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17.続・十一才 適材適所な件1

続・十一才 適材適所な件1




「なんだここ……」

「ロビン達のお仕事する場所、(けん)住む所かな」

 シェルディナード達とロビン達の前にあるのはそれなりに……いや、どう言っても大きな、お屋敷だった。

 レンガの花壇(かだん)洒落(しゃれ)たデザインの黒い鉄柵と同じくデザインされた門。その先にはコの字型でオフホワイトの壁と赤い屋根の屋敷。玄関の前には噴水があり、どう見てもついさっきまで廃墟住まいだった浮浪児が来る場所ではない。

 思わず主にロビンがシェルディナードに警戒するような視線を向ける。

 警戒というか、もう恐怖心の(いき)

「さ。入って入って」

 それを知ってか知らずか、シェルディナードは門を開けてロビン達に先を促す。

 辺りをキョロキョロと見回しながらおっかなびっくりという様子で子供達はついてくる。

 ロビンは小さな子供達に服の左右と後ろを(つか)まれていて、よくそれで歩けるものだとシェルディナードは感心した。

「坊。ここって昨日完成したばっかだったよな?」

「そう。流石センナ嬢だよね。昨日の今日で環境整えちゃうんだから」

 建物には少し年月を感じさせる(ツタ)が絡み、生け(がき)花壇(かだん)の木々も昨日生えたとは思えない落ち着きがある。真新しい建物の(はず)が程よく落ち着いた年月を感じさせるのは、ひとえに彼女が子供達に対して緊張(きんちょう)を少しでも軽くしようと整えた結果だろう。

「多分、中も同じだよ」

 出来立てのペンキや建築物の臭いはしないだろうなとシェルディナードは呟く。

 少しだけ段差のある白い半円型の玄関ポーチに上がり、輪を(くわ)えた獅子(しし)の頭を(かたど)った真鍮(しんちゅう)のノッカーを備えた、(かし)製の両開き(トビラ)を前にシェルディナードは振り返ってロビンに示す。

「じゃ、ロビン。最初のお仕事。代表として、君がノックして」

 ごくりとロビンの(のど)が上下した。まとわりついていた子供達に手を離してもらい、ロビンは微かに指先を震わせながらもしっかりとノッカーの輪を握って鳴らす。

 小さな音を立てて扉が内側へと開いた。

「ようこそ。会えて嬉しいわ」

 中から出迎えたのはこれからこの場所で子供達を育てる女性、センナだ。

(あー。なるほど。これが聖母)

 鳥肌を立てて固まるディットを横目に、シェルディナードはセンナを見て納得(なっとく)した。

 姿はいつも通りの彼女(センナ)だ。特に変わっていない。

「私はセンナ。これからみなさんと一緒に過ごす者です。よろしくお願いしますね」

 柔らかな笑みには好意しかなく、それはロビンとその弟以外の言葉がわからない子供達にさえ感じ取れる純粋なもの。いくら警戒という針がいっぱいのハリネズミ状態でも、針を逆立てるのが馬鹿らしいと思えるほど、センナの(まと)う空気は柔らかだ。

「シェルディナード様。ご紹介頂けますか?」

「うん。まず、一番年長でまとめ役のロビン。ロビン、他の子の紹介ヨロシク」

 他の子供達同様、センナの雰囲気にぼーっとしていたロビンが呼び掛けにハッとして(われ)を取り戻す。一通りの紹介が終わると、センナは視線を合わせる為に膝をつきながら、一人一人の目を見ながらその名を呼んでいく。

「さあ、入って」

 両扉を開けると玄関広間(げんかんホール)が姿を現した。

「うわ」

 ロビンの口から思わずだろう声がこぼれる。

 開けて直ぐに扉の幅に合わせた半円の玄関マットがふかふかと足を包む。

 外観から予想出来たが、やはり広く、白を基調にして薄い緑の植物模様が入った壁紙としっかりとしたチョコレート色の柱が見えた。床は木製のタイルが敷かれて、組み木のそれは三色の色違いの木が組まれている。

 広間(ホール)から二階への階段が緩やかに両腕を広げていて、天井からは大きな(まゆ)のような満月型の灯りが()げられ、どこからともなく美味しそうなパンの焼ける匂いが鼻をくすぐった。

 ロビンも含め、子供達の腹が音を立てる。

「うふふ。やっぱりお腹空いてるのね」

 広間の(すみ)に置いてあった滑車(かっしゃ)付きの半球型の水瓶(みずがめ)とふんわりとした白いタオルを載せたワゴン車を子供達の前に移動させ、センナが石鹸を泡立てて子供達の手を優しく洗う。それぞれの手をタオルで拭いていく。

「さあ、ご飯にしましょう」

 そう言って食堂へと子供達を連れて歩き出す。

『坊、あれ大丈夫か?』

『大丈夫。というか、ディットは何が心配なの?』

 センナに大人しくついていく子供達の少し後に続きながら、ディットとシェルディナードは小声で話した。

『洗脳とか使ってねえ?』

『あはは。無いよ。大丈夫』

 あくまで真顔で聞いてくるディットの言葉をあっさり否定して、シェルディナードはサラを振り返る。

「ね。サラ」

「うん。なんにも、して、ない」

「うお。まだ居たのか。サラ坊」

 あまりにも静かかつ気配が無かったから、てっきり帰ったかと思っていたディットが一瞬尻尾をピンと立てた。

「いる」

「サラは気を(つか)って気配薄めてくれてたから」

 捕まえた時に少し怖がらせたのか、子供達がサラを気にしてそわそわと落ち着かなかったので、サラは少しずつ気配を薄くしてついてきた。いきなり気配を消すとそれはそれでびっくりさせる可能性もあったからだ。

 そこにあったはずのものがいきなり消えたら驚くだろう。たとえそれがちょっと怖いな、と思っていたものでも、変化という部分では同じだから。

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