
そもそも自然な寿命が魔族にしても長いと感じるくらいなので、相当珍しい。大変な縁起ものであると、シェルディナードは自身の領城の図書室で読んだ。
「数十年前に大樹ほどのものを見つけたのだ。大分加工してしまっていたが、まだあって良かった。これからの互いの領地発展を願って贈らせてもらいたい」
「大変ありがたく存じます。謹んでお受け致します」
「よし。これからが楽しみだ」
そして最後に、と。
一番小さな箱を開ける。
「水琥珀と呼ばれるものでね。水中に流れた樹液が固まり、更に魔力の膜を幾重にも纏って結晶化したものだよ」
絹布を敷かれた箱の中に一つだけ収められた輝石。中心部には言う通り琥珀があり、その周囲を湖面のように光り揺らめく透明な層が取り巻いている。角度や光の加減で中心の琥珀も色を変える見た目もさることながら、水の魔力を感じる事から魔石でもあるのだろう。
基本天然魔石は品質が良ければ良いほど、とっっっっても、お高い。
「これは……すみません、いささか頂き過ぎかと」
「気にしないで欲しい所だが、そうもいかないだろうね。なので、投資だと受け取ってもらって構わない」
「投資ですか……」
だいぶ投資額が多いようだが、さりとて拒否は出来ないし、出来ても失礼だ。
「わかりました。では、なるべく早く見合ったお返しが出来るように頑張ります」
「期待している。ただ急ぐ必要はない。先の構想を聞く限り、時間を要するだろうと予想はつくからね」
ありがたい大人の気遣いに頭が上がらないと思うと同時に、自身の周りにいる大人との落差に少し乾いた笑いが心に木霊しそうなシェルディナードだった。
ありがたくお土産を頂戴し、シェルディナード達は城を後にする。
「うあ〜……肩凝ったぁ」
屋敷に帰ったディットの第一声はそれだった。
「お疲れ。ディット」
「いや、まあ、本当に疲れたのは坊だろうけどな」
ゴキゴキ首と肩を鳴らしつつ、ディットはホットチョコレートを作って、ソファの背に身体を預けるシェルディナードの前に置く。
「うーん。予想以上に良くしてもらったのが驚きだったかな」
疲れよりびっくりした感が強い。
「冗談じゃなく、少し急ぎで基礎は固めないとダメそうだし」
「……最後のやつとか、俺だったら怖くて受け取れねぇよ」
真珠の類までは予想というか期待があった。だが、その後が出てくるのは完全に頭になく。
「虹珊瑚って一枝……それも指一本分くらいの小枝でも軽く領地予算の数カ月分になるんだけど、ね」
今回ニンフェリアドがお土産として持たせてくれたのは、子供の腕一本分くらいの、まさしく枝。
相当高価なのだろうと予想はしていたものの、指ほどの小枝でそれで、なら貰ってきたのは……と考え、ディットは自分のマグカップに口をつけた状態で固まった。
「ディットの言った最後の水琥珀なんて……」
「いや、いい。坊、みなまで言うな。怖ぇから」
最早ディットにとって呪いのアイテムレベルで近づきたくないもの判定される。怖くて触るのも近づくのも嫌だ。
「大事に有効活用しないとね」
うんうんと頷くシェルディナードに、ディットは何とも言えない顔をする。
「あ。蒼銀真珠はサラにもあげよ」
あの大きさなら、きっと喜ぶだろうとシェルディナードは微笑んだ。
「サラ坊に?」
「うん。人形のパーツになりそうだから」
「色んな意味で怖ぇよ。そんな高っけぇもんで作るな!」
「呼んだ? ルーちゃん」
「――っ!?!?」
唐突に場に現れた姿と声にディットが垂直に跳び上がる。
ワタワタとマグカップを落としそうになって慌てるディットには目もくれず、サラはシェルディナードの隣に座った。
一度帰って着替えたらしく、白い長袖の柔らか素材のブラウスに黒いズボンのシンプルなものだ。
「っ、サラ坊! いきなり出てくんな!」
「何やってるの、ディット。お茶、は?」
「淹れるよ! いつもので良いか!?」
「ん」
寿命が縮むとブツブツ文句を言いつつ、ディットはサラがいつも飲むお茶の用意をする。
「ルーちゃん、うまく、いった?」
「うん。大成功」
OKと言う様に片手の親指と人差し指で輪を作って見せるシェルディナードに、サラはコクリと頷いた。
「じゃあ、次、だね」
「そうだな」
「明日?」
「早い方が良いもんなぁ。そうする」
「わかった」
「おいおいおいおい、ちょっと待て。俺にも予定は共有しろ。二人だけでわかるな」
お前ら何でそれで意思疎通できてんの!?
そう顔に出しつつ、ディットが二人の会話に割って入る。
「ディット、明日は朝から領城に行くから」
「決定事項かい! わかったよ! 次からもう少し早く言え」
「はーい」
「伸ばすな」
サラの前にティーカップを置く。
「で。領城ってことはまた図書室か?」
「んーん。外。飛竜のところ」
「……なんて?」




