朝まだき
次の日の早朝。
人の体温で温かい部屋の換気をしながらこの屋敷独特の朝の匂いを感じて見ようと思い、出窓に手をかけガガガガと立て付けの悪い音をさせながら、窓を開けた。
ツンと寒い空気が僕の顔と体を包み込む。
匂いをめいいっぱい肺に貯めようとすると、目線の下で何か二つの影が動いているように見えた。
そこに目をやると、豪さんと今まで見たことない大きさの凶妖の狼。
縦4m近くありそうなくらい大きくて、この二階の窓から乗り出して思いっきり頑張ったら手が届きそうな位だった。
豪さんはその凶妖に向かって何か話している。
ただ一方的に話しているのか凶妖の反応は全くない。
僕は声が聞こえるはずなのに、何も聞こえなかった。
本当に何も思わず、豪さんの言葉をただひたすらに受け取っている様子だった。
こんないい凶妖もここにはいるんだなと嬉しがっていると豪さんと目が合う。
豪「どうした。」
虎雅「おはようございます!朝の匂いを嗅ごうと思って!」
豪「幸田と梵唄も連れて、下に降りてこい。」
虎雅「はい!」
僕は窓から頭を引っ込めて二人を起こし、寝間着のまま豪さんが待っている庭に行った。
すると、そこにはもうあの大きな凶妖は居なくなってしまった。
少し残念だった。
下から見たらど迫力だっただろうにな。
絢愛「おはようございます!」
豪「おはよう。」
虎雅「おはようございます。なんで僕たちを呼んだんですか?」
豪「お前達の色を教えようと思ってな。」
樂「色?」
豪「そうだ。向日から見透極通習っただろう?」
絢愛「はい!習いました!」
豪「きっと色の事は教えてもらえなかっただろう。」
虎雅「教えてもらいましたよ。生が白で、死にかけが灰色で、死んでしまったら黒って。」
豪「…それは向日の目に問題があるからそう言わざるを得なかった。人の色がわかる前に凶妖に色彩を奪われてしまったからそう言ったんだろう。」
虎雅「…?」
豪「凶妖に色があるように、人にも色がある。普段はその色は淡くて白っぽいのが通常だ。そして死に近いほど色が黒ずんでくる。死以外にも色が変わる時があるその時は人が凶妖化するとき。」
人が凶妖化…?
僕が首を傾げていると、樂が教えてくれる。
樂「あのネズミに噛まれたとき、屋敷に帰った後気を失っただろ?あのときお前は凶妖の妖力に体を奪われそうになっていた。」
虎雅「暴れたとき、僕が凶妖になりかけてたってこと?」
樂「そうだ。凶妖の妖力と念が自我を抑えてそいつを乗っ取ろうとするんだ。」
僕が凶妖になりかけていたのか…?
豪「凶妖化をしてしまった人間は、身体能力が高い人間ほど身柄が抑えられなくなる。一度奪われきってしまえば最後人間としての生活は出来ない。」
なりかけていた上に、僕はあのとき人間を捨てられようとしていたのか。
豪「だから凶妖の色も、人の色も分かるようになった方がいい。その人間の心情が見えなくとも、その色の変化で凶妖になりかけているのか分かるようになる。」
虎雅「…あの、人が凶妖になってしまった場合、災獣園で妖力を取ったりするんですか?」
豪「いや、凶妖になってしまった人間はもう人としても動物としても生きていけない。だからそこで首を切り落とすしかない。」
絢愛「どんなに大事な仲間でもですか…?」
豪「そうだ。そうしないと凶妖化した人間は人間もほかの動物も無差別に殺す殺人鬼になってしまう。だから俺たちが仲間を殺人鬼にさせないために殺すしかない。」
絢愛さんは下を向き、何も話さなくなってしまった。
豪「凶妖化をさせないためには、元のその人間の色を知ることが重要だ。この中で人の放つ色を見たことがある奴はいるか?」
虎雅「…色はないですが、モヤっと白い光は見えます。それで二轅を見つけました。」
豪「なるほど、佐伽羅はコツを掴めばすぐに見えるようになる。お前達は?」
樂「ないです。気配のみです。」
絢愛「私もです…。」
絢愛さんは手で目下を拭いて前を向く。
豪「そうか…。幸田は耳がいいんだったな。龍門に教えてもらえ。凶妖は独特の心音がする。それが人間から聞こえたなら目で見えなくても大丈夫だ。
嵐から聞いたが、梵唄は鼻がいいらしいな。俺と一緒に凶妖の匂いを嗅ぎ分けるようになろう。
凶妖化するものはなりかける時に獣臭が強くなる。それをわかるようになろう。
佐伽羅は二轅に教えてもらえ、あいつは目がいい。」
「「「はい!」」」
まだ夜が明け切っていない暗い時間から3人個別の訓練が始まった。
僕は絢愛さんと一緒に二轅と龍門の部屋に向かうことにした。




