表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/38

続々・十一才 ご挨拶にいく件3

「どうしたの? ディット」

「いや。何でもねぇよ。所で、何かめっちゃ深くねぇか?」

「そりゃそうだよ。ディット、よーく見て」

 シェルディナードが立ち止まって湖を指差す。

 目を凝らしたディットは見えたものに固まった。

「はぁ!?」

 遥か下の水底(みなぞこ)に都市がある。

「いや、深くねぇか?」

 小さく建物や住人の姿が見えるという事は、それだけの距離があるということ。

「そうだよ。言ったでしょ。水棲魔族の領地、その領都だって」

「てっきり水辺近くにあるんだと思ってたんだよ」

「まあ、そういう村とかもあるみたいだけどね」

 ゆらゆらと揺らぐ水の都では、ボンヤリとだが灯りも灯されている。

「この領地特有の鉱石や植物、魚とか微生物なんかを使った灯りだよ。面白いよね」

「すげぇとは思うが……。なあ、坊。まさかあそこに行くとかねぇよな?」

「はは。今回はそんな時間ないよ。行くならまた今度」

「良かった。……俺は行きたくねぇよ」

 ブルリとディットは身体を震わせ、その光景から目を逸らす。

 行くにしてもシェルディナードもディットも水棲魔族ではないので、それなりの準備がいる。

 いずれは、と思いつつもシェルディナードはスタスタと真っ直ぐ城へと進んだ。

 氷路の終着は、繊細な細工の手摺を頂く半円のポーチ。白い石造りのそこへ上がる。

「おい。溶けて消えたけど帰れるんだよな?」

 二人が上がった時点で湖に溶けて消えた背後の氷路にディットが不安げな声を上げた。

「大丈夫。よほどの事しなきゃ、ちゃんと帰れるよ」

 ニコニコと笑むシェルディナードにディットが胡乱げな顔をする。

「坊。本当に大丈夫なんだよな? 頼むぞ」

「あはは。なに心配してるのディット。やだなぁ」

「おい。本気で頼むからな!?」

「ディット。他所のお家なんだからもう少し静かにね」

「〜〜っ」

 ガラスの大きな両開きの扉が開き、昼の光がふんだんに取り入れられた城内は明るくその姿を見せた。

 足許(あしもと)には赤に金糸の入ったカーペットが敷かれ、品の良い調度品が彩りを添えている。特に彫像の類が見事で、城全体が美術館のようだ。

「お待ち申し上げておりました」

 城内へ入ったと同時に初老のモーニングコートを着用した男性が静かに礼をとる。

 かっちりと灰蒼(アッシュブルー)の髪を撫で固め、薄く赤紫に見える瞳に上品な微笑を浮かべた紳士。硬質で汚れ一つない真っ白な折り返し襟(ウィングカラー)のシャツに黒いネクタイ、黒のダブルブレスト、黒とグレーのストライプズボンに黒い革靴。

「わたくし、家令(ハウススチュワード)のシノニムと申します。以後お見知りおきを頂けますと幸いです。シアンレードのお客様を主人の許へご案内する役目を仰せつかりました」

「ありがとうございます。よろしくお願いしますね」

 丁寧に案内され、シェルディナードとディットは応接室へと通された。

「旦那様、シアンレードのお客様をご案内致しました」

「入れ」

「失礼致します」

 シノニムが恭しく扉を開け、シェルディナード達に入室を促す。

「ようこそ、シアンレードの次代。歓迎しよう」

 採光の大きな窓と繊細な装飾が煌びやかではあるが上品という絶妙なバランスで保たれた室内に、湖面の水色を映した髪と瞳の男性が佇んでいた。

 細身ながらも引き締まった体躯だというのがビシッと着こなしたダークブルーのスーツの上からでもわかる。城や室内と同じく、品格というものを漂わせるこの男性が、この領地の主。

 次代呼びに思わず「やめてください」という言葉が喉元まで迫り上がったシェルディナードだったが、なんとか笑顔で礼を述べる。

「アクアリウスの当主様にご挨拶申し上げます。シアンレードの子、その末席。シェルディナードと申します。以後お見知りおき下さい。こちらは私の従僕です」

「お初にお目もじ叶います。ケットシーのディットでございます」

 借りてきた猫のようにディットがそつなく礼をとった。

「掛けてくれ。シノニム、用意を」

「畏まりました」

 ローテーブルを挟んで一対の長ソファにシェルディナードとアクアリウスの当主がそれぞれ腰掛ける。ディットは従僕として紹介された為、シェルディナードの斜め後ろに立って控えた。

 アクアリウス当主とシェルディナードの前に香り高い茶のティーセットが置かれ、改めてアクアリウス当主が名乗る。

「アクアリウスの当主、ニンフェリアド・アクアリウス・ケルピアだ。シアンレードのご当主からはフェアドと呼ばれている。次代もそう呼んでくれて構わない」

「恐れ入ります。では、フェアド様と」

「ああ」

 ニンフェリアドがティーカップに口をつける。

 シェルディナードも同じようにティーカップに口をつけ、一口含む。

 果実のような甘みとジューシー感、アンズの類に似た酸味を感じるお茶だ。

「美味しいです。これが噂に高い湖水アンズを使った紅茶ですか?」

「そうだよ。気に入ってくれたようで嬉しい限りだ」

 そんな会話をしている間にもローテーブルの上にはシノニムにより季節のタルトや特産の果物のコンポート等が並んでいく。

「どれでも気になるものがあれば食べると良い。こちらの水苺の琥珀糖は息子も好物でね」

「頂きます」

 ニンフェリアドにはシェルディナードと同い年くらいの息子がいる。そのせいもあってかニンフェリアドはシェルディナードに近所のおじさん的な接し方で、場は和やかにゆったりとした雰囲気を漂わせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ