頭
虎雅「ちょちょちょ…待ってください!」
2人とも走ってるの?なんなの?
すごく足が早すぎる。
世永「あ、ごめんごめん。普通に歩いちゃった。」
樂「お前歩くの遅すぎ。」
虎雅「すみません、僕走ります。そのまま歩いてください。」
と言ったはいいけど、走っても距離が全く縮まないまま頭の屋敷についた。
徒歩10分の距離じゃないんだけど…。
いつもランニングしてなかったら追いつけてなかったな。
世永「虎雅もこれから特訓すれば、このくらい楽に歩けるようになるから頑張ろうね。」
樂「はい…。」
息を整えて汗を拭く。
世永「じゃあ入ろっか。ただいまー。」
虎雅「え?…お邪魔します。」
樂「入りまーす。」
3人で大きい門をくぐり、玄関へ向かう。
さっきの屋敷も凄く広かったがここはもっと広い。
庭だけでも5倍くらいあるんじゃないだろうか。
ここから見える庭は白菊が咲き乱れていた。
その庭にぽつんと1人庭の手入れしている人がいた。
ふわっと風が吹き菊の香りが鼻に届く。
「あ、こんにちはー!」
せいさんが庭にいる人に声をかける。
「世永さん、こんにちは!」
可愛らしい、頭の上にお団子二つある女の子が
せいさんに近寄る。
世永「頭に会いに来たんだ。今いるかな?」
「はい!先程お仕事がひと段落したので、声かけてきます。」
どうぞ、と縁側の近くの部屋に通される。
世永「やっぱりいいね、ここは。気持ちが落ち着くね。」
せいさんは縁側で寝っ転がる。
虎雅「そうですねー。」
せいさんと一緒に庭を眺める。
樂は部屋の奥で軽く仮眠をしようとしている。
「お茶お持ちしました。」
あの女の子の声だ。
世永「ありがとう。」
「もう少し待ってくださいね。」
虎雅「ありがとうございます。」
「新しく入る方ですか?」
虎雅「はい、佐伽羅虎雅です。よろしくお願いします。」
「私は白露 愛芽李です。よろしくお願いします。」
ペコっと会釈をして部屋を出て行ってしまった。
ふわっと菊の香りがして、なぜか少しドキッとしてしまった。
ほわほわした気持ちでいると足音が2つ聞こえてきた。
世永「来たかな。」
と、世永さんが起き上がり用意された座布団の上に座る。
世永「2人もこっち座って俺の真似しといて。」
と言って、せいさんは正座をして頭を下げた状態で、動かなくなった。
樂と顔を見合わせてとりあえずやろうとアイコンタクトして同じ格好をとる。
ちょうど頭を下げた時に襖が開く音がする。
「お帰り、世永。皆頭をあげてください。」
しっとりとした女性の声。
頭をあげるとさっきお茶をくれた愛芽李さんが頭の手を引いて僕たちの前に立っていた。
頭は顔に布をつけていて、その布には紋章のようなものが書いてある。この家の家紋だろうか?顔は見えないが黒髪でロングヘアの身長は160センチないくらいの小柄な人だった。
世永「ただいま、姉ちゃん。体の調子はどう?」
頭「今日はいい感じだよ。世永は元気そうだね。」
世永「うん、姉ちゃんの薬はよく効くからね。」
世間話を始める姉弟。
頭「そういえば今日新しい子を連れてきてるみたいだね。」
僕の話になる。
世永「うん、頭に傷があるんだ。」
頭「そうかそうか。君も大変だったね、触ってもいいかな。」
虎雅「え?あ、はい。」
愛芽李さんが頭の手を引き僕の頭に頭の手を置く。
すると頭は体をかがめて僕の頭を探る。
頭「ここだね、結構大きいのが噛んだね。」
そう話しながら、僕の頭を触る頭の顔が布の隙間から見える。
すごい傷だ。
頭の首あたりから伸びる傷は 口、鼻、目、頭まで一直線に繋がっている。
体ではなく目が見えないからここで指揮をしているのか。
頭「君はどこでこの傷を?」
虎雅「去年の夏に土砂崩れにあった時に出来ました。」
頭「あの災害か。ごめんね、助けられなくて。」
虎雅「頭のせいではないので謝らないでください。」
頭「あなたの家族も失ったでしょう?あれは抑えきれなかった私たちのせい。申し訳ない。」
僕の頭を触っている手が小刻みに震えている。
この人のせいではないのに涙を流している。
頭は体制を起こし、愛芽李さんの手を握る。
愛芽李さんが用意した椅子に座り、深呼吸をして話始めた。