21. 続・十一才 適材適所な件5
「で。説明してもらおうか? 死んでたって、なに」
「えーと」
横にはジト目のサラ。前にはチンピラみたいに凄むディット。
逃げられない事はなくもない。が、流石にやっちゃダメだろう。
「ちょっと予想より急激に魔力消費しちゃって、つい」
「ルーちゃん……つい、じゃ、ないよ」
「サラ坊。わかるがちょっと先続けさせて。死んだって事は、今の坊は何」
「生き返りました」
無言でディットが見つめてくる。いやホント。
「俺、不死者のハーフじゃん? で、うちって三つと七つで魂を身体とは別のとこに移すんだけど」
ツッコミたいのだろう。それを我慢しているディットを見つつ、シェルディナードは続ける。
「魂を身体とは別に移された器を『聖句箱』って呼ぶ。そっちに魂を移されると、身体が破損したりしても時間が経てば生き返るって話」
勿論、楽に生き返るわけではない。
(一度で二度苦しいんだよなぁ)
死んだ時、そして生き返る時。同じような痛みと苦しさを味わう。生き返る時は逆再生するような感じだ。
「今回は、魔力が予想以上に抜き取られて死んじゃった」
「ぼぉぉぉぉうぅぅぅ~……。死んじゃった、てへ。じゃねえぇぇぇ!」
「あはは。ゴメンゴメン」
「ルーちゃん……ゴメン、じゃ、すまない、よ」
サラの表情は暗い。勿論それはシェルディナードだから『暗い』とわかるのであって、きっと他の者からすればいつもと変わらないように見えるだろう。若干ジト目には見えそうだが。
生き返るとわかっていても、目の前で親友に死なれればさもありなん。
「うん。ごめんな。サラ」
「むー……。本当に、わかって、る?」
「大丈夫だって。もう加減わかったし、次は住民登録で死ぬことないから」
本当にわざとじゃなく、どれだけ魔力が消費されるか不明だったからの今回だ。わかれば同じ轍は踏まない。
「にしても、人間の登録ってそんなヤバいのか?」
「んー。そうみたい。まあ、そもそも人間を登録すること自体、想定した造りになってないし。そこに無理矢理ゴリ押しで捩じ込んだから、反発と無駄な消費が凄くて」
「あ、って、思った、ところ、で、やめようよ。ルーちゃん……」
「やめたらやり直しになるじゃん。それにギリギリいけるんじゃないかなって思ってさ」
まあ結果はギリギリいけなかったのだが。
「他のやつに手伝ってもらうとか、それこそ坊でギリなら、サラ坊だったら魔力量余裕だろ? 魔力量が増えるまで代わってもらうとか」
「ダーメ。サラは友達だけど、うちの領じゃない。他領の跡継ぎにそんな事させられるわけないでしょ、ディット」
「う」
「そもそも、領の住民登録は、それぞれの領で現領主の血をもつ奴しか出来ない仕組みになってる。基盤術式は全て一緒だからね」
領主が例えば変わった際、直系ではなく傍流に切り替わると、前領主の直系は住民登録の執行は出来なくなり、反対に今までその権限を持っていなかった切り替え後の領主の子達が自動的に執行の権限を有して可能になる。
そういう大元の切り替えなど例外はあるが、基本的にはその時の領主の直系だけが干渉と執行の権限をもっているのだ。
「つまり、今この作業が出来るのは俺と、現領主の父、兄貴達。で、誰に頼める?」
いない。あのク……父は俺達に対しての試験として領地運営を課している最中だ。交渉次第ではアリだろう。
(絶対ぇ、適正以上の対価要求してくるだろうけどな)
まだボッタクリ商人に騙された方がマシな末路が容易に浮かぶ。ナシ!
兄貴達は論外。人間の事など眼中にないのに、人間を住民として、人として認めるなんてあり得ない。
母や第一夫人は領主の直系ではないので無理。
「…………居ないな」
「でしょ?」
「でもなぁ、坊。俺、ずっと思ってたンだがよ。坊一人で抱え込み過ぎじゃあねぇか?」
まっさら更地状態の領政基盤の構築。法の制定、執行。兄達の領分である分野の政と治安維持の武力部分も整備。加えて貴族令息としての諸々学習。
「まあ、ずっとやれって言われたら流石に無理だけど」
「だろ? しかも最近完徹どれくらいした? ガキがんな事すンじゃねぇよ。夜はきっちり寝ろ」
「そうするために、初めだけは俺の分担。俺の信条は適材適所。その適材を揃えるのが今のターンなの」
コツコツ地道に探して目星つけて交渉してゲットするのがシェルディナードの仕事だ。ゲットした人材には適した仕事と職場を任せる。
これが出来るようになるまでは休めない。多少の無理もしなければならない場面もあるだろう。
「俺だって休みたいから、なるべく早く人材確保するけどさ」
(で。それより先に今は)
シェルディナードがソファから立ち上がる。
「ディット、ちょっと出掛けてくる」
「は? いやいや、何言ってんの」
「流石に魔力根こそぎされた後だと、すっごくお腹すいちゃうんだよね」
「んだよ。なら、今すぐ俺が」
「ディット」
「なんだよサラ坊」
「それ、じゃ、ない」
「は?」
サラがディットに首を振って見せ、シェルディナードが薄く笑った。
「サラの言う通り。今、俺に必要なのは――」
――喰人鬼の食事だ。
カレンデュラの更新を再開します。




