表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

15.十一才 基盤作りにいそしむ件4

 ディットが片手の(てのひら)で顔を(おお)って(うつむ)き、身を屈めるように丸くなっていた。

 シェルディナードの数歩後ろではサラが静かに(たたず)んでいる。

「――! ――――!!」

 リーダーとおぼしき赤茶けた髪の少年が恐らく怒号(どごう)または罵詈雑言(ばりぞうごん)を、子供を人質にしたシェルディナードに向けている。

 恐らく、と言うのは相手の言葉がわからないからだ。

「うわあぁん!」

「ほらほら、泣いてばっかだと、死んじゃうよ? 嫌なら、ちゃんと伝えないと」

 子供を後ろ手に捕まえ、その首にしっかり手を添えてイイ笑顔で言う台詞ではない。いや、合っているが、どこからどうみても悪役だ。

 軽くシェルディナードが首を掴む手に力を入れる。

「――!」

 すると、命の危機を感じたのだろう子供が息をのむようにして黙り、固まった。静かになった子供に、シェルディナードが(ささや)く。

「うん。良い子。じゃあ、言って」

「あ……あぁ、あん、ちゃん、ひっく、……なんも、しないで、こっち、来てっ、うぅ」

「――――っ」

 子供の言葉に、少年は焦燥(しょうそう)を顔に浮かべながらも、意を決したようでジリジリとゆっくり近づいてくる。

『ディット、どうしたの? 何か問題でも起こった?』

 俯くディットにシェルディナードが小声で問い掛けた。

『……ああ、いや別に。どうみてもフォローできねぇくらい坊が卑劣漢(ひれつかん)に見えること以外は問題ねーよ』

 その言葉にシェルディナードがクスクス笑いながら小さく肩をすくめる。

 その間もシェルディナードの赤い瞳は近づいてくる少年から離れない。

「止まって、膝をついて動かないように言ってね」

「あんちゃん、と、止まって。ひざ、ついて、うう動かない、で」

 ギリッと少年が(くちびる)()んで、言われた通りにするのを眺める。シェルディナードの後ろにいたサラが音もなく少年に近づくと、その片腕を掴まえ背で拘束(こうそく)し、もう一方の手首を掴んだ。

「他の子にも、動いちゃダメって言ってくれる?」

「み、みんな、うご、動かないで!」

「良くできました。……ディット」

「へいよ」

「やって」

「…………わかった」

 もう完全にディットもサラも悪役一味である。

 一番年上のディットが断トツの下端(したっぱ)感。

 すまなそうな顔で近づいてくるディットに、サラに拘束された少年が鋭い視線を向けた。

 ごめん。ほんとごめん。そう言いそうになりながら、ディットが近づく。

 一瞬少年が身動(みじろ)ぐような仕草(しぐさ)を見せたのだが、少女のようなサラの拘束がびくともしない事に驚いたのか、目を見開いた。

「今だよ。ディット」

「わぁってるよ」

 手首をサラに掴まれた方の少年の掌に、ディットが魔術で熱した刻印(スタンプ)を押し当てる。

 少年の口から痛みと熱に悲鳴が飛び出す。

「あんちゃん! うわああああああぁ!」

「はいはい。ごめんね。落ち着いて。大丈夫だから」

「ちっ、くしょうっ! ケビンを放せっ!」

「ん。成功したね。ディット、お疲れ様。印が消えない程度に治してあげて」

 少年が叫んだのを聞いて、シェルディナードがディットに指示を出した。

「放せ! 放せよこの野郎!」

「あー。無理だろうが落ち着け、坊主(ボウズ)。もう痛てぇことしねぇから。な?」

「信じられるかっ! このっ」

「うるさい」

「~~っ!」

「こら! サラ坊、やめろ。坊主の腕折れるだろ!」

「だってうるさい……」

「うるさくてもすんな!」

「サラー。悪いけど、我慢(がまん)して」

「むぅ……。わかった。ルーちゃんが、そう、言うなら」

 暴れそうな少年をサラがしっかり拘束している間に、ディットが刻印を押された少年の掌を魔術で(いや)す。それを見ながらシェルディナードは自身が捕まえている子供に言う。

「ケビン、で良いのかな? 怖がらせて、ちょっと痛い思いさせて、ごめんね」

 (おび)えてガタガタ(ふる)える子供にも、少年と同じ刻印が片手の掌にある。勿論、すぐに癒して痛みはもう無いはずだが。

「もう放してあげたいんだけど、あと少しだけ、ここに居てくれる?」

 シェルディナードは静かに首に添えていた手を離す。それでも相変わらず心臓が激しく音を立てているのだろう。子供はブルブルと震えたままだ。

「あんちゃんとのお話が終わったら、放してあげる。だから、静かにしてて、ね?」

 子供が小さく頷くのを見て、シェルディナードは少年に声を掛ける。

「ねぇ、あんちゃん」

「はぁ!? ふざけんな! お前にそう呼ばれる覚えはねぇよ!」

「あ。ちゃんと聞こえてるね。じゃあ、本題」

「おい! 無視すんじゃねえ!」

「この子を殺されたくなかったら、黙って聞いて」

「坊……笑顔で言うな」

 捕まえられていた子供がシェルディナードの言葉にビクッと震え、少年が憎々しげな顔でシェルディナードを睨み付けながらも口を閉ざす。ディットは自身の雇い主の悪役ムーブに再び顔を手で覆って天を(あお)いだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ